殲滅完了
俺が想像したのは刀と言っても打刀だ。刀と一口に言ってもそれには打刀と太刀と呼ばれるものがある。
世間一般的に刀と言ったら打刀だ。刃が上を向くように腰に差されており、そのまま相手を切り付けることができる様になっている。
それに対して太刀は騎乗戦闘を前提に作られており、打刀と比べて多少長い。それに馬に乗った状態で揺れながら抜いても危なくないように刃は下が下を向くように履くのだ。
―――って前に名古屋のおも〇なし武将が言ってた。
刀に『性能強化』を施し、より強く、より切れやすくする。
これでド素人で怪力状態の俺が振り回しても折れないし勝手に切れてくれるだろう。
すさまじい速さで近づいてくる何かを目にした魔物たちは一瞬たじろいでしまう。
そして今の俺にはその一瞬があれば十分だ。先頭にいた一匹のゴブリンの首を跳ね飛ばし、スピードそのままに軍勢の中に突っ込む。
まずは一匹。
動体視力や反射神経、脳の処理も底上げしているのでまるですべてが俺より遅くなったみたいだ。
何が起きているのかわからないゴブリンたちの首を薙ぎ払うようにして2匹同時に跳ね飛ばす。
汚らしい血液がワンテンポ遅れて噴水のように上がる。
首を失った胴体はそのまま膝からガクリと崩れ落ちた。
これで3匹。
敵が攻め込んできたのだと気づいたゴブリンたちが一斉に武器を構える。
遅い。
何もかも、すべてが遅い。反応も、対策を立てるのも、行動も。
その一瞬があれば俺は相手を切り伏せられる。といっても力技で無理やり切り落としている感スゴイが。
先程まではある程度の緊張と勢い任せに振っていたせいであまり感じなかったが、刀の切れ味がすこぶるいい。
豆腐とまではいかずともレンジでチンしたリンゴを切っているみたいだ。骨だろうか?ほんの少しの手ごたえはあるものの、そのほかは簡単に切断できる。型もなく、技もなく、ただ力任せに切り付け続ける。15、16―――20、21。
なんだかだんだん楽しくなってきた。
サクサク行くレベリングほど心地のいいものはない。先ほどから力があふれ続けてくる。これは恐らくすさまじいスピードでレベルアップしているという事だろう。
全身が痺れるような快感に包まれ、なおも敵を切り飛ばし続ける。おそらくだが今俺はすさまじく悪い顔をしている気がする。アイセアには何か悪いことを考えているときは大抵そんな顔をしているとこの間言われたが、俺はそんなつもりはなかった。だが今は違う。間違いなく悪い顔をしている直感があった。返り血を拭いながら口角が上がっているのを感じる。
先程の魔術の時もレベルアップの感覚はあったが、ここまですさまじくはなかった。実際に自分の手で殺しているからだろうか。経験値的には対して変わらなくとも、気持ち的にはこっちの方が確かに戦っている感じはする。
恐らく150匹は殺したであろう頃。強化してあるとはいえ体力的にそれなりにつかれてきた。いったん空中に浮いて距離をとる。すると弓兵らしきゴブリンたちが追撃の態勢に入ってきたので慌てて高度を上げた。
弓が恐らく届かないであろう位置まで高度を上げ、現状の自分自身を確認する。
「これは...ひどいな...」
全身が返り血でべちゃべちゃになっていた。敵が近づいてくる感覚は強化された聴覚でわかったし、最悪切り倒せない、避け切れないの場合は『ウィンドボール』の応用で体の周りに風の流れを発生させて360度吹き飛ばしていた。そのおかげで怪我は一つもないが、この汚れ具合だと洗濯してまた着るより捨ててしまってもう一度新しいローブをもらった方かいいかもしれない。
「うわ、中までぐちょぐちょだ...早く帰って風呂に入りたいなぁ...」
ローブを脱いでみると中に来ていたセーターにシャツもローブが勢いで捲れたりしたせいか結構な箇所が血で汚れていた。
というか俺は今ローブの中にセーターという厚着をしているけれど、結局季節はいつなんだろう。というか季節は存在しているのだろうか。
などと関係ないことを考えている間にも真下ではまたも騒がしい声が聞こえてきていた。
何事かと少し降りてみると仲間の死体を食い漁り始めていたのだ。ご丁寧に俺が切り落として食べやすくなったバラバラ死体に一心不乱に食らいついている。
「おいおい、勘弁してくれよ。まるでゾンビじゃないか」
もう恐らく今日は使うことは無いであろう刀を消失させると、青白い光の粒子になって俺の手の中から消えていく。
確かに行軍スピードはかなり落ちたが、眼下にはこれが人間なら世紀末のような光景が広がっている。
「まだ試しておきたいことはあるけど、次は魔術にしておこう。これ以上体が臭くなるのは嫌だ」
魔物の血だからなのか、匂いがすさまじい。腐敗臭、とでもいえばいいのだろうか。とにかく獣臭さと腐ったようなにおいが全身から立ち上ってくる。
匂いにげんなりしながらも再度魔物から少し離れたあたりに着地する。
「次は――火にするか」
最初に比べてかなり数は減ったように思える。元が3万というなら今は1万2000くらいだろうか。
よく考えたら俺がわざわざやらなくても勝手に着火するか。
初めに大きな球状の液体を創造する。直系10メートルほどだろうか。それを空中で待機させ、自分の足元に2メートル程度の穴、それと念のため穴の前にも2メートル程度の壁を作る。
球体を残党たちの上空に向けてゆっくりと飛ばし、中心付近まで来たところで破裂させる。それと同時に俺自身は穴の中に飛び込み、穴に蓋をした。
まるで小雨のように降り注いだその液体は魔物たちが持つ松明の炎に触れた瞬間爆発的に炎上し始める。俺が降らせた液体。そう、皆様ご存知ガソリンである。
数分経った後、穴から出てその様子を見たとき、祖第一印象は地獄だった。
燃え盛る炎の中で大量の魔物が絶叫を上げている。何を言っているのかはわからないが、苦痛からの解放と助けを請う叫びだろう。結局死体処理もほとんど俺がやることになてしまった。あれだけは消しく燃えればきっと砦の兵士たちだけで片付けは間に合うだろう。
「あ、しまった。馬鹿みたいに列になってたんだから上から降らせるより波みたいに地面を這って行く感じの方がよかったかな?」
おそらくこれでもまだ死んでいない魔物はそれなりにいるはずだ。かなりでかい爆発と炎だったし、数千は死んだはず。それだとしても1万はいっていないんじゃないだろうか。
まだかなり燃えているが、少し燃えている中心を迂回して後方も確認した方がいい気がする。
地面を蹴って『飛行』を使用し、時速50キロ程出して飛行する。風の操作ができるので、これだけのスピードで飛んでも向かい風は一切感じない。
魔力の残量は、もともと魔術を創造するときの魔力消費でも総魔力を上げる訓練になると気づいてからは狂喜して創造しまくった他、レベルアップもあってそこまで気にするほど減っている感じはしない。
段々燃えるものがなくなって炎が落ち着いてきたが、俺も炎の向こう側に到着した。
すると、魔物たちが散り散りに元来た山脈方向に逃走をし始めていた。
どうやら俺の心配は杞憂だったらしい。
「もう帰ってもよさそうだな。疲れた...」
空中に浮かびながらぐっと伸びをして俺ももと来た屋敷の方向へと反転する。
「よし、帰るか!」
ようやく大仕事を終えたという達成感を感じながら、少し進んだところでふとあることを思い出して急停止する。
「おっと、火遊びの後の始末はしっかりやらないとな」
すでに消えかけの火だが、一応念のため大量の水と雨雲を創造して消化しておく。
これで心残りもなくなった。
そして今度こそ間違いなく帰路に就くのだった。
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