冒険者の仕組み
「ふあー…」
昨日はいろいろと事後処理が大変だったせいか寝て起きてもなんだか体に疲れがたまっている気がする。
昨日はあの後アイセアを連れて歩いてアニアス家の屋敷まで戻った。
すると屋敷の前にはまるでこれから戦争にでも行くかのような格好をした沢山の騎士たち出陣の準備をしていた。
どうもアイセアが連れて行かれるところを目撃した街の住民が屋敷に知らせに来たらしい。
そしてそこにちょうど早めに会合を終えて帰ってきたイグニスが合流して大変な騒ぎに発展したらしい。
「今すぐにでも出陣だ!私の娘をさらった賊をぶっ殺してやる!!」と叫び散らしているところに一番内通者として怪しいと思われていた人物が誘拐されたはずのアイセアを連れて帰ってきたのだ。
当然さらに場は混乱する。
しかしそこでアイセアは俺が手引きをしたわけではなくむしろアイセアを助けたこと。
問題となっていた盗賊は俺が倒したから心配することは無いという事。
それらを聞くと最初は驚いた表情をしていたイグニスだったが、すぐに俺に疑ってしまった謝罪とアイセアを助けたことに対する感謝を述べた。
そこでようやく兵士たちの完全武装が解かれ、俺はそのあと緊張から解放されたせいか倒れるように眠った。
昨日は入れなかった風呂に入るために大浴場に向かう。
この屋敷にある風呂は当然銭湯並みの大きさがある。
ただ、銭湯とは違いそこら中に金のかかった細やかな装飾が施されていることだろうか。
謁見の間と言い銭湯と言いどうやらこの屋敷の当主はずいぶんと装飾に金をかけているらしい。
心地よいお湯で疲れをいやしていると、そこに思わぬ来客があった。
「邪魔するぞ」
「は、はい」
まるで当たり前のように入ってきた珍客はイグニスだった。
もしこの世界に大衆浴場のような文化があったとしても、普通領主が一介の使用人なんかと一緒に風呂に入るなんてのはおかしい。
それになんだか前まであった少し見下したような威圧感がない。
アイセアを助けたからだろうか。
それに服の上からではあまりわからなかったが、体にはかなり筋肉がついている。
普段から鍛えていなくてはあんなふうにはならない。
公務にトレーニング。どうやら領主というのもなかなか大変らしい。
「今回の件、貴様…いや、こういう呼び方はもうやめよう。アイセアが無事でいられたのは全面的にお前のおかげだ」
「い、いえ、そんなことは…」
「アイセアから聞いた。もしアイセアを売ればお前は助かるという取引を持ち掛けられたのにもかかわらず、拒んだらしいな」
「あれは何というか、確かに俺は金儲けが好きです。お金の大切さもわかります。でも俺はただ金が好きなんじゃなくて金儲けが好きなんです。何言ってる変わらないかもしれないですが、俺には俺なりの金儲けのポリシーがあるんです。アイセアを売ることで得るお金なんて嬉しくないですからね」
「フッ、ハハハハハ!―――お前は変わった奴だな」
「よく言われます…」
俺の金儲けのポリシーという意味不明なワードにツボったのか、イグニスはしばらく笑っていた。
なんか熱弁してしまったけれど、後になってめちゃくちゃ恥ずかしくなってきたな…。
「まぁよい。そして、お前に任せる仕事の話だが」
追って知らせると言っていた仕事の内容が決まったらしい。
「お前には―――アイセアに魔術を教えてやってほしい」
「―――えっ」
どうしよう。みんなが使ええるような魔術俺使えないんだけど。
俺の魔術はあくまで起こしている事象や結果がそれと同じというだけで、本来のそれではない。
たとえば『ファイヤーボール』。
これはフィーナの場合は『ファイヤーボール』という魔術によって生み出された炎だが、俺の場合創造者で作られた炎だ。
もし魔術ごとのコツなんて存在したら俺にはその仕事は無理だ。
いや、今考えている仮説が使えるならそれも無理ではないんだが…。
「立場としては家庭教師という位置づけになるだろう。そしてもう一つ頼みたい。アイセアの護衛だ」
「護衛ですか?」
「うむ、アイセアは日ごろからよく一人で街に出かける。以前は我々も護衛を付けるように言っていたのだが、アイセアには「ぞろぞろと護衛を付けて街を歩き回っていたら民が委縮してしまいます」と言われてしまってな。それから何も起こらなかったせいで私も気が緩んでしまっていた。かといって護衛をつけろと言ってもこれまで通り嫌だというだろう。私も娘にあまり強制はしたくない」
「そこで俺ですか」
「そうだ。お前にはどうやらなついているようだし、実力も申し分ない」
この世界での強さの平均がよくわからない。
確かに俺はあの男を簡単に倒すことができた。
しかしそれはこのチートじみた魔術の異常なまでの汎用性の高さのおかげだ。
普通の魔術じゃきっと駆け出し魔術師にはあの火力は出せなかっただろう。しかもあの男の俺を舐めきっていて全然本気じゃなかった。
「あの男はそんなに強い冒険者だったんですか?」
「ふむ、ではまず冒険者の仕組みから説明しよう。冒険者にはランクというものが存在する。Fから始まりSまであるが、Sは基本的に英雄などのあがめられる象徴がなるものだ。なろうと思ってなれるような生易しいものではないな。Aなら王国騎士長クラス、Bならその下の四天王、Cは四天王を抜いたおい国騎士団の中で軍を抜いて強い者と同格程度だな、Dはそれなりに技術がついてきた中堅的なポジションだ。Eは初心者卒業、Fは初心者、といった感じだ。CとDの間がかなり大きいのだが、奴はDクラスだった。」
「D、それならそこまで警戒する必要はなかったのでは?」
ランクから見ればそこまで強い印象は受けない。
わざわざ領主が会合を開くほどの相手ではない気がするんだが。
「そんなことは無い。Dクラスであれば訓練を受けた兵士が何人いてようやく勝てる相手だ。商人の声につく冒険者は大抵Eランク、それでは歯が立たぬ。それに奴はDの中でも比較的Cに近いほうだった。それを倒したお前はもっと自分を誇ってよい」
うーん、そんな強い相手だったのか。
なんかせこい戦法とってちょっと申し訳なくなってきたな…。
とりあえず褒めてくれているのだからありがたく褒められよう。
そのおかげで俺への意識も良くなったみたいだしな。これで俺も動きやすくなる。
「話は戻りますが、先程の家庭教師の件なんですが、少しお時間をいただけないでしょうか」
「…理由はなんだ」
「今考えている仮説を少し試してみたくて。それがうまくいかなければ俺よりもっと適任の者を探した方がいいと思います」
「その目、何か考えがあるようだな。わかった、返事はいつ頃になる」
「今日中には答えを出します」
そう言い残して浴場を先に出た。
イグニスが出るまで待たないと失礼な気もしなくもなかったが、のぼせそうで体が限界だった。
この仮説を検証させるにはフィーナの協力が必要不可欠になってくる。
とりあえずまずはフィーナを探そう。
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