謎の美少女二人組
「じゃあ、今日の授業はここまでにしよう」
「はい、先生」
返事を出してから2日後、早速俺はアイセアに魔術を教えていた。教えるといっても実践的な魔術より最初は主に魔術の仕組みや成り立ちからだ。俺もその辺についてはあまり詳しくないのでこの二日間である程度予習してきた。この屋敷の図書室には世界地図から魔術関連まで揃っているのでそれらの資料は事欠かない。
「今日は午後から街に出るんだろう?」
「はい、先生も一緒に来てくださるんですよね?」
「まぁ、そうだね」
彼女には俺が護衛だということは黙っておこう。言ってしまえば俺も連れて行きたがらなくなるかもしれない。業務的に、というより個人的にそれはちょっと悲しい。
「大丈夫ですよ。先生が護衛の代わりというのはもうわかっていますから」
突然の衝撃発言に驚いて彼女の顔を見る。いつもどおりの可愛らしい微笑みだ。
とりあえずここは冷静を取り繕おう。
「私の瞳、この瞳は特別ですから」
彼女の瞳、美しい翡翠色の瞳だ。見ているとまるで引き込まれそうな感覚を覚えるような美しい瞳。それが特別とはどういう意味だろうか。
「この目は聖目と言って、一口に請願といっても様々な種類はありますが、私の目は相手の本質を見抜く力があります」
その言葉を聞いた瞬間全てのピースがハマった様な気がした。
アイセアの一言で屋敷の住人全てが途端に俺を無害判定したこと。
アイセアをさらった盗賊のイグニスの親バカを知らないのに必ず身代金がもらえるという自信。
そして今、俺へ向けて放たれた言葉。
「そ、それは、アイセアにはどこまで見えているんだ」
「さあ、どこまででしょうか」
今までただ美しいとしか思っていなかった翡翠色の瞳が、怪しく光を放っていた気がした。
午後は予定通りオータスに出てきた。オータスというのはアニアス家が治めている大きな都市の名前だ。
相変わらず賑わっている街だと感じる。どこに行っても活気があふれていようだ。その影ではイグニスの数え切れないような工夫や苦労があったであろう。
アイセアに付き添い、見回りがあらかた終わったのでふと体を伸ばす。すると全身からパキパキという音がした。
最近は可愛い可愛いアイセアたんの前でカッコつけようとしてまともな人間装ってるからなぁ。いろいろ疲れも溜まってるみたいだ。
そろそろ俺も動きたいんだが…。
「どうかなさいましたか?」
「あーっと、いや、大丈夫だよ」
「私に嘘は通じないってわかってますよね?」
「うっ、そうだった…」
「それで、何かあったんですか?」
「うーん、これは俺個人でやろうとしてることだからお給料が入ったら計画を始めるつもりだよ」
「ふふっ、今"計画を始める"って言ったときまた悪い顔してましたよ」
どうやら俺が普段から色々と妄想を膨らませているが、そういった時は必ず決まって悪い顔をしているらしい。
これじゃあ俺が頑張って取り繕ってた意味がないじゃないか。
瞳のことも合わせて尚更無駄な努力だったってわけだ。
などと考えていると背中に謎の衝撃を受ける。衝撃というより何かがぶつかってきたような感触だ。
「なん―――う、うわ!?だ、大丈夫か!?」
俺の背中に倒れ掛かっている女の子がいた。
小柄で燃えるような赤髪が目立つ少女だ。それにその少し後ろにはもうひとり銀髪の少女が力尽きていた。
「お…」
「お?」
「お腹すいた…」
「うまい!うまいのよさ!」
「はい!こんなまともな食事久々に食べました!」
「そうかそうか。それは良かったよ」
目の前で成人男性の一回分の食事×3セット分くらいの量を軽く平らげている赤髪の少女がルー。それに続く勢いで食事を進める銀髪の少女がヨモギというらしい。
ルーは少しだけ焼けたような褐色の肌にその特徴的な赤髪がよくにあっている。それに腰には美しい装飾が施された剣をさげている。ヨモギは少しルーと比べるとみすぼらしい服装をしているように思える。綺麗な長めの銀髪を方のあたりで緩く二本に結んでいる。いわゆるおさげだ。それに加えて大きめのベレー帽を被っている。
なんでもかなり遠くの方からずっと二人で旅をしてきたとか。
とりあえずお金が無かったので剣を作って売り飛ばした。この間の盗賊との戦闘でレベルも上がり、魔力を酷使することでスタミナのように総魔力量を挙げられることに気づいてからは限界まで魔術を酷使するトレーニングをしている。ここ数日の付け焼刃だが、それなりに効果はあったようだ。もう剣の一本や二本ではそうそうふらつくことはない。
「ほんとお兄さんがいい人でよかったのよさ!」
「ホントです!ルーさんってば考えなしに勘で進む方向決めちゃうから何日もおんなじとこぐるぐるしてホント大変でした」
あらかた食事を終えた二人が事情を話してくれた。
ルーはあちこちを旅して回っているらしい。そしてその途中で魔物と盗賊に襲われている村を発見。おそらく盗賊が何らかの手段で魔物を村に誘導したんだろう。そして、魔物と盗賊を同時に相手にすることなど小さな村の自警団などにできるはずもない。ルーが到着した頃にはもうほとんど終わってたらしい。そして一人でも生き残りを探していたところ瓦礫の下に隠れていたヨモギを見つけた。
ヨモギをつれて一番近い大きな都市であるこのオータスを目指して歩きだしたのだが…それはそれはひどい道のりだったらしい。
ルーはいわゆる脳筋、それも筋金入りらしい。近接戦闘になれば凄まじい腕前らしいが、地図など持っていない上に基本その後自慢の勘は外れるときたものだ。普通に徒歩でも1週間で着くところを倍の2週間もかかったらしい。もともと持っていたルーの食料と襲われたあとの村の残骸からなけなしの食料を集めてもとても二人が2週間も食いつなぐことはできなかった。そしてようやくたどり着いて今に至るというわけだ。
「けふー、満足満足なのよさ!」
ルーが満足満足と言わんばかりに膨らんだお腹を撫でる。
あの小柄な体型のどこにあんな量が入るんだ?
「あ、今お兄さんお前のどこにその量が入るんだとか思った?」
「ま、まぁな」
なんだ。この世界の住人はみんな人の心を読るのか?
「ふっふっふー!乙女のぼでーには秘密がいっぱいなのよさ!」
そう言いながら無い胸を張る。
どうやら乙女の肉体は俺の知らない秘密がいっぱいなようだ。
その姿に同じ感想を抱いたのか少し呆れた視線を向けたあとにシルビアがこちらに向き直る。
「お兄さん、今回は本当に助かったのです。」
「いや、お礼には及ばないよ。当然のことをしたまでだ」
「おっほん!それでー、ちょっと相談があるのよさ」
「相談ですか?」
アイセアがそう尋ねると「そうなのよ!」とルーが答える。
どうやらここからが本題らしい。
「このヨモギをお兄さんとお姉さんのお屋敷で雇ってあげて欲しいのよさ」
「雇う?」
「そうなのよ、この街には元々この子のお仕事を探しに来たのよさ」
「なるほど…そういうことか」
おそらく彼女は俺たちがこの一体を領地として治めているアニアス家の関係者と分かっているのだろう。おそらく理由は俺のローブの胸の部分についている家紋だ。他がそう目立つ装飾ではないのにこの家紋の部分だけ色鮮やかに刺繍が施されている。バレるのも当然だ。
「それで、どうする?アイセア」
「そうですね…まずは―――」
そこでアイセアの空気が変わった。
普段の朗らかなだけの微笑みから少し緊張が走るような雰囲気に変わる。
「先ほどの"作り話"ではなく本当の理由をお聞かせ願えますか?」
「作り話?」
「はい、先ほど彼女たちが言っていた村が襲われた、というのは嘘です」
「―――何を根拠におうおもうのよさ?」
「私のこの瞳に誓ってあなた方の話したお話は作り話だと断言致しましょう」
え?どうしたのアイセアたん、めっちゃかっこいいんですけど。惚れそう。
「!…そう、あなたがあの…それなら仕方ないのよさ」
そう言うとルーが席を立とうとする。
ヨモギは未だに現状を理解できていないといた感じだ。俺たちとルーを交互に見ているが、その顔には焦りや怯えが見える。
「ちょとまった。俺たちはどんな理由でも襲ったりしないぞ?流石の俺でもお前たちに手を出したりはしない」
彼女たちの見た目からして年齢はどちらも13歳程度。流石に俺もそんな子供相手に襲いかかったりしない。
…たぶん。
アイセアと二人が何を言ってるんだコイツはと言いたげな視線をこちらに向けてくる。俺は今まで全て会話を理解している様な顔をしていたが、実際は対して理解なんてしていない。どちらかというとヨモギ寄りだ。
「ぷっ、あっははははははは!!!そんな話誰もしてなかったのよさ!!普通に真顔で聴いてるから話の内容理解してるのかと思ったら全然理解できてなかったのよさ!!」
ルーがお腹を抱えて地面を転げ回りながら笑っている。ヨモギに至っては少し俯いて顔を赤らめて黙り込んでしまっている。
冗談半分でいったつもりなんだけどなんかだんだん恥ずかしくなってきた。
「っはぁあ!!こんなに笑ったの久しぶりなのよさ…よりにもよって真顔で言わないで欲しいのよ。なんだかお兄さんには話しても大丈夫な気がしてきたのよさ」
そう言うと今まで俯いていたヨモギがビクッと震え、懇願するような目でルーを見つめている。
「この人たちならきっと大丈夫なのよ」
「る、ルーさんがそう言うなら…」
「じゃあ、事の顛末を聞いて欲しいのよ。今度は正真正銘嘘偽りない真実なのよさ」
そこから語られた話は驚愕の真実だった。
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