大規模実験
戦闘シーンを書く快感...ようやくまともに無双してるよ。゜(゜´Д`゜)゜。
少しずつ高度が下がっていくにつれ、だんだんとそれらが黒い点のように見えてくる。松明の明かり×2くらいに考えていたが、どうもそれよりさらに多いらしい。
「うーん、これなら今度サーマルスコープ的な魔術も作ってみた方がいいかもしれないな」
どうもこの暗闇だと肉眼では見えづらい。敵の数の把握のしにくさには地形も影響している。ここの地形は、平地ではなく、巨大な山脈のふもとから続く緑地の少ない岩石地帯。どういうわけか、人の身長の数倍はあるであろう巨石がそこら中に転がっている上に地形の高低が激しい。
なので場所によっては俺の視点からだと見えない部分ができる。
「真上まで行けば溝になってたりするところも見えるんだろうけど、さすがにそこまで行けばばれるだろうなぁ」
見えない部分もあるとはいえ向こうは頭のおかしい数がいる。偉大なる偉人の言葉を借りるなら人がゴミのようだ。いや、人じゃない上にこの場合ゴミじゃなくてアリだな。
敵を確認したので今度は後方を見る。
しばらく先に砦の灯りが見えた。今敵の魔物たちが進軍しているところから約5キロってところあろうか。
それにしても砦が小さい。ここは魔族との国境を守る要ではないのだろうか?いくら数十年攻め込まれていないからと言って経費削減しすぎだろう。コストの削減はしていいところはバンバンいていいと思うがしちゃダメなところは多少無理してでも少しずつ増額していくべきだと思うんだけどな。
敵の軍勢は着々と近づいてきている。新しく作った秘密兵器である魔術たちがどれだけの威力と影響を与えるかわからないが、とりあえず下手に砦の外に出られると巻き込んでしまう可能性がある。敵の行軍スピードからしてそろそろ砦に一声かけておいた方がいいだろう。
そう思い、一度魔物たちに背を向けて後方の砦へと向かった。
「いよいよだな」
「ああ、一匹でも多く魔物を殺してやるよ。そして生き残るんだ」
「そうだな…」
砦の中の兵士たちはほとんどが戦意を喪失していた。うつろな表情で空を見上げている者や、しゃがみこんでうつむいたまま動かない者。泣き出して故郷にいる家族の名前を延々つぶやいている者もいた。
だが俺たちは違う。俺と俺の隣にいるザックは幼馴染だった。同じ村で生まれ、同じ村で育ち、たまに喧嘩して、そしてこの国の兵士になったときも一緒だった。常に共にあり、共に強くなってきた。俺たちは死ぬつもりなど毛頭ない。怖くないといえば嘘になる。それでも俺達は生き残る。そう心に誓ったんだ。
全身の震えをこらえ、敵がいるであろう遠くの灯りを見つめる。この距離から見えるだけでもすさまじい数の灯りがある。先行偵察では少なくとも3万はいるだろうという話だった。この砦にはたった1000人ぽっちしかいない。隣のアニアス領へ救援要請をしたとはいえ、この国はここ十数年軍事にほとんど力を入れていない。アニアス領からの救援だってそう多くないだろう。それでもここを通せば大量の死人が出る。男は食われ、女は犯されて死ぬよりひどい目を見ることだろう。そんなことは許されてはいけない。
「絶対、勝とうな」
「もちろんだ」
ザックの声も震えている。俺もザックもわかってるんだ。勝てない。勝てるわけがない。どう頑張ったって生存は絶望的だ。今すぐこの砦から逃げ出したとしても敵前逃亡罪で人間に殺される。そんなのは嫌だ。人の手で意味なく死ぬくらいなら一匹でも多く魔物を殺すために戦って死にたい。それはきっとザックも同じだろう。
これから先、自分の身に起こるであろうことを想像して目を瞑った。
「お、おい!なんだあれ!?人が落ちてくるぞ!!」
慌てて目を開け、何事かと思えば人が、落ちてくるだと?
「お、おい、急にどうしたんだよ。おかしくなっちまったのか?人が落ちてくるわけ......」
ザックが口を開けて見え挙げている方向を見る。
その瞬間自分の目を疑った。人が、空から落ちてくる。いや、落ちてくるというかゆっくり降りてくる。
「あ、あのー、ここの砦の一番偉い人に伝えて欲しいんですけど......」
それは黒いローブをまとった少し冴えない感じの男だった。歳はそうとっていない印象で、おそらく俺とザックの少し上くらいではないかと思った。
俺より先に正気に戻ったザックが口を開く。
「な、なんだお前は!?魔族の手先か!?誰か弓を持ってこい!!」
「ちょ!?ちょっと待って!俺は救援の手紙を見てアニアス家から来たんだよ!怪しいものじゃないって!」
そういいながら男はローブの胸にあるアニアス家の紋章を手で引っ張るようにこちらに押し出し、指をさして強調する。
「きゅ、救援?し、失礼した。アニアス家からの救援は......あなた一人だけなのか?見たところ魔術師のようだが......」
いつまにか騒ぎを聞きつけて他の兵士たちもここに集まってきていた。そのうち将軍殿も駆けつけてくださるだろう。
「うーんと、そのうち来る......かな?死体処理はそっちに任せることになると思うから、後のことはよろしく頼むよ。とりあえずしばらくの間砦から誰も出ないようにしておいてくれ」
それだけ告げると男はローブをはためかせ、再び上空へと飛び上がっていく。
「お、おい!それはどういう――」
「なんだ?これはどういう騒ぎだ?」
「将軍殿、そ、それが空から救援を名乗る謎の男が―――」
「さてと、これで準備は整ったか」
加速しながら魔物たちがいるであろう灯りの方向へと飛行していく。
これは俺が新しく作り出した魔術のうちの一つで、風の属性を持った魔術、『飛行』だ。どうやら魔術のネーミングは作るときに俺がぱっと思い浮かんだものになるらしく、ステータスカードにはカタカナの名前と漢字の名前が混在することになってしまっていた。本当のところならば、魔術の名前はかっこいいカタカナ表記で統一したかったんだが、どうも名前の変更というのはできないらしい。もしかしたら名前を変更するための魔術というものでも作ってしまえばできるのかもしれないが、そうまでしてついた名前を変えようとも思わない。そのための魔力を他の攻撃系や便利な魔術の創造に回したほうがましだ。
ちなみに魔術の創造以外でもそうだが、創造を使おうと思うと無理なものは無理な気がするし、行けそうなものは行ける気がする。かなりあやふやな基準だが、何となくの感覚で魔術を使っているわけだから、別に感覚も少し大雑把でも構わないだろう。
そうこうしているうちにもう魔物の軍勢との距離は1キロ程度になった。そろそろ下に降りよう。
先程とは違い、一気に降下して着地の瞬間だけ風の魔術で減速させる。
ほら、かっこよさは大事だしね。
「ここからならそれなりに射程範囲だろ」
先程から向こうも徐々に近づいてきているので残り300メートルほどになっていた。暗闇の中で黒ローブと言うだけあってか向こうはまだこちらに気づいてはいない。
チョビーの時と同じように、かがんで片手を地面に触れさせる。
地面に向かって一気に魔力を流すと、瞬く間に手を起点にして魔物たちがいる方向の地面凍り付き始めた。
『ニヴルヘイム』。すべてが凍り付く白銀の世界。北欧神話の九つの世界のうち、下層に存在するとされる冷たい氷の国。ロキの娘ヘルが投げ込まれた場所だ。
今の俺では視界に映るものすべてを凍り付かせることはできない。だが、この3万の3分の一程度なら恐らく可能だ。部隊の3分の一が死亡、または使い物にならなくなった軍勢はほぼ壊滅状態だ。相当なアホでもなければ恐らく引いてくれるだろう。もしそうならなかった場合は......残りの魔術の実験台として全滅してもらおう。
「ギィィィィィィイイ!!??」
「ギィス!?ギグギャァァア!!!!」
魔物たちの悲鳴が響き渡る。氷が奴らの足元まで届いたのだろう。悲鳴は増え続け、恐怖とパニックは伝染していく。
冷たい冷気が足元から立ち上り、体を撫でていく。
前に使った時も思ったが、使っている術者の俺には冷気が少し涼しいなくらいにしか影響がないらしい。
これは夏には便利かもななどと考えていると状況に変化が現れ始めた。
見えていた松明の明かりが次々に倒れていき、残りも振り回されたり統率のない動きを見せ始める。俺の思惑はうまいことはまっているらしい。
「グォォォオオオオ!!!!!!」
ひときわ大きい咆哮があたりにこだまする。その直後一斉に灯りがこちらへ向かってかなりのスピードで接近してきた。それと同時に疑問が浮かぶ。
「アレを率いているのは魔族じゃないのか?」
図書室で読んだ本では魔族は人間と変わらない知能を持っているって話だったがはずだ。それにあの咆哮。魔族の声は聴いたことは無いが、魔物の物だった様な気がする。
「どうも雲行きが怪しくなってきたな」
だとしても向かってくるならひねりつぶすだけだ。そうしないとこっちが殺られる。ゆっくりと立ち上がって俺を殺さんと迫ってくる敵を見据える。
先日例の盗賊を殺してから何か吹っ切れたのか、あれから生き物を殺すことに少しためらいが薄くなった気がする。今までなら生き物の悲鳴を聞いただけでも多少躊躇してしまっただろうしな。全身が焼けただれる苦痛を味わいながら上げる叫び声と人の肉の焼ける匂いを絶命するまで嗅いでいたせいだろうか。まぁ、今はそんなことはどうでもいい。
段々と近づいて目視でき始めた敵の見た目は醜い小人という印象の者が多かった。おそらくあれがRPGで言う所のゴブリンというやつなのだろう。
先程は氷だったので、別系統の魔術を試してみよう。
残り数十メートルほどになったところで思い切り地面を踏みつける。
その直後に敵の足元の地面が爆裂する。その勢いで俺の後ろまで死体が飛んでくるが、そのほとんどは手足がもげたばらばらの部品だ。
今使ったのは地の属性を持つ魔術で、『アースクエイク』だ。
狙った場所を望んだ威力、形に隆起させたり、振動させることができる。
今回の場合は一瞬広範囲の地面を陥没させて敵を空中に浮かせた後、かなりのスピードで長さ2メートル、直径1メートルほどの太い棘を複数発生させた地面を下から叩き付けた。
俺はどうやら炎や光のような形のない魔術の系統よりも氷や岩、どちらかと言えば水もだが、形のある系統の方が得意なようだ。感覚的に自分の延長線上にあるイメージをつかみやすい。
松明の数はかなり減ったが......それでも突っ込んでくるか。
俺の周りに飛んできただけでも十数体の死体が作れるだけのパーツがある。これだけ損害を出してもまだ来るってことはほんとにつぶれるまでやり合う気なんだろう。
「なら、こっちも思う存分実験に付き合ってもらおうか」
俺は形のある魔術の方が得意だが、別にそれ以外が使えないわけじゃないし苦手でもない。
自分自身に対して意識を向け、『身体強化』をかける。その後、刀を創造する。
「さて、筋トレも何もしてないけど、どこまで近接で戦えるかな?」
屈伸運動などの簡単な準備体操を済ませ、刀を抜く。
はっきり言って刀で近接戦闘なんてしたことは無いし、向こうの世界にいた頃も剣道なんて習ったことは無い。だが、『身体強化』をそれで余りあるほどの性能に仕上げている。
「さて、行きますか!」
そう誰に宣言するでもなく声に出し、俺は地面を蹴った。
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