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第11話 僕を宇宙に連れてって

 突然ついた明かりに僕は目を覚ます。

 スマホを見ると、まだ夜明けにも早い時間だった。

 でも僕の眠気は、アリサちゃんの叫び声で消し飛ぶことになる。


「ど、どうしてお兄ちゃんがここにいるのよ!?」


 地下格納庫中に響き渡るような声に、僕は家から持ってきた毛布をかぶったままコクピットシートから飛び起きる。そしてぎこちなく彼女の方を見た。


「や、やあ。おはよう、アリサちゃん」


「おはようじゃないでしょ! 私ちゃんと言ったよね、お兄ちゃんと一緒なんて死んでも嫌だって。アレを聞いてどうしてここにいるのよ!」


 やっぱり僕がいるのはバレてたのか。薄々そうじゃないかとは思ってた。

 だってこの格納庫や宇宙船に人を感知するセンサーが1つも無いなんてことは到底考えにくい。恐らく僕は、故意に見逃されていたのだ。

 たとえ僕を嫌っていても、それくらいにはまだ信頼されているということだろうか。

 物思いにふける僕に、アリサちゃんがスゴイ笑顔で睨んでくる。


「お・に・い・ちゃん。私は今とても怒ってるんだけど。どうしてここにいるのか、早くその理由を教えてくれないかなあ」


 僕は恐る恐る答えた。


「い、いやだって。アリサちゃんが……てたから」


「聞こえない」


「ア、アリサちゃんが…るえてたから」


「聞こえない」


 仕方なく僕は声を張り上げる。


「アリサちゃんが僕にキスしてくれた時に体が震えてたからだよ!」


 それを聞いたアリサちゃんが顔を赤くする。

 そして僕に負けない声で怒鳴り返してきた。


「は、恥ずかしいことを大きな声で言わないでよ!! あれはほっぺにだからね!? 今のじゃまるで口にしたみたいに聞こえるじゃない!!」


「く、苦しい……。苦しいから、体を揺さぶるのはやめてよ。アリサちゃん……」


 僕の意識がもうろうとなりかけた頃、ようやくアリサちゃんは僕の肩をガクガクと揺する手を止めてくれた。

 まあだけど、そういうわけである。

 僕に抱き着いてきたアリサちゃんの体は、震えていた。

 一人の女の子が、その華奢な両肩に地球の命運を背負って怖くないわけが無い。おまけにこちらは圧倒的に不利な状況で、本当に死んでしまうかもしれないのだ。

 そんな幼馴染に知らん顔をして、一人ぼっちでさみしく送り出すなんてことはやっぱりできない。

 そして理由は、それだけではなかった。


「それに僕は、君の両親と昔約束したんだ。ずっと君と一緒にいるって。だから君がどれだけ嫌でも、僕はその約束を守って君に付いていくよ。僕は君の、お兄ちゃんだからね」


 お兄ちゃんとしか言えないのはちょっと寂しいけれど仕方ない。

 ともかくこれで、アリサちゃんは僕の申し出を断れない。僕が昔もらったペンダントを返しでもしない限り、あの時の約束は永遠に有効のはずだった。


「ド、ドクター!」


 アリサちゃんがきつい口調で宇宙船の人工知能の名を呼んだ。


「なんですかな、お嬢様」


「お兄ちゃんたちは何も知らずにいる方がいいってドクターも賛成してたじゃない。なのにどうして私に断りもなくお兄ちゃんを中に入れちゃうのよ!」


 アリサちゃんの詰問きつもんに、だけどドクターはとぼけてみせる。


「私としては気を利かせたつもりなのですがなあ。お嬢様にあれだけ言われてなお付いて来ようとするなど、いじましいではありませんか。お嬢様の執事を自負する私としては、黙ってお通しするしかありません。

 それにさとしさんは今は亡きご両親が認めた方ですぞ。その資格は十分におありかと」


「うぐぐぐっ」


 ドクターにたしなめられた彼女は僕をギンッと睨む。


「下手したら、本当に死んじゃうんだからね。お兄ちゃんはそれでもいいの」


 そう改めて確認されると僕も困ってしまう。

 それでも、1つだけ確かなことがあった。


「し、死ぬかもしれないのは、怖いけど。そんな場所にアリサちゃんを一人きりで送り出して、もしそれでアリサちゃんが戻って来なかったら……。僕はそのことを一生後悔すると思うんだ。

 そ、それくらいならたとえ何もできなくても。アリサちゃんに嫌がられても。それでも僕は君に付いていきたい」


 僕の言葉に、アリサちゃんは複雑そうな顔をした。

 いくら僕が嫌いでも、やはり一人で行くのは心細いのだろう。僕への嫌悪感と心細さとの間で、今、彼女の心は激しく揺れ動いているはずだ。

 やがて、諦めたようにぼそりとつぶやいた。


「ほんとお兄ちゃんは、昔と変わらないんだから」


 それはきっと、僕がこのペンダントをもらうキッカケになったあの転落事故のことだろう。冴えない役立たずなことまで、僕は当時と何も変わっていない。

 変わってしまったのはアリサちゃんの方だろうか。

 まだ幼さを残しながらも綺麗に成長した彼女は、盲目的だった兄妹愛から目覚め、お姫様な自分にふさわしい理想の王子様を夢見るようになっていた。


「ふんだ! せいぜい私を守ってよね、お兄ちゃん」


 アリサちゃんが怒ったようにそう言い捨てる。

 心細さに負けて、僕みたいな変態を一緒に連れていくという苦渋の決断をせざるを得なかった自分がきっと許せないのだろう。

 それでも僕は満足だった。これでまた、彼女と一緒にいられる。もしこれで死んだとしても、僕はアリサちゃんを永遠に独り占めできるのだ。

 盗聴と下着ドロで満足するしかない変態紳士にとって、もしかしたらそれは最大のご褒美なのかもしれない。

 木の枝から落ちた時と違って、僕にできることなど何も無いと思った僕は無邪気にもそう考えていた。

 まさか後で運命の選択を迫られることになるとは、この時の僕は夢にも思わなかった。







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