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魔道の入り口

「それで、結局兄さんは私の耳としっぽをどこに隠してしまったですか?」

「別にどこかへやってしまったわけじゃないさ。そこにはないけれど、あくまで無いように感じるだけ…というかなんというか…」

「それはどういうことですか?カグヤさん」

「私もどうやったのか気になるのよさ。まさかとは思うけど…固有魔術?いや、そんなわけないのね。それ以外って言うと――」

「半分正解で半分間違いかな」

「それは、お兄さんが固有魔術を使えるってことなのよ?」

「まぁ、そうなるな」



そう言うとルーは少し目を伏せて「そっか」とつぶやく。何か気に障ることを言ってしまっただろうか。



「ど、どうかしたか」

「ううん、気にしないでなの。それでどうやったか教えてくれるの?」

「ああ、今から説明するよ。もしさっきみたいな不測の事態が起きたら、みんなならどうする?」

「不測の事態ですか?そうですね、私ならさっきみたいにどこかに隠れたりその場から離れようとすると思います」

「アタシなら全員ぶった切ってやるのよさ!」

「私はどうだろう…。私も隠れたり逃げたりするです」

「そうだね。必ずみんな何か現状を打開するために行動するはずだ。でもその手段は?逃げるにしても徒歩なら結局追いつかれてしまう。向こうは馬に乗ってるからな。隠れるにしてもただ隠れるだけじゃだめだ。向こうには自分を見つける術があった。戦うにしてもルーがもし何も持っていないか弱いただの女の子だったら?それらの行動は成功しない確率の方がずっと高くなる。むしろほぼ不可能だと言っていい」

「うむむむむ…結局何が言いたいのよさ」



少し難しい話になってきたからか、ルーが両手の人だし指でこめかみを抑えている。他の二人もお互いの顔を合わせて首をひねっている。あまり理解している様な反応ではない。



「ならばそのための手段を作ってしまえばいいんだ。早くここから遠ざかりたいなら馬より早い乗り物を。隠れたいならあの魔道具を無効化するための何かを。耳としっぽを隠したいならそうできるなにかを。たとえば、"望み通りの姿かたちに擬態できる魔術"とかね」

「ま、まさかそんな。ありえないのよさ!たった今さっきこの場で新しい魔術を作ったなんて」

「詳しくは言えないけど、俺の固有魔術ならそれができるんだ。だからこうやって――」



手を伸ばしてヨモギの頭に触れる。帽子をうっかり落としてしまわないようにそっと指先で持ち上げ、軽く指を差し込む。指先が髪に触れるとヨモギはすこし顔を赤らめて「あっ」と小さくつぶやくが、その後に「えへへ」少し照れながらも笑顔で接触を許してくれた。



やばい。うちの妹がこんなにも可愛すぎておかしい。鼻血出そう。全力で頭なでなでしたい。



必死に今すぐにでも抱きしめて撫でまわしたい欲求を振り切る。この保護よくそそられる笑顔の破壊力はえげつないな。



守りたい。この笑顔。



先程ヨモギの耳としっぽをなくした要領で元に戻す。

すると、イメージ通りの先程と同じ可愛らしいキツネ耳が生えていた。



「こんな感じだ」

「流石です。カグヤさん」

「兄さんすごいです!」

「そ、そんなことが、ありえない」



アイセアとヨモギは俺のことを驚きと羨望の眼差しで見ているが、ルーだけは青ざめた表情をしていた。先程から明らかにルーの様子がおかしい。どこか体調が悪いようなそういうたぐいのものではなかったように思える。こうなったのは――俺が固有魔術の話をしたあたりからか。

何か過去のトラウマでも思い出させてしまっただろうか。俯いて青い顔でぶつぶつと何かを言っている。まるでさっきまでのヨモギのようだ。明らかに正常ではない。



「ルー、どうかしたのか?」

「っ!?な、何でもないのよさ。それじゃあヨモギのこと、頼んだのよ」



そういうとガタリと椅子から立ち上がり、そそくさとこの場から立ち去ろうとする。その表情には焦りや恐怖が垣間見えた気がした。



「あ、ああ。って、おい!どこ行くんだよ!」



その問いに対する答えはなく、あっという間にその小さな背中は群衆の中に消えて行ってしまった。






完全に日は落ち、あたりは何もない草原。月明かりが照らすその場所に"少女"は一人立っていた。



「じぃや。いる?」

「はい、ここにおります」



私の陰から白髪の老人がまるで生えてくるかのように出てくる。彼は黒い執事服に身を包んでいた。



「さっきの固有魔術の話。じぃやはどう思うのよさ」

「正直に言ってにわかには信じられませんでしたな。ですが、目の前で見せられてしまっては納得せざる負えません。ヨモギ殿を助ける時に兵士どもを凍らせた氷。ヨモギ殿の耳を消したり生やしたりと。それもどちらも無詠唱だったように思えます。わたくしもお嬢様の視覚を共有させていただいておりましたがばれないようにごく小さな声で囁いているようにも見えませんでした。それに氷に至ってはあの速度でsの威力です。間違いなく我々にとって大きな障害となりましょう」

「そう。アタシもそう思ったのよさ」

「わたくしはてっきりお嬢様はあの場で切りかかるかと思いましたよ。あの男は気づいていなかった、または気づかぬふりをしていたようでしたが、途中で一度少し殺気が漏れておりましたぞ」

「今後のことを考えたらついどうしても少し抑えられなくなっちゃったのよさ。それでもアタシはそんな"人間"みたいな汚いことはしない。アタシはあのお兄さんに恩を作ってしまったのよさ。だからそれをあだで返すなんてことは絶対にしたくないのよ」

「さようでございますか…。それで、これからはどうするおつもりですか?このまま他の街も見て回りますか?」

「いや、いったん戻るのよ。今回のお兄さんの件、対策を立てなければアタシたちがやられてしまうのよさ」

「わかりました。では参りましょうお嬢様。いえ、"魔王様"」



彼が影の中に再び沈んでいくと、私の体も一緒に沈み始める。



お兄さん。アタシはお兄さんとは戦わないことを祈ってるのよ。



少女たちが完全に影に飲み込まれた後にはただもとと同じ何もない草原が広がっていた。






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