アイセア・アニアス
夜の街を馬車で移動していく。
がたがたとたまに揺れるようになったので外を確認してみると先ほどまでの街並みとは違って整備はされているものの石畳ではなく街道のような場所に出ていた。
いや違う。そうじゃない。そんなことは問題じゃない。
「どうかされたのですか?」
「ヒュエッ!?」
「も、もしかしてどこか具合でも悪くなってしまいましたか?」
少しタレ目な美しい翡翠色の瞳でこちらをしたからのぞき込んでくる。
かっ、かかかか、かわええええええええ!!
―――じゃなくて!
「い、いえ!大丈夫です!」
「そうですか、それはよかったです」
安心した。というように胸に手を置いて笑顔をほころばせる。
結婚したい。
馬車に乗ってから軽く彼女の自己紹介を受けた。
彼女の名前は『アイセア・アニアス』。
彼女はアニアス家と呼ばれるこの一帯を治めている貴族の家の一人娘らしい。
それにしても貴族か…そうなるとやっぱり文明レベルは中世あたりになりそうだな。
道の舗装もアスファルトどころか土だし。
窓の外には地平線までだだっ広い畑が広がっている。
大きな町の近くでもやはり外はあまり建物は無いようだった。
今までの情報をまとめてみると―――これは本当に俗にいう"異世界転移"というやつなのでは?
そうなるとはっきり言ってワクワクしてくるのと不安な気持ちの両方がこみあげてくる。
ここで俺は一文無しだ。
長年積み重ねてきたゲーム関係の知識をフル活用してもはっきり言って簡単に生き残れるとは思えない。
そもそもこの世界に冒険者ギルドや魔物がいる確証なんてものはない。
というか俺に運動能力はあんまりない。
学生時代はバリバリの運動部だったが今じゃ最近まで、というか昨日まで部屋でごろごろしてるだけのニートをやっていた。
これで激しい運動ができるわけがない。
そうなると―――何とかしてこの娘の家の力にあやかるのが一番安全だろうけど…。
「ではあなたのお話も聞かせていただけないでしょうか」
来たか…。
心の中でどうしようかと唸る。
ここに来る前の自分の名前なんかの記憶ははっきりとしている。
名前は『天草 輝夜』。
性別は男。年齢は22歳。
二年前会社の上司と方向性の違いから大喧嘩し、そのせいで会社を辞め今は無職。
それと後目つきが悪い。
それにコミュ障。
真顔でいると睨んでるとか言われるから基本的に笑顔でいるようにしている。
そんでもって――――異世界人。
「そ、そうですね」
「俺の名前は天草輝夜です。」
「アマクサ…変わったお名前なんですね」
「あ、そ、そうか…。この国の言い方だと、カグヤ・アマクサですね。アマクサは苗字です」
「もしかして他の国から来た方ですか!?」
"他の国"という部分に目を輝かせてガバッと乗り出してくる。
再び目の前に現れた可愛らしい顔に目に見えて動揺してしまう。
ち、ち、ち、近い!!顔めっちゃ近い!かわいい!なんかいいにおいする!
って、まてまて!一度落ち着こう。そして胸いっぱいにこのにおいを吸い込もう。
「す、少し落ち着いて下さい」
「あっ…私としたことが、お見苦しいところをお見せしてしまいました。申し訳ありません…」
もとの位置に戻るとショボンと落ち込んでしまった。
長い髪がサラサラと流れ落ち、少し顔を隠してしまうがその仕草も可愛らしい。
やっべぇ嫁にしたい。
それもそのはず。
まるで二次元のキャラクターが画面から飛び出してきたかのような容姿の持ち主であるアイセア相手に二次オタの自分が反応しないわけがない。
アイドル活動でもさせたらかなり儲けられるんじゃ…あぁ、いかんいかん。ついいつもの癖で金のことに結びつけてしまった。
昔から自分の中で何でもかんでも儲ける事につなげてしまう傾向がある気がする。
まぁ、性みたいなものだから今さらどうしようもない気もするけど。
などと考えていると馬車が止まる。
どうやら目的の場所に到着したらしい。
先程まで落ち込んでいたアイセアがハッとした表情になり、最初に会った時のような微笑みでこちらに向き直る。
「ようこそ我らアニアス家の屋敷へ」
主人公無双はここからもう少し先になりますのでもう少しお待ちください|д゜)
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