第14話 謎は全て解けた
アリサちゃんの息遣いが感じられる。
最初はすごく消耗していたけど、今ではゆったりと余裕すら感じられる。僕がアリサちゃんに必要なエネルギーを絶え間なく注ぎ込んでいるからだろうか。
アリサちゃんはそれを無防備に受け入れながら全身…いや、全周に厚い防御シールドを巡らしていた。
「あったかい」
安らぎに満ちたアリサちゃんの言葉に、僕は自分がアリサちゃんを抱きしめその中を満たしているような錯覚を覚える。
その心地いい勘違いに苦笑しながら僕はアリサちゃんにたずねた。
「アリサちゃん。僕は、どうすればいい?」
アリサちゃんが気だるげに答える。
「んー。そうだなあ。私はこのままお兄ちゃんにくるまれてるから、お兄ちゃんは適当に攻撃でもしてて」
何とも雑な指示だった。絶体絶命のピンチを抜け出した反動で気が緩みまくっている。
だけど、それで十分でもある。
防御はこのままアリサちゃんに任せておいて大丈夫そうだ。アリサちゃんは自在に防御シールドを変化させて敵艦の攻撃からまどろみを維持し続ける。
僕はその間に仮想バレルを組み上げていく。
防御を任せて置けるせいか、以前よりも楽に長距離狙撃用のバレルを組み上げることができた。
「アリサちゃん」
僕がそう声を掛けると、アリサちゃんはそれだけで意図を察してくれた。
「んー、はい」
敵艦の攻撃の合間を縫って、今度はアリサちゃんが僕にエネルギーを注いでくれる。
しなだれかかるようにアリサちゃんが僕に触れると、そのまま僕と絡み合った。
その興奮を……じゃなくて、エネルギーを全てバレルへと注入する。
だけど照準の向こうの敵艦の存在を意識した瞬間、僕はそこに乗る2人の女性パイロットのことを思い出した。
「くっ…」
すんでのところで僕は照準をずらすことに成功する。
放たれた僕のビームは、敵艦の防御シールドをやすやすと貫いて重要区画を破壊したものの、かろうじて爆散だけは避けることができた。
「勝ちましたな」
ドクターの言葉で僕は我に返った。
慌ててアリサちゃんの意識から距離を取る。
アリサちゃんからの蠱惑的なエネルギー供給を一時中断した僕は、敵艦に再び注意を向ける。
どうやら、完全に行動不能になっているようだ。
「降伏勧告をしましょう。それでこの戦闘は終わりです」
ドクターが敵艦に通信して手続きを進めていく。
向こうの艦長兼メインパイロットの女性は抵抗しているみたいだけど、もう1人の女性が勝手に決断したようだ。起動コードのやり取りが行われてドクターが敵艦を無事に支配下に置くことに成功する。
それを確認した僕は、気が抜けたのか急速に意識が遠くなっていく。
それとともに、走馬燈のようにアリサちゃんとの記憶が脳裏を流れていった。
過去の僕は、木の枝に心臓を貫かれて死んでいた。
アリサちゃんの泣き声がするけど姿が見えない。どうやらこれは、アリサちゃんの記憶のようだ。
僕が下敷きになったせいか、アリサちゃんは軽傷で済んでいるみたいだった。木から落ちたはずのアリサちゃんが慌てて下敷きになった僕の様子を確認する。
一方の僕はというと、下に生えていた木の枝ぶりが悪かったらしく。上になったアリサちゃんとの間に挟まれる形で左胸に木の枝が突き刺さっていた。アリサちゃんが揺すってもピクリともせず、ただ血が流れ続ける。
うん、これは完全に死んでるな。合唱……。
気分はもう完全にお通夜なのだが、号泣するアリサちゃんに連れてこられたアリサママは子供の僕をおんぶして急いで屋敷に帰る。
するとなぜか救急車も呼ばずに地下の連絡艇の中へと入っていった。
後部カーゴ室に設置された妙なカプセルの中に僕を入れると、アリサパパまで帰ってきて急いで月軌道の向こうに浮かぶ宇宙船に向かった。そうして僕は、宇宙船の中の変な水槽に入れられた。
何日かして水槽から出された僕は、何と息をしていた。それを確認したアリサちゃんが僕に抱き着いてまた泣いた。
そうか。僕は一度死んだけど、アリサちゃん家のおかげで生き返ることができたんだ。
僕はそのことよりも、自分の行為が無駄ではなかったことが嬉しかった。僕はちゃんと、アリサちゃんを守ることができていたのだ。
同時に、アリサママがそのことを秘密にしたい理由がよく分かった。お宅の息子さんは一度死にましたが宇宙技術によって蘇生したので安心してください、などとはさすがに僕の両親にも言えるはずが無い。
昔からの疑問が解決して僕はちょっとスッキリした。後から思い返すと、色々と変だなあと思わなくもなかったのだ。
3日後に目覚めたり、落ちた前後の記憶がなかったり、両親にも秘密にしたり、大切なペンダントを貰ったり、アリサちゃんがその後も長くこんな僕をお兄ちゃんと慕ってきたり。
すべてはそんな出来事があったからなのだ。
そして今また、僕はかろうじてアリサちゃんを守ることができた。
もう少しでちっぽけな自分のプライドを守るために見殺しにしかけたけど、ギリギリのところで僕はそれを回避することができた。
とっくの昔に死んでいたはずの僕の命を救ってもらった恩を、これで少しは返すことができただろうか。
もっとも、僕が昔死にかけた原因もアリサちゃんなわけだけど。
そしてそのアリサちゃん相手に、陰で変態行為の限りを尽くしてきたのは僕なわけだけど……。
そう考えると、アリサママが草葉の陰でどう思っているかは微妙かもしれない。
かろうじて僕が娘の命を救ったことを喜んでいるだろうか。
それとも、娘の相棒役に選んだ相手が予想だにしないド変態になってしまったことに青ざめているだろうか。
だけどアリサママなら、案外笑顔で責任取ってくださいねと婚姻届け片手に迫ってきそうで怖い。
あの人は昔から僕のことを過大評価してたからなあ。もうちょっと自分の娘の将来を大切にしてあげて欲しいと子供心に何度思ったことか……。




