第15話 同床異夢の幼馴染
「お兄ちゃん!!」
意識を取り戻した僕にアリサちゃんが抱き着いてくる。
シミュレーションによる訓練は何度も夢の中でやらされたけど、初めての実機操縦に初めての実戦。それにアリサちゃんとの初体験……いや初めてのユニゾンドライブで、僕は気を失っていたみたいだ。
「お兄ちゃん大丈夫? どこも悪くない!?」
アリサちゃんがそう矢継ぎ早に聞いてくる。
「え、いや、あの……たぶん」
というか、昔に戻って臨死体験してました。
「よ、良かったあ。ドクターが下手したら廃人になるかもなんて脅すから、お兄ちゃんが目を覚ますまでほんっとに怖かったんだからね」
ああ、そういえばそんなことを言ってたなあ。
でも記憶の混濁は本当だった。自分の死体を見るのはなんというか実に奇妙な気ぶ…
「じゃなくて!!」
僕の突然の叫び声に、抱き着いたままのアリサちゃんが驚いた顔で見上げてくる。
僕はアリサちゃんに、恐る恐る聞いてみた。
「ア、アリサちゃん……。アリサちゃんの方は、大丈夫、かな」
アリサちゃんがキョトンという顔をする。
「何が?」
「いや、その。い、意識障害とか……。き、記憶の混濁とか、さ」
そうだ。僕がアリサちゃんの記憶を見たということは、その逆も当然ありうる。問題は、アリサちゃんが僕のどの記憶を見たのかということだ。
だけど心配そうに僕に抱き着くアリサちゃんの様子からすると、もしかしたら大した記憶ではないのかもしれない。
そうさ、膨大な記憶の中からピンポイントでクリティカルな記憶が漏洩するなんてそうそう起こるはずがない。僕はそのことを過度に恐れ過ぎていたんだ。
この様子なら、これからも可愛い妹の演技で僕に接してくれるに違いない。
「うーん、そういえば。まだ小さな私が生き返ったお兄ちゃんにペンダントをかけてあげる時の、お兄ちゃんの方の記憶が見えたかなあ。お兄ちゃんあの時のこと、ずっと覚えてたんだね」
どうやら僕たちは、期せずして同じ出来事の記憶を互いに見たようだった。
いやこれも精神が同調した影響だろうか。そしてショッキングな秘密の記憶という点では、僕の盗聴下着ドロ問題より確かに重大な出来事かもしれない。まさか死んでたなんてねえ。
まあだけど、なんにしても良かった。これで僕たちの関係は今までどおりだ。
表面上は仲のいい兄妹で。実は冴えない変態な僕を嫌う金髪幼馴染と、その予想をはるかに上回って変態紳士な僕のままでいられる。
「それでまた私の命を救ってくれるなんて……。お兄ちゃん大好き!」
そう言ってアリサちゃんがまた僕に抱き着いてくる。
記憶の混濁と生きて戦闘を終えた興奮で、どうやら一時的な幼児退行をまた起こしているみたいだった。そこには過去の、無邪気で無条件な僕への信頼が感じられた。
すぐにまた元に戻って僕への悪態を陰でつくようになるとは思うけど、今だけはこの幸せをかみしめたい。
アリサちゃんが我に返るといけないので僕からも抱きしめたい欲望と興奮を必死に我慢していると、ふとアリサちゃんが体を起こす。
「そうだお兄ちゃん」
「なんだいアリサちゃん」
ぬるま湯のような幸せに浸りながら、僕はすっかり油断していた。
「今回のことで色々と秘密を知られちゃったからこの際もう言っちゃうけど。
これからはこっそりと私を盗聴したり下着を盗んだりしなくてもいいからね?」
僕はブッと噴き出した。
「な、ななな何のこと!?」
とっさにとぼける僕に、アリサちゃんが呆れた顔をした。
「何のことって……。あんなに毎日とっかえひっかえ下着を盗まれて、それに気づかない女の子なんていないよ。お兄ちゃん」
「うぐっ」
「それにそのペンダントはこの船の炉心の石と同じ素材で出来てて、感応炉との同調訓練や、通信用の端末にもなってるからお兄ちゃんの様子は簡単に私の方で分かるんだよ。
だからお兄ちゃんが私の下着で夜な夜な何をしてたかまで、ぜ~んぶ私は知ってるの」
そーだったのかあぁぁぁ!!
どうりで夢の中であんな訓練なんてできたはずだ。なるべく身に着けておいて欲しいというのはそういうことだったんだ。
そしてアレだろうか。通信端末で全部知ってるということは、盗聴しながら盗んだ下着で致すという最低な行為はおろか、その最中や賢者タイムの時の恥ずかしいつぶやきまで。全部リアルタイムで筒抜けだったということだろうか。
幼馴染をこっそり盗聴して悦にいってるつもりが、まさかそんな僕の方が逆に盗聴されてただなんて!!
「…………死のう」
もはや僕は、アリサちゃんに死んで詫びるしかなかった。
え? イスカリオテのユダになるんじゃなかったかって?
もうそんなことを言ってる場合じゃない。
断片的な記憶を覗かれて秘密がバレるというならまだしも、僕が陰で変態紳士を気取っている恥ずかしいところを、その最初から全部知られた上で泳がされていただなんて!
それは完全に予想外デス……(死)
僕のライフは、ゼロどころかとっくにマイナスに突入していた。
「ちょ、ちょっとお兄ちゃん!? し、しっかりして!」
放心した僕にアリサちゃんが慌てて呼びかける。
「アハ、アハハハハッ……」
僕は、乾いた声で笑うしかなかった。




