お嬢様に拾われました
次に気がついたときはもう夕方だった。
先程まで見えていたはずの青い綺麗な空は赤く染まりもうすぐ夜が訪れることを知らせていた。
またも硬い地面の上でしかも体育座りのような体制で寝てしまったせいか腰が痛い。
重い体を再度起こし路地から出て辺りを見回す。
すると昼間のような騒がしさや活気は既になく、誰もが足早に帰宅しているようだった。
「今何時だろう…どっかに時計かなんかねぇのか?」
そう思い上を見上げると同時に何か街灯のようなものが光りだす。
「うわっ!?なんだこれ、ここ電気通ってんのか?」
「電気が通ってんならそれりに文明レベルが高いってことだと思うが」
さらに近寄ってみると街灯の中には電球はなく、その代わりに小さな結晶体のようなものが浮遊していた。
どうやら光っていたのは電球ではなくこの結晶のようだ。
「見たことないな…一体何なんだ?これ。電気ならとか思ったけどよく考えたら魔法って可能性もあんだよな。もし魔法で作った光る宝石ですとか言われたら文明レベルはちょっと判断できなさそうだぞ…」
そうこうしているうちにも日が暮れていき、気が付くとあっという間に真っ暗になってしまった。
こちらに四季があるのかはわからないが、パジャマ一枚の薄着で外に出られるような暖かさではなかった。
「さ、さ、さ、さぶび」
歯をガチガチと鳴らしながら体を必死にこすって暖を取る。
今の季節はいつなのか、というかこっちに季節があるのかどうかもわからないがこんな寒さでははっきり言って死ぬ。いや、はっきりしなくても死ぬ。そう、分かる。はっきりとな。
何とかしてどこかあったかいところに行かないとマジで死ぬってまじで!
最悪営業スマイル(2年のブランク)を使ってどうにかどこかの家に転がり込むしかねぇな…
「よし!…いやでも…」
「行かないと死ぬんだから行くしかねえ!…いやでも…」
と、何度か立ったりしゃがんだりを繰り返す。
天草輝夜22歳…異世界に来てやっていることがこれとは。
これ傍から見たら完全に不審者だな。
だってこの二年の引きこもり生活でろくに人と話してないんだもん!しょうがないんだもん!
「覚悟決めていくぜ!うおおおおおおおおおおおお!!!!」
結局ビビって行けなかった。
またも冷たく寂しい地べたで体育座りを決め込む。
みじめだ。激しくみじめだ。
はたから見たら俺はスラムのおかしな奴が錯乱して変な格好で町まで出て来たとか思われるかもしれない。
いや、そもそもこっちにスラムがあるかどうかも…なんてくだらないパターンは今日一日でやりつくした。
はぁ…なんとか暖を取る方法を探さないといけないなぁ。
こっちの世界には流石にダンボールなんてないだろうし、そのへんに布切れでも落ちてないだろうか。
そう思い立ち上がったとき眼前に一台の馬車が止まった。
あまりに突然のことで立ち尽くしている俺の目の前に扉が開かれる。
キィ、と小さく音を立てて開いた木製の扉から女の子が出てくる。
暗くて顔はよくわからないが可愛いのは間違いない。
ここに来てようやく異世界要素が!?
「もし、あなたは旅のお方ですか?」
「あ、いや、その。旅というわけではないんですが少し困ったことになってしまって。今は完全に一文無しです…」
「それはいけません!よかったら私のお屋敷にいらしませんか?」
「えっ!?いいんですk」
いや、ちょっとまて…なんかこの展開漫画で見覚えが有るぞ。
これでのこのこついて行ったら美味しい食事と暖かい寝床が用意されてて安心しきったところを後ろからグサリ――なんてことに…。
「どうかなさいましたか?」
「あぁ!?っと…いやぁー、その…」
やばい。ここで俺の得意技対話拒絶が。
「わたくしにはお気を使わずに是非いらしてください。こんなところで薄着に裸足では風邪をひいてしまいますよ?」
「た、たしかに…」
今日の宿も今後の生活も全く見通しがないのは確かだ。
ここでやられてもそのうち野垂れじぬだけ。
いや、どっちにしてもこえぇよなぁ。
などと考えているともう一歩こちらに女の子が近づいて来る。
街灯の明かりの中に入ってきた女の子と目が合う。
綺麗な薄桃色の長い髪は街灯の光で輝き、まるで吸い込まれるような翡翠色の目でニコリと微笑まれる。
「是非とも行かせてください」
考えるよりも先に彼女の手を取っていた。
童貞は美少女の笑顔に弱いのだ。
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