第25話 三国志な遊園地
「ハハハッ、これはいいな!」
サミアさんが楽しそうに笑っていた。
隣のラティファさんもそんな姉を見て嬉しそうだ。
アリサちゃんも歓声を上げて楽しんでいる。
バイキング船を模したアトラクションが今度は背ろに向けて勢いよく加速していく。するとまたみんなの歓声が上がった。
今日は遊園地に来ていた。
あの姉妹は立場的に基本はアリサちゃんの屋敷にこもりっぱなしなので、休日くらいはどこかに遊びに行って気晴らしと地球の社会見学を兼ねようという趣旨だった。
「よーし、次はアレに乗ろう。アレに」
サミアさんが目をキラキラとさせている。やっぱり活動的なアトラクションが好きなようだ。
「いえ、次はぜひアレにしましょう。なんだかとてもエキゾチックで面白そうです」
ラティファさんが指さす先には、遊園地の定番ともいえるお化け屋敷があった。
するとなぜかサミアさんの顔が曇る。
「ア、アレ……か。なんだか少し、おどろおどろしくないか?」
「そうですか? きっと姉さんも楽しめると思うのですが」
「そ、そうだろうか……」
「ひゃあっ!」
急に照らし出された落ち武者の姿に驚いてサミアさんが悲鳴を上げる。
入口からオドオドしっぱなしで、無意識にか僕の服の袖をギュッと強く握っている。
どうやら、幽霊とかが苦手なようだ。普段は毅然としたサミアさんの意外な弱点といったところだろうか。
「う、うわあっ!!」
急にガシャンと上から現れた骸骨にサミアさんがついに僕に抱き着いてきた。
む、胸が、大きな胸が僕の腕にムニュっと押し付けられる……。
「だ、だから嫌な予感がしたのだ……」
涙目で完全に腰が引けて今にも床に崩れ落ちそうだ。不謹慎だけど、とても可愛らしいと思った。
「いえ、やはりとても有意義な施設です」
ラティファさんがそんなサミアさんを満足げに見つめていた。
そしてその状況にアリサちゃんが食って掛かる。
「ちょ、ちょっとあんた、闇に紛れて何してんのよ!? お、お兄ちゃんから離れなさいよね!」
だけどサミアさんはそれどころじゃない。震えながら強く僕にしがみついたままだ。
「怯えたフリしてお兄ちゃんを誘惑するなんて卑怯よー!」
息も絶え絶えなサミアさんと、抱き着かれてドギマギする僕に、いきどおるアリサちゃんをドウドウとなだめながら遠巻きに僕らをうっとりと眺めるラティファさん。
何というか、お化け屋敷はいろんな意味で阿鼻叫喚だった。
「も、もう嫌だ。二度とあそこには入らない……」
「そうですね。あんな施設だとは知らなかったものですから。ごめんなさい、姉さん」
近くのベンチでよしよしとラティファさんが姉のサミアさんを慰めている。
僕はといえば、ガルルルッと興奮冷めやらない様子で姉妹に抗議しようとするアリサちゃんを必死に抑えていた。
「ア、アリサちゃん。アレは不可抗力だから。お願いだからもう落ち着いて」
「ウソよ! あの姉妹はあの状況を企んでたのよ! あんの女狐め~」
うんまあ、約1名は絶対に企んでいた気がしないでもない……。
どうにか状況が落ち着いたところで、次はどこに行くかという話になった。
「では次はあの大きくゆったりと回るアトラクションはどうでしょう」
どうやらラティファさんは観覧車のことを言ってるらしい。
「そ、それはダメ! あれは夕方に私がお兄ちゃんと一緒に乗るの!」
「まあ、そうなんですか。それはとてもロマンティックですねえ。
でもそれなら、兄妹ではなく恋人同士が乗った方がいいのではないですか?」
「なにあんた? それは私にケンカを売ってるの!?」
今度はラティファさんがアリサちゃんと険悪な雰囲気になる中、なぜか恥ずかしそうに照れるお人がいた。
「じ、実は自分はアレが最初から気になっていたのだ。と、逃亡防止に、一緒に乗って見張ってくれると、ありがたい」
サミアさんがもじもじと僕に申し出る。
まあ確かに、サミアさんを力で抑え込むにはアリサちゃんより僕の方が適任だろうか。
たぶんそれでも僕が余裕で負けると思うけどね?
「ちょ、なに堂々と抜け駆けしてるのよ!?」
「ぬ、抜け駆けではない。て、適材適所だ!」
「捕虜用のその首輪がある限り逃亡なんてできるわけないでしょ!? あんたはそこの妹と一緒に乗って、できるわけない逃亡計画でも二人で練ってなさいよ!」
「いーや、それは危険な思考停止だ。私には男の聡殿による監視が必要だ」
またもや言い争いが始まってしまった。
「ふ、2人とも落ち着いて。それなら4人で乗れば…」
そう言いかけた僕の肩にそっと手が置かれる。
振り向くと、ラティファさんが穏やかに首を振っていた。
「やらせておきましょう。無邪気なたわむれです」
「そ、そうかなあ」
そうする間にも言い争いはヒートアップしていく。
「ならば勝負だ! これからのアトラクションで先に音を上げなかった方が聡殿と一緒に観覧車に乗る。それでどうだ!」
「う、受けて立ってやるわよ!」
ジェットコースター、コーヒーカップ、果てはバンジージャンプまで2人は張り合った。
その結果、
「うう、気持ち悪い……」
「お兄ちゃん。私、もうダメ……」
両者ノックダウンの惨状を呈していた。
途中から僕と一緒に生暖かく様子を見守っていたラティファさんが、ベンチでぐったりする2人を困ったような顔で見つめる。
「あらあら、これはもうどうしようもありませんねえ」
そう言うと僕の方に振り返り、穏やかに微笑んだ。
「ではせっかくですから。わたくしと乗りましょうか、観覧車」
「え?」
「それとも、お嫌ですか? わたくしと乗るのは」
そんな風に聞かれて、僕に断れるはずがなかった。




