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第五話 ついにヒロイン登場と錯覚したい

WAVEアーツスレより


「剣の種類が多過ぎて辛い」

「西洋剣技が幾何学過ぎて辛い」

「拳法が中国武術とか空手とかマステマとか種類多過ぎて辛い」

「全部極めるのむりぽ」

「くっそマイナーだと思ってたら同好の友が百人単位でいて悲しい」




zzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzz

 現実(リアル)・日本 上条高等学校かみじょうこうとうがっこう

zzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzz




 体が重い。

 息が切れる。

 ああ、俺はここで死ぬのか。


「ぐー」


「起きろ」


 ばごっという音が響きそうな衝撃と共にはわわと目が覚めた。


「な、なにするだー!?」


「こっちの台詞だぞ、ていうかはわわとかいう奴リアルで始めてみたわ」


 がばっと起き上がると目の前にいたのは眼鏡をかけた見慣れた顔の男。

 わりとイケメンに分類されると思われるが、その中身を知っている俺としては残念な友人の風間(かざま)だ。


「で、どうした海正(かいせい)? すごい眠そうだが、陸上部の朝錬か?」


 横の席に腰掛けて、俺を殴ったと思われる教科書を鞄から机にいれる風間。

 ちなみに席は隣同士だ、反対側も男だ。

 悲しいな。


「いやあ朝錬が辛かったんだが、久々に夜更かしもしたしー」


 寝たのが午前二時前、それから朝の五時半からの朝錬とか死ねる。

 まあ二度目してもよかったんだが絶対寝坊するからな!


「ちゃんと寝ろとしか言えんな」


 ぐうの音も出ない正論である。

 まあ俺が悪いんだけどな!


「風間はいいよなー、帰宅部だし」


「ただし生徒会だがな」


「せやな」


 何を隠してもいないが目の前にいる風間は生徒会の書記をやっているのである。

 眼鏡でイケメンな顔なら生徒会長やるべきじゃね? と昔いったことがあるが「めんどいのと人望集めるのと女子生徒会長のほうが需要があるだろJK」 「せやな」というぐうの音もでない結論で決まった話題である。

 まあそもそも推薦も自薦もしてないから生徒会長になるわけがないんだけどな! というのはこの男の朗らかな発言だ。


「やっぱり生徒会って忙しいのか」


「そりゃ当たり前だろ、楽だったら誰だってやってるわ。行事の企画とか運営とか、ボランティア活動とか、あと朝から挨拶するのに早くこないといけないしな」


 面倒は面倒だと肩をグリグリ回して言う辺り、本当に中身と外見に差異がある男である。

 静かに見ていれば知的なイケメンに見えるんだけどなー。

 これでそれなりに女子から印象が悪くないのはやはり顔か、顔なのか、けっ。


「なら来年は生徒会辞めたら?」


「推薦や内申点欲しいし、我慢するさ」


「ぬぬぬ、卑劣な奴め。まあ俺も推薦欲しいから部活頑張ってるんだけどな! けどな!!」


「同類乙」


 だってしょうがないじゃーん。

 最近どこももやし多めで各世代の成績落ちてるとか、ライバル弱くてやりやすいしー。

 頭悪くても運動出来ればなんとかなる分、楽じゃーん。まあ平均点以下に落としたことはねえけどな。


「で、夜更かししたってどうした? お前大体早めに寝るタイプだったろ」


「ああ、ちょっと新しくゲーム初めてさ。そこのスレ読んでたらつい時間がな」


「スレって、攻略か? 先に攻略サイトから読むとか惰弱め」


 ぺっと言わんばかりに見下した目で、眼鏡の弦をクイクイする風間。

 おのれ眼鏡キャラを無駄に活用しやがって。


「ああいや、攻略といえば攻略なんだがそこのゲーム無駄にスレ多くてさ。まさか百突破がごろごろしてるとはおもわず」


 初心者スレと雑談スレとか最近のをちらほら覗いただけなのに数時間吹っ飛んでたのはびっくりしたぜ。


「ゴロゴロってんんー、VR大手のやつか? バスブレとかサイハとか、あとはアスホか? あれ始めたのかお前」


 風間が言ったのはVR三大ゲーといわれてる、<バスタード・ブレインライン>と<サイキックハート>と<アースホール>のことだ。

 中国発祥のスタイリッシュアクション狩りゲーのバスタード・ブレイドラインに、日本発祥のSF世界でのサイキックアクション及びSFロボなどでの殴り合いをしているランキングゲーのサイキックハート、そしてVR黎明期(れいめいき)から何度もアップデートを繰り返しているファンタジー世界のアメリカ製の開拓経営アースホール。


 前者二つのゲームは新世代技術をぶちこんでるだけあって時間加速や感覚加速などを盛り込まれているし、アースホールは元になったTRPGゲームブックなどの世界観やアメコミなどのメディア化が多くされていて知名度と固定ユーザーの数が断トツだ。

 全世界換算でも数十人に一人はこの三つのどれかをプレイしていると言われる億単位ユーザーの怪物ゲーである。

 電子書籍でも専用雑誌とか本が関係しているだけで数百種類出てるといえばどれだけ凄いかわかるだろうか。

 そんでそれらなら確かに5chンネルのスレッドは百どころか千単位を超えているだろう、が。


「やってないやってない、あんな怪物ゲーやってたら時間が足りねえわ。今更始めたところでライトユーザーなんてカモられて乙るわ」


 リアル課金もする気はないし、そんな手持ちもないし。

 そもそも皆やってるから俺もやるという気持ちはなかったんだが、同じVR対応機器――ソフト価格の低下や安全性保証によってどのVRも同一ハード対応基準で開発されている。

 それでプレイ出来るあまりプレイ人数が多くないし、予約するまでもなく買えたゲームを始めたのだ。


「多分知らないだろうけど、WAVE(ウェーブ)って知ってるか?」


 クソゲーでマイナーなVRゲーの名前を出して言ってみる。

 高々数十だか百万人――なお全世界対応基準でのプレイ人数。

 マジで有名じゃない、が。


「ウェーブって……Weapon&Arts・Virtual reality Entertainmentのことか?」


「えっ」


 なんで知ってんの?

 という目で見ると、あっちも同じ顔をしていた。


「まさか」


「え、お前あれ始めたのか? あのマゾゲーを」


 信じられないという顔をしている風間。


「お前もやってたのかあのクソゲーを」


 マゾだの、クソだの、その意見で間違いないとお互いに納得したのが分かった。


「お前プレイヤーかよ! いえよ! そして、俺にパワーレベリングさせろよ!!」


「寄生目的か馬鹿野郎! あのマゾゲーでPT組んでも経験値増えるわけねえだろ! そもそんなシステムもない!!」


「ていうか最初に言えよ! 俺ボッチで変なじいさんしか知り合いろくにいねえぞ!」


 フレンドリストはいまだに0よ!


「知らんがな。そもそもあんな人にお勧めしにくいゲームを友人に言うわけないだろうが!」


 お互い罵倒しながらげしげしと揉み合い、口論になる。

 だがまあこんなことは野郎同士の友人関係だったよくあることで、クラスの誰も止めなかった。

 たまに話すクラスメイトの男子がうるさいからほどほどになあとか、委員長が気にせずノートでの自習を続けてたり、眼鏡系の文学少女が暇そうに外を見ていたりとかして俺たちはまあ学生同士のよくある光景となっていた。


 その後、ホームルーム前のチャイムが鳴り、そそくさと離れてから昼休みでお互いの情報を交換することになった。


 そして、風間はどうやら少し前から始めていたようで、しかも所属は同じ環桜。

 今は第二の街に拠点に活動してるらしく、そこまできたらPTを組んでやるとのこと。

 さすがにそこまで来てないのに迎えに来る義理はないから頑張れと言われた。


「義理はなくとも友情があるだろ!」


 と反論したら。


「友を思えば谷底に突き落とすのが親友よ」


 と言われた。ちくしょう。

 ちなみに風間のキャラ名は教えてもらえなかった、遭遇したら教えてやるとのこと。

 まさか出来ないはずだがネカマプレイでもしてるんじゃねえだろうな?

 その場合友人関係をちょっと整理する必要があるんだが。


「ていうかお前なんであれやってんだ。プレイヤーの俺が言うのもなんだがクソきついぞ、マゾいし」


「いやもう一か月分通信料払っちまったし、せめて元ぐらいは取らないと」


 基本この手のゲームはソフト単体というよりも開始料金と一ヵ月後とのプレイ料金、それに加えて有料のアイテム課金で収入を得てる。

 どんなゲームかなーと最短料金だが一ヶ月、初めて三日で投げるには早すぎるだろ?


「なるほどな、まあ頑張れよー。俺は先で待っているがな!」


「うるせえボケナス、なんとか近いうちに次の町までいってやんよ! じいさんにも提案してみるし」


「じいさん?」


「ああ、俺が知り合った外見若いけど中身が爺の人。今日も夜で一緒にプレイする約束してんるんだわ」


 クロガネのじいさん、ベンケイセブンとかでも見ての通りクソ強いしな。

 PTで組む分には頼れるわ、未だにどういうアーツなのかわからんが。

 あとちょっと放っておくと爺さんなだけあって心配だし。


「ふーん、ボッチ言ってた割には仲間出来たんだな」


「まあな、まあお前と合流すればようやくフレもでき――あ」


「どうした?」



 おれ、クロガネじいさんとフレ交換してないんだが、どうやって合流しよう。


 メッセージもログインリストも確認出来ないんだが。









zzzzzzzzzzzzzzzz

 環桜(カンザクラ)元芽(ハジメ)の街

zzzzzzzzzzzzzzzz


 WAVE内では現実時間の3倍で時間が流れており、タイムテーブルもそれに設定されている。

 日本発祥のゲームのため時間のタイムテーブルは日本時間に合わされていて、午前零時から24時間経過することによってゲーム内では3日経過する。


 このゲームでのログイン可能最大時間はリアルの8時間、3倍になっているゲーム内時間では8×3=24時間となる。

 これに加えてデスペナでの再ログイン12時間待機制限や、ログオフ中にログイン可能時間がチャージされていく仕組みらしいが、ややこしいのであまり考えないことにする。

 他のVR系の時間加速機能があるのはどこも制限はあるものの課金でなんとかなるらしいが、このWAVEだとそれはない。

 やりこむ廃人共はそういうタイムテーブルとかを計算してやるらしいが、ゲームでそこまでやるのはめんどうくさい。

 話を戻そう。

 クロガネとの約束はリアル時間で夜の19時、元芽の街の中央広場。

 リアルの3倍速で流れるWAVE内では3日目の9時頃の時間帯というややこしい時間だ。


 そして、俺はそこの広場のベンチで。


Welcome(ウェルカム)!! クロガネ様』


 という手看板式のウェルカムボード(テキストボード)を持って、噴水前のベンチに座っていた。

 数十分ほど前にログインして速攻で街役場にいきNPC(モクジン)の受付から購入したものである。

 何でこんなもの持ってるかと言われたら答えは簡単である。


 フレンドコード交換してないからログインも確認出来ないし、<伝言(メッセージ)>も飛ばせないのだ。

 しょうがないね。


「爺さんこねえなあ……?」


 しかしこの看板を持って待ち続けて数十分。

 未だにクロガネが現れる気配がない。

 約束の時間であるリアルでの19時は過ぎたのをコンソールで確認している。

 遅れてるのかそれともすっぽかされたか。

 別にフレ交換もしてないし、昨日あったばかりの殆ど他人である。

 別段約束の一つや二つすっぽかされてもおかしくないし、そこまで腹は立たないが、どこまで待つべきか迷う。


(退屈じゃねえけど、どれぐらい待つべきか)


 幸い朝の9時頃といってもゲーム中の時間でしかなく、リアルだと夜も入ったばかりで広場には色々なプレイヤーたちで賑わっている。

 明らかに人間じゃないNPCたちもがやがやと賑わうように歩き回っているし、その中で行き違うプレイヤーたちも多い。


 恰好も色々様々で、頭に金属バケツのようなヘルメットを被っている鎖帷子の騎士がいると思ったら、横にはネコミミをつけた魔女のような恰好の槍使いや、三国志(さんごくし)黄布党(こうきんとう)のような黄色なバンダナに真っ赤な棒を背負った多分中国モデルの三華秦(さんかしん)武夾(ぶきょう)、他にも何故か野球部のようなヘルメットと金属バットを担いだ野球ユニフォームの男とアメフトユニフォームとヘルメットをつけたゴリラのような男が歩いていて……うん、なんだこれ。


 何故か広場の開いたスペースでチアガールの恰好にスパッツを履いた女性プレイヤーがブレイクダンスを踊っていたり、横でピエロのような恰好をした仮面道化師が火の付いたボールでお手玉をしていて、その後ろでパンダのきぐるみが巨大なボールの上に立っていて、おひねりを貰ってるし。


 確かこのゲーム、NPCとプレイヤーの誤認をしないために人間じゃないのは全部NPCのはずなんだが……あ、なんかきぐるみ被ってる集団とかいるわ。なんか真っ赤な雪男とか緑の恐竜っぽいのが、いいのかあれ!?


(VRのMMOゲーとかあまりやってない俺が分かってないだけかもしれないが、これがどこでも常識なんだろうか)


 同じようなウェルカムボードを持ってるたちぼうけのプレイヤーとか、派手なドレスとか、ごつい鎧着ていてポーズを取りながらカメラでの撮影を求められているバイキングなヒゲ男とか、泥汚れのついた全身鎖帷子と汚い甲冑になんかどう見てもボロい剣とか盾とかベコベコなフルフェイス付けてるのが「やだ、さまよってるわこいつ」 「かみつき丸じゃないか! かみつき丸さん!」 とかなんか声かけられている。

 どういうことだろうか? わからん。


 そんな感じで周りを見ながら、コンソールを開いてWAVEスレでも見て時間潰すかと手を動かして、ふと遠くと目線が合った。


「ん?」


 俺の座ってるベンチの反対側、花畑の手前に設置されたベンチに腰掛けた同じように手看板を持った男プレイヤーだった。

 赤毛色の茶髪に、遠めだが多分わりとイケメンで、全身にはゆったりとした洋風の服装にベルトのような皮鎧と腰には長い木の棒? を差していて、腰のベルトにあちこちに紐のようなものとでこぼこした袋をぶら下げた優男だったが、目に付いたのはそれだけじゃない。

 なんか頭に――ヒツジの被り物をしていた。メェーと鳴くアレだった、しかも角もあった。


 しかも。


Welcome(ウェルカム) アビシャグ』


 などというメッセージが遠く離れた先でもテキストボードの機能で見えたのだ。


(って、あ、あっちも気がついたか?)


 目線があったのに気付いたのか、あっちが手を軽く上げていた。

 それに俺も軽く手を上げて挨拶をする。

 といっても数十メートル先の距離で声は届かない。


(どうすっかな、そのまま目をそら、ん?)


 あちらがくるっと看板をひっくり返したと思ったら、虚空で指を動かして、さらにまたくるっと看板が戻る。


『おいっすー、君も人待ちかい?』


 と描かれたメッセージが、テキストボードで"読めた"。


(あ、なるほど)


 すかさず俺も同じようにくるっと看板をひっくり返して、テキストボードのメッセージを書き換える。


『どうもー、俺もです』


『待ってるだけってのは暇だよねー』


『いやまったく同感ですね、待つのは辛いですよ』


『だけどそれでも待つのが男の甲斐性だと思わないかい?』


『女子相手なら必要ですよねー』


『男相手なら甲斐性はいらないけどね』


『そちらは女性が待ち人ですか? 羨ましいなー』


『まあねー、でも中々こないんだよねえ、僕のアビシャグ希望者』


『希望者?』


『うん、まあいずれ来ると信じてまつのさーHAHAHA』


 などなど最初は他愛無い世間話だったのだが。

 数分後。


『化学調味料と掛けましてグラビアアイドルと説きます』 


『そのこころは?』


 くるっ。


『どっちもぱっと盛っています』


『HAHAHAHAHA』


『HAHAHAHAHA』


 何故か大喜利していました。

 完全にチャット乗りだった。

 そんな時だった。



 ――しゃんと響く鈴の音と共に俺の視線に現れたのは。



「最低です」



 目を見張るような美少女がそこに立っていた。

 侮蔑するような目つきで。




WAVEアーツスレより


「なら諦めたら?」


「「「そこに浪漫があるんだろうが!!」」」




「このゲーム残る奴は皆変態ってはっきりわかんだね」


「ゲーマーが変態捨てたらただの真人間です」




4/25 WAVEプレイ人数の総数を修正 数十~百万以内に修正しました

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