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異世界にて魔術家庭教師に再就職しました。  作者: 時雨
異世界転移編
14/33

経験したくなかったはじめて

ドクンドクンと心臓が早鐘を打つように鳴っている。

目の前には明確な敵意を表す敵。

まさかこんなにも早く追いつかれるとは思っていなかった。

他の三人はこちらに来る様子はない。

となればこいつが例の冒険者崩れだろう。

はっきり言って殺すだけなら簡単だ。

まだ説明はつかないが、さっき不明確な知識だったのに対してイメージだけで煙幕というそれに近い事象を引き起こせた。

あれと同じようにできるのなら恐らく考えている戦法も使えるはず。

だが明確に自分を躊躇させている物があった。




それは人殺しという行為に対する恐怖。

この世界では日常茶飯事のように殺人は起きる。

確かに日本でも殺人は起きるが、この世界の者とは違う。

個人の殺人が正当化される。

それはこの世界の住人ではない俺にとってはありえない常識だ。



「お前のそのローブの胸のところにある紋章。イズニス家の紋章だな。見たとこ新米魔術師ってとこか?どうやってこの場所を見つけたかは知らないが、そんなろくに魔術も使えないやつ一人がどうする気だ?なァ、取引をしようぜ」

「とり、ひき?」

「そうだ。そこの娘をこっちに渡せ。そうしたらお前は見逃してやる」

「な、なんでそんなことを…」

「見ればわかる。震えてらァ。お前…人を殺したことが、それどころかまともに戦ったこともねェんじゃねェか?ダッハッハ!!そんな雑魚がどうあがいたって俺には勝てねェ」



図星だった。



「だが、俺ももとは冒険者。魔術の恐ろしさはある程度分かっているつもりだァ。なんなら領主からの身代金を少し分けてやってもいい。お前はここにいなかったことになり!安全におうちに帰って!小遣いも増える!お前にとっちゃあ特以外何も―――」

「いらねぇよ」

「…あ?」



俺は相手を殺すのが怖い。もちろん殺されるのも。だとしても―――――



「俺は確かに金は好きだ。その価値もよくわかっている」

「なら俺の申し出を――」


―――こんなクズ野郎にアイセアを渡してたまるか!!!



「お前みたいなクズからもらった金なんか汚くてうれしくねぇって言ってんだ!!」

「…そうか、なら―――死ね」



そういいながら奴は大剣を持ち直し、ゆっくりとこっちに近づいてくる。

目には先ほどまではなかった殺意が明らかに宿っており、獲物を見るように爛々と鈍く光っている。

火球を創造し、こちらに向かってくる奴に対して射出する。

火球はまっすぐと目標に向かって飛んでいくが、それがダメージにつながることは無かった。

大剣で炎が切り裂かれたのだ。



「大口をたたくからどの程度かと思えばその程度か。」

「くそっ!」



恐らく奴は次も剣で受けるだろう。それが分かった時点でこっちの勝利は確定した。

だがこんな状況でもまだ俺は迷っていた。



本当にいいのか?あいつを殺せばお前も人殺しだ。あいつと同じ人殺しになるのか?



奴はこちらをなめきったようにゆったりゆったりと間合いを詰めてくる。

それでも徐々に、そして確実に死は迫ってきていた。

そんな時ふとローブを後ろから何かに引っ張られる。

何事かと驚いて引っ張られた方を見るとアイセアだった。

そして俺の目を少し真面目そうな顔で見つめてからフッ、と笑顔を見せる。

まるで全てを見透かしたように彼女は笑った。

それはまるで「逃げてもいいんですよ」と言っている様だった。

確かに俺の魔術を行使すればここから彼女を置いて逃走することはたやすいだろう。

しかし、その顔を見た時点で俺の覚悟は決まっていた。



「なぁ、お前。名前はわからないが盗賊A」

「…なんだァ?今さら命乞いか?」

「いいや、覚悟が決まったんだ。俺は今からお前を殺す。何か言い残すことはあるか?」

「ハァ!戯言を!!」



先程までとは違い、こちらに向かって駆け抜けてこようとする。

そこですかさず先程の火球より速い速度で"ある液体"を射出する。



「舐めるなァ!!」



先程より速い速度で飛んできた魔術を大剣の広い刃を利用して防いだ。

そのおかげでそこで液体でできた球は割れ、体や周囲に飛び散った。

その直後に奴の左右の足元にも同じものを飛ばし、はじけさせる。



「なんだァ?この匂いは…ただの水じゃねェな。お前、何をした」

「お前が知る必要はない。これでサヨナラだからな」



今度は火球を再度撃ち込む。



「なんどやっても―――」



再び奴が大剣でガードしようとした瞬間―――――



「がァああああああああああああああああ!!!!!!!!!」



全身にすさまじい炎が燃え上がった。

必死になって体を振り回し、炎を消そうとするが、どう頑張っても消えてくれない。

むしろ地面に転がったせいで俺が保険としてばらまいた周りの液体にも引火する。

けたたましい断末魔はしばらくすると静かになり、ただ肉が焼ける匂いが周囲に漂っていた。

そう、俺が放った液体、それは『ガゾリン』だ。

ガソリンは灯油などとは違い、氷点下でもよく燃える引火性液体だ。

そこに『ファイヤーボール』なんて打ち込もうものならそれはそれはよく燃えるに決まっている。





時間にして約5分程度。

今日俺は初めて人を殺した。




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