後日(?)談
天井を見つめて今日の反省に思いを耽らせる。
ピチャリ、ピチャリと水滴が静かな浴場に反響している。
「いっ、いてて...これは完全に失敗したな...」
体を軽く動かすとズキリと刺すような痛みが体を駆け抜ける。
どうやら身体強化をかけても無理な動きをしすぎればその代償はあるらしかった。少し体を動かすたびに体中がきしむ感覚を感じる。引きこもりが少しレベルが上がって体力が付いたからと言って筋力はついていないようだ。レベルが上がると魔力は回復してくれるのにHPは回復してくれないのだろうか。いや、そもそも筋肉痛はHP減少に入るのか?
そんなどうでもいい思考は早々に放棄してその辺んい放り出し、再びぼーっと浴場の天井を眺め始める。
全身血まみれの状態で屋敷に帰ってきた俺を見てアイセアとヨモギが泣きながら飛び出してきたのだ。すさまじい臭いで残っていた兵士たちすら俺に近寄ろうともしてこなかったのに対して二人が死なないでくれとパニックを起こしながら抱き着こうとしてきた時は正直かなり焦った。
これは全部返り血だから大丈夫だと伝えると今度はこの状況になった原因の説明を求められそうだったので、一刻も早くこの臭いとべた付きの苦痛から逃れたい俺はそれを無視して風呂場に駆け込んだのだ。
それにしてもあれは迂闊だった。
『身体強化』した状態で敵陣に突っ込んだ後、あちらこちらから俺を殺さんと迫ってくる殺意と刃を圧倒的な強さでねじ伏せる快感。あの独特な戦場の雰囲気に吞まれえてしまった。なんだかひどく黒くておぞましいものに飲み込まれそうな感情が内から湧き上がってきた感覚を数時間たった今もぼんやりと覚えている。
戻ってこれてよかった。
そうでなければきっと今頃魔物にまたがってモヒカン頭で「ヒャッハー!汚物は消毒だァ!」なんて叫んでいたことだろう。
俺の髪型はどうであれ、とにかく今後は下手なことはせず魔術で戦う事にしようと心に決めることにした。
「なん、だこれ...」
昨晩俺とザックが見張りをしていた時、急に空から救援を名乗る魔術師が降ってきたと思えば魔物の軍勢が進軍しているであろう方向からすさまじい爆発や火柱が上がっていた。
そのまま砦内は臨戦態勢を保ち続け、来るであろう魔物を待ち構えていた。
しかし、もうすぐ夜明けという時間になっても一向に敵は攻めてこない。こちらから再度偵察を出すべきか否かという審議が行われ始めたあたりで再度空から例の男が降ってきてめちゃくちゃ軽いトーンで「あ、掃討終わったんで後かたづけは任せますね」とだけ言ってアニアス領のある方向へと飛んで行った。
そして早朝。隊列を組み、どこへ行ったか分からない敵を見つけるために俺たちは砦から索敵に出たのだ。そこはまるでおとぎ話の災厄の後に踏み入れたような光景が広がていた。まず目に入ってきたのは大量の泥のようなものだ。あたりにはなぜか大量の水溜まりが点在しており、それらには謎の泥のような物が沈殿していた。水溜まりがない部分も乾いた後であろうそれらがそこら中に存在していた。見渡す限りそれらは落ちているため、この規模で何がどうなってこうなったのか全く分からない。
その奥はさらにすさまじかった。一面が氷で覆われていたのだ。地面をなめるように氷が張っていて、そこから発生する大量の冷気によって付近の岩には真っ白な霜が降りていた。しかし、その先に足を踏み入れるためには少々装備が薄かった。多少の防寒性能はある装備だったが、まるで真冬のような寒さに一時撤退を余儀なくされたのだ。
ただ驚いたことに撤退開始時点まで一度も誰も魔物を目撃しなかった。他の兵士たちも自分は昨日の晩死ぬのだと思っていたためか、現状に不安は残るものの生きていることに多少なれど安堵を抱いている様だ。
あの男、アニアス家からの救援を名乗った謎の魔術師。アニアス家が治める領地がこの砦のあるテリア家が治めている領地まで最も近い距離とはいえ馬でも2日はかかる。馬を休ませることを考えずに乗りつぶすつもりで来ても1日以上はかかるはずだ。奴が本当にアニアス領から来たとしたらどうやってあの短時間でここまで来たのかという疑問は残るが、俺たちの命の恩人であることにはきっと変わりはないはずだ。
「おい、ジーク!急いで砦に戻ってまた調査に来なくちゃいけないんだから早くいこうぜ!」
「わかってる、今行くよ」
もしまた会えたなら、ちゃんとお礼を言おう。そう心に決めて俺は走り出した。
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