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第24話 振り返れば腹黒美女がいる

 僕が捕虜のサミアさんに抱き着きたい欲望と全力で戦っていると、突然彼女が大きな声を上げる。


「しまった! 使っていない下着は今全部洗濯しているのだった」


 そして申し訳なさそうに僕を見る。


「すまない。代わりに渡せる下着が、今は無いのだ」


 その視線が僕にはまぶし過ぎた。


「い、いいんです。そんなことに気を遣わなくていいんですよ。サミアさん」


 だけどサミアさんは僕の言うことなど全然聞いてはいなかった。


「そうだ! ちょっと部屋の外で待っていてくれないか。すぐに代わりを用意するから」


 そんなことを言うと、僕が部屋から出るのも確認せずに突然服を脱ぎだした。


「ス、ストップ! ストップですサミアさん!!」


 僕の強い制止にやっとサミアさんの手が止まる。脱ぎ掛けのシャツの下から、既にブラジャーが顔を出していた。


「どうしたのだ」


 キョトンとするサミアさんに、僕はこわばった顔で聞いてみた。


「ど、どうしたって。サミアさんこそ、どうするつもりですか?」


「いやなに、持ってきてくれた下着をここで身に着けるのだ。そうすれば自分が今着ているものを渡せるではないか」


 うわあ、普段は小細工なんてろうさないくせに。こういうところにだけは頭が回るんだからなあ、この人は!

 僕が残念な子を見る思いでサミアさんを見つめると、ようやく彼女もそれに気付いたようだ。


「も、もしかして。自分の脱ぎたてなど……迷惑か?」


 サミアさんが悲しそうに顔を歪める。


「そうだな。こんな自分の汗臭い匂いの染みついた下着など、渡されても困るだけだな。よく洗ってあればこそ、かろうじて使いみちが見つかるというものなのに。自分は一体何を思い上がっていたのだろうか」


 そうやって黄昏たそがれ始めるサミアさんを僕は慌ててフォローする。


「ち、違います! 違いますよ、サミアさん!?

 脱ぎたてなんて僕にはご褒美です! そんなのを貰ったりしたら、僕の変態性が更にエスカレートしちゃうじゃないですか! サミアさんは、そ、それでもいいんですか!?」


 綺麗な女性に対して自ら変態を強調しなければならないこの屈辱に、僕の胸がちょっとだけ熱くなる。


「そ、そうだった。星宮アリサに対抗するあまり、自分は少し我を失っていたようだ。沈着冷静を心掛ける自分らしくもない」


 ハッとなったサミアさんがそう反省するけど、意外としょっちゅう我を失ってますからね?


「そうだな。下着はやはり、洗濯が終わるまで待ってくれるか」


「いや、僕は別に替えを催促してるわけでは…」


「そうして自分は、いよいよ今晩はこの汚された下着を身に着けるというわけだな」


 サミアさんがほっこりする笑顔で僕が返した紙袋の下着を見やる。

 ダメだ。もはや僕の言うことなど聞いてくれそうにない。


「よし、そうと決まれば我らも朝食に行こうではないか。遅くなると冷めてしまうぞ?」


 そう言いながらサミアさんが部屋から出て行った。

 釈然としない思いで僕も廊下に出ると、なぜかそこにはとっくに立ち去ったはずのラティファさんが音も無く立っている。


「姉さんはあまり男の人に免疫が無いので、できたら今のまま大切に扱ってやってくださいね」


 不意にそう優しく微笑まれた。


「もし激しくなさりたいようでしたら、その時はまずわたくしがお相手します。心の奥底に眠る、その薄汚い欲望のままに捕虜を虐待したくなったらいつでも声をお掛け下さい」


 そう告げると、僕の返事も待たずに静かに去っていった。どうやら僕を待ち伏せていたみたいだ。


「め、目の奥が全然笑ってない……。あれはすごく、怖い人だ」


 僕は冷水を浴びせられたような気持ちになった。

 サミアさんが勇猛果敢な指揮官だとすれば、ラティファさんは時に冷酷ともいえる情勢判断を平然と下す参謀かもしれない。


 だけど僕は、そんなラティファさんにこそ奇妙な安心を覚えなくもない。

 こういっては何だけど、アリサちゃんやサミアさんは僕には重過ぎるのだ。

 天使で妹で今は亡き夫妻から託されたアリサちゃんに、敵国の皇族で綺麗で年上で普段は毅然とした武人のサミアさん。

 それだけでも僕の手には十分余るのに、そんな二人から寄せられる盲目的な信頼と好意が僕にはつらい。

 本当の僕は冴えないただの変態紳士なのに、状況と偶然が二人の中の僕を完全に場違いな存在へと押し上げてしまっていた。


 僕はそんな二人の期待を受け止められるような立派な人間では絶対ない。いつそのメッキが剥がれて失望されるかと思うとすごく怖かった。

 僕は陰からこっそりと彼女たちに憧れているのがせいぜいのただの変態なのに、どうして地球の命運すら左右する彼女たちに朝から迫られているのだろうか。もはや何かの悪夢のような気さえしてくる。


 ただ、その中でラティファさんだけが違った。

 彼女は冷静に僕という人間を見抜いている。その上で僕を泳がしていた。

 もし僕が調子に乗って変なことをすれば、彼女は決して僕を容赦しないだろう。

 たとえ捕虜として懲罰用の首輪を付けられていても関係ない。彼女は命をしてでも、最低なこの僕に相応ふさわしいむくいを与えてくれそうな気がする。


 だからこそ、僕は安心できる。

 もはやアリサちゃんに実は嫌われているという歯止めもなく、捕虜という立場で僕を英雄視し、進んでその身を投げ出しかねないサミアさん。

 その危うい状況に流され、ともすれば勘違いして尊大にその欲望と変態性のはけ口に2人を利用しかねない僕にとって、ラティファさんだけがちっぽけな自分を思い出させてくれる。

 彼女だけが、僕の真の理解者だった。


 そんなラティファさんから更なる言葉責めを……じゃなくて、お叱りを頂戴していましめとするにはどうすればいいんだろうか。

 でもそれを期待して姉のサミアさんに変なことをするわけにもいかないしなあ。

 一体どうしたらラティファさんから穏便に怒ってもらえるのか。うーん、難しいなあ。







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