逃走成功?
「まさかこんなにうまくいくとは思わなかったぜ全くよォ!」
一気に飲み干した酒瓶ダン!と地面に叩き付ける。
あたりは暗くなり、街から離れた洞窟に俺たち以外の気配はない。
「これで俺たちも大金持ちっすね!ヒャッハー!!」
「全くだぜ!イグニスの野郎は娘を盾にされたら何もできやしねぇ!」
「流石ガイズさん!ガイズさんがいなかったらこんなにうまくいかなかったっすよ!」
目の前で少し前に手下になった雑魚が三人わめいている。
俺は少し前まで冒険者としてある程度名を馳せていた。
来る日も来る日もモンスターやお尋ね者の盗賊を殺して小銭を稼ぐ毎日。
そんな退屈な毎日にうんざりしていた。
そんなある日のことだった。
俺は思った。
なら俺が盗賊になりゃあいいじゃねえか。
そうすれば強い奴らは俺を殺すまでわんさかとわざわざ俺のところまでやってきてくれる。
しかも商人を襲えば金や積み荷を奪える。
荷馬車に乗り合わせたやつが男なら殺し、女なら犯す。
略奪の快感は一度味わったら忘れられない。
俺自身が盗賊になるという俺の考えは合っていた。
事実このところ退屈しない日々を過ごすことができていた。
そして今回は領主の娘の誘拐にも成功した。
向かう所敵なしってやつだァな。
次の酒に手を伸ばそうとして残りの酒瓶が少ないことに気が付く。
気づかなかったが、どうやらここで酒を呑んで割と時間がたったらしい。
「さてと、酒もそろそろ残り少なくなってきたし。お嬢様の方でも味見してみっかァ!!」
俺の声に反応して俺を恐れて言う事を聞いている三人組の小物盗賊共が喜びの声を上げる。
「ガイズさん!ガイズさんの次は俺に回してくださいよ!」
「はぁ!?ずりぃぞお前!!」
まぁ、後のことはどうでもいい。
とにかく俺の味見が終わったらここを移動しねぇとそろそろ誰かに感づかれる可能性もあるかもしれねェ
な。
この間襲って奪った荷馬車だが、領主の娘はこの中にさらった時のまま縄でぐるぐる巻きにしてあるはずだ。
この後のことを考えるとにやけが止まらねェ。
「よォ、お嬢様。初めまして、お前をさらった盗賊だ」
「私をさらってどうしようというのですか!」
「おォ、こえェな。あんま怖い顔すんなよ。可愛らしいお顔が台無しだぜェ?」
「カグヤさんが必ず助けに来てくださいます!そうしたらあなた達なんてあっという間にやられてしまうんですから!今に見ていなさい!」
てっきり領主の娘って言うから温室育ちのボンボンかと思ったら、何やら反抗的な眼をしている。
やるなら壊しがいのある方が楽しい。
思っていたより楽しめそうだ。
「誰が誰にやられるって?ま、時間ねェしさっさとはじめっか」
娘を荷馬車から引きずり下ろし、服を破こうと、服をつかんでいる手に力を込めたとき―――――――
――――「目をつぶって息を止めろ!!!」
洞窟内に響き渡る声に反応し、娘から手を放して武器を手に取る。
どこだ!?
次の瞬間視界は真っ暗になっていた。
「っ…はぁ、はぁ、はぁ」
アイセアがさらわれた地点からかなりの距離は走って来た気がする。
あたりはすっかり暗くなり、夜空に浮かぶ月だけが唯一の光源だ。
周囲には魔物もいないようで、風が草木を揺らす音が響いている。
そんな静寂を壊すかのように林の奥の洞窟から笑い声が聞こえて来た。
恐らくあそこにアイセアをさらった奴らがいる。
そう指にはめた青い指輪が告げていた。
青い半球状の宝石の中にうっすら赤い点がある。
恐らくこれがもう一つの指輪がある方向なんだろう。
「くっそ…死亡フラグ立てた瞬間に回収しやがって…」
いくら何でも死亡フラグの回収速度早すぎるだろ!?
そんな頑張んなくていいよ!
なんてふざけたことを考えている場合ではない。
捕らえられたアイセアが今どんなことになっているかもわからないのだ。
何とか隙をついてアイセアを助け出さなくては。
行く当てのない俺を救ってくれた大恩を返す前に売り飛ばされなんかしたら困る。
無事でいてくれ――と祈りながら出来るだけ足音を殺して進んでいく。
木々に隠れながら洞窟に近づいていくと、段々と奴らの声も聞こえるようになってきた。
「カグヤさんが必ず助けに来てくださいます!そうしたらあなた達なんてあっという間にやられてしまうんですから!今に見ていなさい!」
いきなり自分の名前が聞こえてきたせいでぎょっとしてしまう。
ちょっとアイセアさん俺に期待かけすぎじゃあないですかね。
この短時間でいつの間にそんな信頼を気づいていたのかは謎だが、間違いなくここにいるという事実が分かっただけでもよしとする。
今の声は間違いなくアイセアの声だな。
それにまだ無事みたいだ。
アイセアの無事にホッと胸をなでおろしながら洞窟の岩壁に沿ってそっと近づく。
そのまま洞窟の中の様子を見るために入口に少し頭を出してみる。
「はァ?誰が誰にやられるって?ま、時間ねェしさっさとはじめっか」
中を覗くと盗賊の一人に今にも襲われそうになっていた。
くそが!タイミング見計らう余裕ないじゃねえか!
心の中でそう現状に毒づきながら、慌てて魔術を起動し、声を張り上げる。
「目をつぶって息を止めろ!!!」
作り出すのは煙幕。
軍隊で使っているような物はわからないが、とにかく黒い煙を出したい。
家事なんかの煙が黒いのは炭素が原因だ。
炭素っぽい煙出ろ!炭素っぽい煙出ろ!
魔力の消費は考えず、とにかく大量の煙を出すことだけを考える。
一瞬、大雑把すぎて無理か――?
とも思ったが、イメージ通りに手のひらから数センチ放てたところから勢いよく黒煙が噴出する。
真っ黒な煙を洞窟という空気の逃げ場の少ない空間にぶちまけ、一気にアイセアの元まで駆け抜ける。
煙幕は洞窟の上部に集まっており、足元にはあまり降りてきていない。
事態を理解できていないのか盗賊はゲホゲホとむせながら武器を振り回している。
それに当たってしまわないように、簀巻きになって転がっているアイセアを抱えて全力疾走で洞窟から離脱する。
しばらく走って洞窟からある程度離れたところで体力の限界が来た。
たとえ女の子とはいえ人ひとり抱えて走り続けるのは今の俺には無理だ。
「はぁ、はぁ、すまん。縄をほどくから自分で走ってくれ」
「カグヤさん!私信じてました!きっとカグヤさんは私を助けに来てくれるって!」
こんな時でも彼女はいつも通りにこりと微笑みを見せてくれる。
そんな顔をされてはこっちまで頬が緩んでしまう。
「その信頼はいったいどこからくるんだよ…」
「そうですね…勘です!」
「……なんじゃそりゃ」
意味の分からないやり取りをしながらシセアを縛っているひもをナイフを作り出して切り裂く。
そこで背筋に凍るような悪寒が走った。
後ろを振り返るとそこには――――
「逃げ切ったとでも思ったか?小僧…」
大剣を抜き放ちながら近づいてくる大男。
盗賊ガイズが影を落としていた。
このまま戦わずに終わる…とでも思っていたのか!!
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