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第17話 続・倫理なき戦い

「私の……、好きにしていいの?」


 思い詰めた様子でアリサちゃんが僕に聞いてくる。

 どうやらようやく幼児退行から復活したようだ。


「ああ、もちろん。アリサちゃんは、自由に生きていいんだよ」


「……分かった。なら、そうさせてもらう」


 そう言ったかと思うとアリサちゃんがまた僕に抱き着く。

 そして戸惑う僕に素早くキスをした。

 今度は頬ではなくて、僕の唇にだった……。


「これで私が本気だって、信じてくれた?」


 挑むようなアリサちゃんの目に僕は気圧けおされた。

 かつてない混乱に、僕はついフラフラとアリサちゃんをそのまま抱きしめてしまいそうになる。

 いや、まだだ。

 まだこれくらいのことで、僕は負けるわけにいかない。

 だって僕は、アリサちゃんのお兄ちゃんなんだから!


「甘い、甘いよアリサちゃん! 僕らが小さい頃に何度ふざけてキスしたと思ってるんだい。

 そ、それにそもそも兄妹の間のキスなんてノーカンだよノーカン!」


 すんでのところで僕はそう言い放つ。

 するとアリサちゃんが涙目で僕に食って掛かった。


「なんでそうなるのよ!」


「僕はどんなことがあってもお兄ちゃんとして君を守るって決めたんだ。こんな変態クソ野郎から天使な君を守るのなんて、当たり前じゃないか!」


「くっ、なんて厄介なの、お兄ちゃんシールド。ただでさえ幼馴染で恋には面倒なのに、勝手に天使に祭り上げて距離を遠くされた上にお兄ちゃんの卑屈さがそれを更に強化しているだなんて……」


 悔しそうに顔をしかめるアリサちゃんに、僕は勝利を確信した。


「さあアリサちゃん。分かったら僕のことなんて忘れて幸せになるんだ。僕はそれを、喜んで見守ろう」


 もはや何の勝負をしているのかよく分からないノリになってきた僕をアリサちゃんがキッと睨む。


「こうなったら……、最終手段よ!」


「まだ何かあるのかい? いいさ、何でもしてみるといいよ」


 変なスイッチの入っている僕はそうアリサちゃんに余裕を見せる。今の僕は、本当のお兄ちゃんすら超えてみせる!

 そんな僕にアリサちゃんが可愛く笑った。


「じゃあお兄ちゃん。ベッドにいこ」


「…………え?」


「だから、ベッドの上でもお兄ちゃんがずっと私のお兄ちゃんのままでいられるのか。それを私に証明してみせてよ。それでダメなら、私はお兄ちゃんをキッパリ諦めるから」


「ちょ、ちょ~っと待ってよアリサちゃん。い、一体……、ベッドで何をするつもりかなあ」


「あ、お兄ちゃんは何もしなくていいから大丈夫だよ? 私がお兄ちゃんの上で勝手に動くだけだから。その間お兄ちゃんは天井のシミでも数えててくれればいいからね」


「ダメ―! 女の子がそんなこと言っちゃダメー!!」


「私はお兄ちゃんとそんなことをしたい普通の女の子なの。さ、早くいこっ」


 アリサちゃんが嬉しそうに僕の腕を取ろうとする。


「そう言われて僕が大人しくついていくわけないじゃないか!」


 力ならさすがに僕の方がまさる。僕さえしっかりしていればアリサちゃんの暴走を防げるはずだ。

 するとアリサちゃんがわざとらしく顔を曇らせた。


「えー、でもそうしてくれないと。お兄ちゃんが私の部屋を盗聴しながら盗んだ私の下着で毎晩イケナイことしてるって、そうおばさんに報告しなきゃいけなくなるんだけどなあ」


「ぼ、僕を脅迫するつもり!?」


 アリサちゃんがニヤリと笑った。


「脅迫だなんて心外だなあ。それどころか私はチャンスを上げてるんだよ。お兄ちゃんはベッドの上にただ寝てるだけで兄妹だって証明できるんだから、簡単でしょ?

 大丈夫、最後までお兄ちゃんの方から手を出してこなかったらお兄ちゃんの勝ちでいいから。代わりに何か違う物を私の中に出すことになっても、それはノーかんだよノーかん。だって、仲のいい兄妹がふざけてするだけなら何度しても大丈夫なんでしょ?」


「ノーカンの字が違うよね!? それにそこまでしちゃったらもうどんな言い訳も不可能だよ!」


「じゃあおばさんに泣きながら報告される方がいい?」


「逃げ場がない!?」


「電車の中でも毎日お兄ちゃんに痴漢されて、ズボンの固い物を押し付けられてることも一緒に相談しようかなあ」


「僕そこまでしてないよね!?」


「えー、どうだったかなあ。電車が揺れた拍子にお尻に手がれたり、何か変な物が私のスカートに押し付けられたりしたことは確かにあったと思うんだけどなあ。

 それが偶然なのか、それとも揺れを利用してわざとしてたのかは私の報告次第だよ?」


 裁判長! 検察は悪意を持って事実を曲解しています!


「おばさん悲しむだろうなあ。私のことをまるで自分の娘のように可愛がってくれてるもんね。そんな私がよりによって自分の息子にイタズラされながら日々を過ごす状況に追い込まれてるなんて知ったら、おばさん卒倒しちゃうかも」


 ああでも盗聴と下着ドロは言い訳できない……。


「そうだ。その家族会議の場で私がお兄ちゃんに責任取って欲しいって泣きながら訴えたら、おばさんも私たちをすぐに結婚させてくれるかも。そうだ、そうしよっかお兄ちゃん」


「やっぱり逃げ場がない!?」


「さあお兄ちゃん、どっちがいいのかそろそろ決めてよね。このまま妹から幸せの逆夜這いプレイがいいのか。それとも修羅場のあとで後ろ指さされながらひっそりと結ばれるのがいいのか。

 あ、もちろん、欲望を抑えきれなくなったお兄ちゃんがベッドでふざけてるだけの妹に突然襲い掛かるっていう鬼畜展開もアリだよ? そしたら私、お兄ちゃん私たち兄妹なんだよって必死に抵抗してみせるけど。お兄ちゃんは嫌がる私をそのまま最後まで襲い続けてくれていいからね」


 僕は絶体絶命の窮地に追いやられた。

 だけどその時、思いがけない救世主が現れる。


「盛り上がっているところ大変申し訳ないのですが、ちょっとよろしいですかな。お嬢様」


 アリサちゃんがビックリした顔をする。


「ド、ドクター!?」


 アリサちゃんはそう叫ぶとすぐに顔をしかめた。


「い、今いいところなんだから邪魔しないで!」


「そういうわけにもまいりません。私も親代わりのようなものですので、できればそういうことはもう少し大人になってからにして欲しいものですな」


「べ、別にいいでしょ。それに、ママならきっと喜んでくれるもん」


「あの方は……、確かにそうかもしれません」


「でしょ? なら邪魔しないで。これを逃したら次はいつこんなチャンスが巡って来るか分からないんだからね」


 そう言うとアリサちゃんは再び僕の脅迫に戻ろうとする。


「ですが、敵艦の連絡艇が収容許可を求めております」


「……え?」


 ポカンとするアリサちゃんにドクターが繰り返す。


「ですから、敵艦の連絡艇がすぐそこで待機しているのですよ。さっきから、ずっと」


「ど、どうしてそんなことしてるの?」


「まあ、捕虜ですからなあ。大破した敵艦に残ったまま変な工作活動をされてもいけませんし、尋問もする必要があります。ですから一度こちらに来てもらう必要があるのですよ。さあ、早くご対応をお願いします」


「そ、そんなあ」


 アリサちゃんがガックリとうなだれた。何だか真っ白に燃え尽きている。


「そ、それって、僕が許可してもいいの?」


 何とか今の状況をうやむやにしたくて僕はそうドクターに聞いてみる。


「どうやらお嬢様は呆然自失のようですので、まあそれでも構わないでしょう」


「わ、分かりました。収容を許可します。連絡艇とのやり取りとかを引き続きお願いできますか」


「承知しました」


 こうして僕は、アリサちゃんの猛攻から逃れることに成功した。

 まあたぶん、一時しのぎにしかならないだろうけど。

 いや、うん、ちょっと落ち着けば、アリサちゃんも幼児退行から正気に戻ってくれるさ。

 たぶん、きっと、そうなるといいなあ。

 じゃないと僕は、次で押し切られかねない。それがアリサちゃんにとって本当に幸せなことなのかどうか、僕には全く自信がない。

 地球の命運すら背負う白雪姫が、王子様や7人の小人どころか村人Aでさえなく、変態紳士なことだけが取り柄のただの木の役と結ばれるだなんて。それは一体どういう超展開なんだろうか。とても観客が納得するとは思えない。

 そしてなにより、僕が一番その結末に不安だった……。








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