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第23話 本当はエロい童話

 僕はそっとアリサちゃんの部屋に侵入した。

 静かに寝息を立てて眠る彼女は、まるで本当に白雪姫のようだ。

 いや、朝日に金髪がキラキラときらめく姿は、お姫様というよりやはり天使に見える。

 寝息の聞こえる距離でジッと彼女を見つめていると、本当に白雪姫やアリサちゃんの妄想のようにキスをして起こしたくなる。

 そうして僕は自然とその唇に引き寄せられて…って本当に引き寄せられてる!?


「待ってたよお兄ちゃん!」


 僕はアリサちゃんの手によって強制的にベッドの中へと引きずり込まれた。


「うわっ! なんでパジャマを着てないのさアリサちゃん!?」


 アリサちゃんはいつかの黒のレースの下着しか身に着けてなかった。


「それはね、その方がお兄ちゃんが興奮するからだよ?」


 アリサちゃんが僕の下で可愛く笑う。


「さあお兄ちゃん、私に目覚めのキスをして」


「も、もうバッチリ目が覚めてるよね!?」


「唇だけじゃなくて、私の全身にキスしてね。それでお兄ちゃんは、この下着ごと自由にアリサを汚してくれていいんだよ?

 今度は前みたいに私にバレることを気にしなくて大丈夫だから。眠り姫が満足して目覚めるまで思う存分楽しんでいってね」


 いや確かに、前回はキスを思い留まった上に、黒のレースまであきらめていつものしまパンに逃げちゃったけども!


「そしたら私は、やっと全ての下着をお兄ちゃんに捧げることができる。この体ごと、お兄ちゃんのものになれるんだよ」


 そ、そのコンプリートの仕方はどうなんだろうか。それに下着ドロのコンプ特典が本人というのはやり過ぎな気がするよ、アリサちゃん。


「か、母さんが朝ご飯を作って待ってるから。も、もうそんな時間はないんじゃないかな」


「そっかあ。おば様には後でお赤飯をお願いしないといけないね、お兄ちゃん。あ、もうこれからはお母様って呼ぶようにしないといけないのかなあ」


 ダメだ、アリサちゃんの覚悟が尋常じゃない。

 それに僕の手首をしっかり握ってベッドから逃してくれない。もはや僕は、蟻地獄にはまった無力な獲物なのかもしれない。

 僕がそうあきらめかけた時、だけど思いがけない救世主が現れた。


「ちょっと待ったー! 一体そこで何をしているのだ、この破廉恥娘が!」


「ど、どーしてここであんたが入ってくるのよ! 捕虜ならいさぎよく与えられた部屋で膝をかかえてなさいよ!」


 アリサちゃんの叫びに、それでもサミアさんは一歩も引かなかった。


「そうはいかん。私の命の恩人はさとし殿だからな。貴様の毒牙に掛けさせるわけなどいくものか!」


「毒牙とは何よ! お兄ちゃんは私を盗聴して下着ドロを繰り返すくらい私に夢中なんだからね。横から勝手にしゃしゃり出ないでよ!」


「それは貴様がそう仕向けたからだろう。純朴な聡殿をたぶらかすな、この女狐め!」


「わ、私が女狐ならあんたは泥棒猫でしょ!? 人のものに手を出さないでよね!」


「ハッ! 聡殿をもの扱いするなど、これだからお子様は」


「なによ!」


「なんだと!」


 そうして2人はガルルルッと睨み合う。

 僕はベッドの上でただオロオロすることしかできなかった。


「お二人とも、朝の挨拶はそれくらいにされてはいかがですか。そしてアリサさんはそろそろパジャマを着た方がよろしいかと思いますが」


 ラティファさんの穏やかな言葉に、いがみ合っていた2人がようやく離れる。


「フンだ! 分かってるわよ」


 アリサちゃんは不機嫌にそう言い捨てると、ベッドのかたわらに脱ぎ捨ててあったパジャマを引っ掴んでドスドスと部屋から出て行った。


「では、わたくしも失礼します」


 そう言ってラティファさんも去っていく。

 そうして部屋に、僕とサミアさんだけが取り残された。




「だ、大丈夫だったか。聡殿」


「え、ええ。ありがとうございました」


 下着姿のアリサちゃんとベッドの上で押し問答している姿を見られたからか、なんだかすごく気恥ずかしい。

 その気分を誤魔化したくて僕は必死に違う話題を探した。


「そ、そうだ! 僕はアレをサミアさんに返そうと思っていたんです」


 僕はベッドから降りると一旦廊下に出た。

 そして廊下の片隅に目立たないように置いておいた紙袋を持って部屋に引き返す。

 それを見たサミアさんが顔色を変えた。


「それは、まさか……」


「そ、そうです。預かっていた、例のものです」


 おずおずと差し出す僕に、サミアさんが恐る恐る確認してくる。


「そ、それを私に返すということは。そ、その……。ちゃんと使って……くれたのか?」


 そして僕は、それを否定できなかった。


「ど、どうしても、我慢できなくて……。ご、ごめんなさい!」


 僕はそう謝るしかなかった。

 だって仕方ないじゃないか!

 いつもは凛々しいサミアさんが乙女な顔で僕を抱きしめて、おまけにその下着を自由にしてもいいだなんて我慢できるわけがない。

 それにもし使わずに返したりなんかしたら、それはサミアさんを傷付けることになってしまう。

 そう、これは人助けなのだ。サミアさんの女のプライドを傷付けないために、僕はあえて自分のちっぽけなプライドや良心を捨てて泥にまみれたのだ。つまりこれは、変態紳士としての僕なりの優しさなのである。

 僕が人として最低な言い訳を心の中でしていると、捕虜の身で僕に気を遣わなければならないサミアさんが紙袋を大切そうに受け取りながらぽつりとこぼす。


「……よかった」


 やめて、これ以上僕を勘違いさせないで!

 暴走しそうな欲望と気恥ずかしさに身悶みもだえしながら、僕は必死になけなしの理性に取りすがった。







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