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次の目標

静かな執務室に重苦しい沈黙が流れていた。



「さて、どうしてこうなったか説明してもらおうか」

「え、えっとぉ...その...なんででしょうね...」



青筋のたった笑顔でにらみつけているイグニスとあさっての方向を見てとぼけるカグヤ。

なぜこうなったか、という疑問についての回答は想像に難くない。

いざ死地へ向かおうと覚悟を決めたところで謎のメッセージを伝えられ、まさかと思いながら現地へ向かうとミンチと冷凍肉がそこら中に転がっているのである。にわかには信じがたい光景ではあったが、ここまでされたら思い当たる犯人は一人しかいない。



「はぁ、別に私は叱ろうなどと考えているわけではない。むしろお前は命の恩人に当たるだろう。しかしだ。お前がどうやってアレをやったのかが問題だ。ここまでの規模の戦闘...というか殲滅は流石に王族の方にも説明をしなくてはならない。それも魔族からの進行の再開の可能性もあるのだ。お前の立場を守るためにもあまり迂闊な報告はできない。だから今は出来るだけ詳しい現状の説明がほしいのだ」



そこまで言うと軽いため息とともに椅子に腰かける。

どうやら勝手な行動をしたことでお叱りを受けるわけではないらしい。という事が分かったのでカグヤは背もたれに体重を預けて姿勢を崩す。



なんだよ、ビビらせやがって。怒られるかと思ったじゃんか。



昔から叱られると思うとどうも体がこわばってしまうな、などと考えながら今回の説明をわかりやすくまとるにはどうしたらいいかと考える。どうやらイグニスから聞いた話によるとどうも王族というのはアホの子ばかりらしい。そうでもなければ戦争中の他国との最前線に辺境都市程度の兵力しか置いていないのはおかしいとしか思えない。



「うーん...。わかりやすく説明すると...凍らせて爆発させて切り刻んで焼いた...ですかね」

「なるほど。全くわからん」



イグニスが何いてんだこいつといった目で見ている。確かに俺もはたから見ている側であれば同じこと思っただろうが、事実そうなのだから仕方がない。

『ニヴルヘイム』で氷漬けにした後に『アースクエイク』で爆発――というか吹き飛ばして、刀で切り刻んで、ガソリンで燃やしたもんな。

うん。何も嘘はついていない。



「しかし、真面目な話をすると恐らく近日中に私は説明のために王城に呼び出しを受けるだろう。その時にはお前にも来てもらわなくてはならない」



アニアス家の身分を提示したのは間違いだったかと内心で後悔する。あの場ですでに砦では外に出るようなそぶりはなかった。無理してまでわざわざ警告する必要もなかったかもしれない。しかし、今となってはすでにどうしようもない話だ。王城に呼び出しを受けたときのことを考えよう。



「お前は記憶を失っていて身元を証明できない。だが、その点については私がアニアス家に仕える魔術師だと言って押し通すことができる。しかしお前のその魔力と魔術に目を付けられると困る。はっきり言って今の王族とその周りを取り巻く連中は腐っている。お前がそ奴らに利用すされる未来は想像に難くない。あくまで私は一貴族。王族からの命令ではお前を庇い切れんぞ」



どうやらイグニスは俺が王族に何かされるのではと心配してくれているらしい。

どうやらこの世界の人類のトップはだいぶ腐敗しているようだ。民にきつい税をかけて内政はほったらかし。自分の私腹を肥やすことに勤しんでいるらしい。



「うーん、わかりました。俺の方でもうまいこといくように考えておきます」

「その顔は、何かよからぬことを企んでいる顔だな」

「そ、そんなに俺の顔ってわかりやすいですかね...」



どうやら俺の悪だくみは本当に顔に出やすいらしい。あまりにも周りから指摘されるのでだんだん恥ずかしくなってきた。本当に意識しているつもりはないのだが。



「安心してください。アニアス家の方には悪影響が及ばないようにするつもりなので。もし何かあってもその時は俺何とかしますよ」



まぁ、この世界に俺以上に強い能力の魔術や魔力の持ち主がいた場合を除くが...。



「むぅ、わかった。だが、あまり無茶はしてくれるなよ」

「もちろんわかってます」



軽くはにかんで余裕の表情を見せる。内心は口角が上がるのを防ぐので精いっぱいだ。

これから起こることを考えるとついついにやけてしまう。

なに、この世界の王族の鼻を明かしてやろうというだけだ。

「では失礼します」と言って執務室を後にする。

静かに執務室の扉を閉めるのと同時に、我慢するのをやめてニヤリと笑う。



「とりあえず神様になってみようか」





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