デメリット
気持ちのいい昼下がり、俺は自分の称号について考えていた。
俺が今持っている称号はこんな感じ。
・創造者
魔術『創造』を行う際に知識がなくともどんなことが起こるかのイメージさえあれば、それに近い事象を『創造』出来るようになる。
ただし、あくまで近いものであり、イメージのもとになった本来のものと全く同じになるとは限らない。
・降り立ちし者
魔術や剣技の感覚が鋭くなる。また、魔力の成長を大幅に助ける。
・惰眠
睡眠時の魔力の回復効率が少し良くなる。
・守銭奴
金銭にかかわるすべてにおいてステータスの上方修正がかかる。
・スライムキラー
スライムに与えるダメージが少し大きくなる。
・人殺し
この中で人殺しはタッチしても何も起こらなかった。
このことからこの世界における二つのことが予測される。
恐らくこの世界における称号とは、俺が考えていたただあるだけの物とパッシブスキルの役割を果たしている物がある。その代表例として挙げると『人殺し』と『創造者』だ。『創造者』は常に発動している効果があるが、『人殺し』には何もない。触れてみても何も起こらなかったのは恐らくそこに何も書かれていないからだろう。
「ふーっ、せっかくの夢にまで見た異世界なんだ。俺は俺のやりたいことをやろう」
何はともあれこれでアイセアの魔術の家庭教師はできそうだ。
流れの意識の仕方は反復練習で何とかなるってフィーナも言ってたしな。
それに護衛の件も新しく得た『空中創造』を活用すればできることも増えるだろう。
早速そのできることを増やしに行こうか。
「ここで何をするんですか?」
「んー、ちょっと魔術の実験をね」
「それはさっきも聞きましたよ。どんな実験をするんですか?」
「それは見てからのお楽しみかな」
「そうですか!それは楽しみですね!」
上機嫌なアイセアを連れて屋敷の地下へと続く階段を下っていく。
フィーナに武器庫の場所を教えてもらっているところをアイセアに見つかり、魔術の実験に使う剣を取りに来た。
それとさっきから少し気になることが…。
「なんだかちょっと距離が、その、近くないか」
「そんなことはありません!これくらいがちょうどいいんです!それにカグヤさんはこれから私の先生になるんですよね?」
「な、なぜそれを…」
「お父様がおっしゃってました」
イグニスめ…余計なことを…。それはそれとしてアイセアに先生と呼ばれながら上目遣いでのぞき込まれるのはなかなか背徳的なそそるものが―――いやいやいや!
「ま、まぁたぶんそうなるかな。今日の実験は俺の仕事のために重要だからしっかりやっておかないとね」
嘘はついていない。ただもう一つの護衛の方の仕事だけど。
しばらく降りていくと古びた木製の扉が現れる。
フィーナの話では、ここは昔の倉庫で今はあまり使われていない武具や書物を物置代わりにしまっているらしい。
フィーナの『アイスボール』が消えなかったので恐らく『インプット』するのにもとになったものが消えるなんてことは無いとは思うが何事も保険は大事だ。もし失敗でもしてその兵士の大事な剣を壊してしまったら取り返しがつかない。なんたって俺はまだ給料の入っていない一文無しだ。
金については俺の"やりたいこと"のためにいくらでも必要になってくる。
そのための貯金はいくらあっても足りないからな。
っと、思考が少し脇にそれてしまった。
中に入ると薄暗く、手元にあるランプだけだと奥まで見渡すことができない。
しかし目当ての者は案外すぐに見つかった。
「よし、これが一本あればいいだろう」
「今は使っていない剣、ですか?」
「使っていないとはいえ特別ボロボロなわけじゃない。あくまで実験だしこれで十分だろう」
一般的に連想されるゲームにもよく出てくるノーマルな片手剣を手に、地上へと戻る。
アイセアは剣を俺の手から取り、「なにか違いがあるのでしょうか…」とにらめっこしている。
しかしこの剣は特別何も変わったことは無い。そうわかってはいたが、頑張って考えている姿がかわいらしかったのであえて何も言わないことにした。
いかんいかん、このままだとイグニスのことを馬鹿にできなくなってしまう。
外に出て、屋敷の庭に向かう。
この時間庭の一部分を貸してもらうことはすでに許可をもらっている。
アニアス家の屋敷の庭は予想していた以上に広く、大きな噴水や庭園、花々が咲き誇る花壇などがたくさん並んでいる。そんなだだっ広い庭の一部程度占領してしまっても別にメイドたちや警備兵の仕事の邪魔にはならないだろう。
「『インプット』」
そう口に出すと、全開『アイスボール』をインプットしたときと同じ様に体の中に何かが入ってくるような感覚を覚える。
恐らくこれが創造者の能力を扱う上での設計図のような役割を担ってくれるのだろう。
「それにしても」
やっぱり口に出して能力名を使うと技使いました!って感じが出てかっこいいな。
わざわざ口に出して言う必要もないことは先程の『アイスボール』で実証済み。
しかし気持ち的には隠す必要のないときは口に出して魔術を使用した方が魔術っぽい感じがする。
「カグヤさん?特に何も起きていないようですが…もしかして実験に何かアクシデントでも起きたのですか?」
アイセアが少し心配そうな顔を向けてくる。
しまった、はたから見たら確かに俺の魔術は何も起きていない。失敗したようにしか見えないだろう。
「いいや、ちゃんと成功したよ。その証拠をこれから見せるからね」
右手に魔力の流れ意識して、集中させる。前の刀ができたならこっちはむしろより確実にできるはずだ。
右手から青白い粒子が発生し、俺の望み通りの形を形成していく。
「すごいです!何もないところからもう一本剣が出来上がりました!」
「あぁ、だが…もう二つやってみたいことがある」
持っていた剣を左手に預け、右手にもう一度今の剣とは違う剣を創造する。中二時代の俺は刀には興味があったが西洋の剣にはいまいち興味がわかなかった。原因はその当時は待っていたアニメのせいなんだが、その説明はまた今度にしよう。
要するに俺は刀の作り方はわかっていても剣の作り方はわからない。インプットもどうやら知識を得るのではなくそのものをコピーすることしかできないようだった。もしかしたらレベルが上がっていけば改良もできるかもしれないが少なくとも今の俺にはまだ無理だ。
「よし、アイセア。少し離れていてくれ」
「え?わ、わかりました。ですがあまり危ないことはしないでくださいね」
「わかってる。そんな心配するようなことはしないよ」
右手にできた剣を左手に持ち替え、先に作った剣を右手に持ち直す。
そして左手の剣を地面と平行にするように持ち、右いての剣を思いっきり振り下ろした。
キィィン!!
金属と金属がたたきつけられた音が響く。
そして手元の剣は――――左手の剣にひびが入っていた。
「やっぱりか」
恐らく確かな知識や一度インプットを行ったものでないものは称号、いや、これからは区別するためにパッシブスキルと呼ぼう。パッシブまでつけたのはもしかしたらこの世界には本物のスキルが存在するかもしれないからだが、今はそこは大した問題ではない。それら以外の物はスキルの『創造者』のアシストを挟んで創造する。そうなるとあの文章の効力がかかるだろう。
創造者
魔術『創造』を行う際に知識がなくともどんなことが起こるかのイメージさえあれば、それに近い事象を『創造』出来るようになる。
ただし、あくまで近いものであり、イメージのもとになった本来のものと全く同じになるとは限らない。
そう、望んだ結果に必ずしもなるとは限らない。恐らくはその物にあったデメリットが固定、またはランダムで付くのだろう。例えば今の剣なら耐久値に、もし宝石なら輝きに、爆薬なら威力にといった感じだろうか。
あくまでこれらは俺の予測、仮説にすぎない。今回のことで俺は俺自身の魔術や称号をほとんど理解していないことがよくわかった。これからも新しいわからない能力が増えるたびにこういった実験は行った方がいいだろう。
それと―――――
「すごいです!"先生!"流石は私の"先生"です!」
「は、恥ずかしいからやめてくれ。それにまだ正式にアイセアの家庭教師になったわけじゃない」」
そういうと今まで俺の魔術を見て目を輝かせていた表情から一変してシュン…と悲しげな表情になってしまう。
「もしかして私のお守りはお嫌ですか」
うぐっ!!しょんぼりした表情もまたかわいい―――なんてことは言えるはずもない。
うるうると瞳に涙をにじませている。もしアイセアにしっぽとケモミミがあれば、限界まで力なくうなだれていたであろう。
「そ、そんなことは無いさ!まだなっていないだけで今夜受けるって返事をするつもりだったし、ほら、な?だからそんな顔は―――」
「そうなんですか!私うれしいです!」
今までの悲し気な落ち込んだ雰囲気からまたも一転して明るい笑顔に早変わりした。
やられた、どうやら彼女は俺が思っている以上に策士らしい。
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