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第三話 おいでよ、ベンケイセブン!

WAVE雑談掲示板より


「やべーよ、僕ってば最悪の不遇武器引いちゃったー、こんな大鎌誰もやらねえよまじやばいよね。

 だが僕はこれを使いこなして、僕のゲームスタイルを確立させてやるさ!」



zzzzzzzzzzzzzzzz

 環桜(カンザクラ)元芽(ハジメ)の街

zzzzzzzzzzzzzzzz




「はーっはっは!! このはしを渡りたければ、オレを倒していくがいい!」


 赤い、真っ赤な橋。大きな川に二分割されている元芽(ハジメ)の街に真ん中に渡っている赤橋の手前でそんな高笑いを上げている奴がいた。

 真白なフードを被り、ジャラジャラと音を立てる鎖帷子の上に部分だけの鎧を身に付けた男。


 それもでかい。


 周囲の人だかりからも浮かんでるような大きな背丈でその背の高さが分かった。190を超えているだろうかもしれない、まるで外国人みたいな身長で、顔は笑っていることしか遠目には見えなかった。がそれよりも気になるのがその両手に持ってるもので。


 左手にでかい刃のついた棒、いわゆる薙刀って奴を地面に立てていて、右手には看板。

 そう看板を掲げていた。

 なんか書かれている看板に注視するとシステムメッセージが表示された。



 ――決闘歓迎 一対一のPvPデュエル 掛け金は1000Zenか名前記載済みの武器一本(種別問いません)

 報酬も2000Zen、当方に勝利すればお渡しします。

 決闘(デュエル)システムですのでデスペナは発生しませんので、お気軽にどうぞ!可愛い子歓迎です!

 あと飛び道具は出来ればお控えください。つらいです。


ベンケイセブン・ガンユウより―



「ベンケイセブン?」


「なんじゃいこのメッセージは?」


 恐ろしいパワーワードを見た。

 というかやたら親切というかキャバクラの看板みたいなメッセージなんですけど。


「ああ、これテキスト看板(ボード)だね。市場とか建てられてるのと同じ奴だよ」


 いきなりコンソールで出てきたメッセージにクロガネと首を傾げていると、傍にいた小柄なプレイヤーさんが教えてくれた。


「街役場で最低500Zenも払えば買える奴で木製、石製、金属製とかも選べるし、必要な建物とか墓石とか馬車とかにも同じシステムサービス付けられるし。看板もちゃんと武器性能あるから使おうと思えば戦闘にも使えるよ」


「使えるのか?!」


「うん、ちょっと前のバレンタインの時には<アスガルド>の神官服が大量に配られて、バレンタインの正しい教義を記載した看板担いだ臨時PKクランの<真愛伝道団(ネオ・ヴァンティヌス)>がそこらじゅうで暴れてたね。殴られると目の前に映る所為でコンソールがもうウィキ説明だらけになっちゃって大変だったなぁー」


「何だそのテロ」


「馬鹿じゃないのかの?」


「馬鹿しかないよ、このゲーム長く続ける人なんてね。あと最近の看板流行は突撃隣の妖魔さんとか書いて、妖魔砦にテロを仕掛けるときにやるらしいよ。上級AIはわりと混乱するとかなんとか」


 そうっすか。そうなんすね。

 ありがたい説明を貰ってお礼を言い、とりあえず橋のほうにいる白フード男に再び目を向ける。


 そこでは真っ赤な羽織を羽織り、頭にバンダナを巻きつけた槍使いのプレイヤーがしゃおら! 決闘じゃい! といってからコンソールを開いて、きちんと決闘申し込みをしてから殴りかかっていた。


 途端に始まる決闘騒ぎにワイワイと俺たちの周囲も声を早し立てている。

 NPCたちもきゃーきゃーと楽しげな声を上げており、憲兵らしい厳つい顔と2メートルはありそうなでっかいモクジンゴーレムさんが腕を組んでみてるが、どうやら止めないようだ。


 となるとシステム的に違法行為じゃないってことか?


「ぐわああああああああああ!! ぐふっ」


「ん? あ、負けてる」


 少し目を逸らしている間に、グサーという音が聞こえそうなほど挑んだ槍使いの人が胸を貫かれていた。

 ごろんごろんと転がって、ぐふーとか言って胸を押さえて倒れてる。

 余裕あんな、あれ。

 負傷ダメージも決闘終了と同時に修復されるのか、赤黒いエフェクトも消えてるし。


「お疲れ様でしたー、いい勝負だったぜ」


「ちくしょー、次は勝つからなー! 覚えてろーかっこ棒かっことじ!」


 といって槍使いの人は教科書に載ってそうなほどテンプレートな台詞を吐いて、橋を渡っていった。

 ってあれ?


「おーい、あの橋普通に人渡ってんだが」


 子供とか女子供のNPCとか、あと真ん中の方を普通にプレイヤーたちが横断してるんですけど。

 この橋渡るべからずとかいってるのガン無視されてますよ、あのフードさん。


「うん、はしは渡っておらんぞ? 人形以外は」


「え、渡ってるじゃん」


 どう見ても横断してますよ。プレイヤーとか普通に。

 ていうか子供っぽいNPCが渡っていくのに手を振ってるぞ、あの人。


「いや、はしは渡っておらんだろ。真ん中は歩いておるが」


「は?」


 ん? はし……はし……(ハシ)

 ……………………ダジャレか!!


「え、なに? 橋の端を渡らなければOKなの?! それでいいのかよ!」


 詐欺みたいな理由に気付いて思わず声を上げた時、決闘相手を待ち望むフードの男が再び声を張った。


「さあ! このはしを渡りたければこのベンケイセブンがその1! ガンユウのオレ様を倒してい「すいません待ち合わせあるんであっち側行きたいんですけど」 あ、急用がある人とかは渡っていいんで、これそういうロールっすから! 詳しくはイッキューさん参照で! というか、お前ら日本人が多めならとんちぐらい分かれ!!」


 なんか名乗り上げてる最中にガンユウって人マジレスされて、マジレス返してるんですけど。


「近頃の若いもんはとんち坊主の一休さんも分からんのか。嘆かわしい」


「なにそれ揚げ足取りかなんか?」


「とんちってのはそういうもんじゃ」


 なるほどわからん。

 ていうか変なことやってるな、迷惑なような迷惑ではないような。


「ていうかベンケイセブンってなんだ?」


「どう考えても牛若丸のじゃろう。面白いことをする」


 あの物騒な犬歯剥き出しの笑顔を浮かべたクロガネが顎を撫でる。


「牛若丸? ……あーもしかして義経? 源平なんたらの」


 確か歴史の勉強で習ったような記憶がある。確か鹿に乗って崖から降りたとかなんとか、猪武者だとかなんとか、河の船を飛び越えた化物とかなんとか。


「それの幼名が牛若丸じゃな。絵本ぐらいで習っておらんのか? 武器を999本狩り集めた弁慶と牛若丸の五条の大橋の決闘は有名だろ」


「あ~~~~ん~~ガキのころにみたようなないような」


 金太郎とか桃太郎ならわかるが、こっちは微妙。

 そんなこんな言ってる間にまた一人、また二人と挑んでは見事な薙刀捌きで瞬殺されてる。


 ていうかなんだあの動き。

 刀使いが挑んだ瞬間、その振り下ろしより少し早く後ろに仰け反って、返す刃じゃなくて柄のほうで叩き飛ばされて、倒れたところをずばーとされてるんだが。


 装備のゴツさからみて挑んでるのは上級プレイヤーでは多分ないとは思うんだが、それでも腑に落ちない強さだ。

 動きが見てこう別物っていうほど速いわけじゃねえし。


「見切りじゃねえな。無駄がでかいが、んんん?」


「クロガネじいさん、なんか知ってるのか?」


 何か知ってるのか○電! という気分で尋ねるが、本人は目を細めて笑みを深めてた。


「面白ぇ。ちょっと殺ってくる」


「え、おい?」


 俺が止める間もなくクロガネがするすると人ごみをすり抜けて前にいってしまう。


「おう、小僧。次はワシが相手だ」


 人ごみの中を強引に割り進んで行く間にも会話が始まっているのが見える。

 すいませんと断って、甲冑だの、鎖帷子じゃらじゃらだの、擦れる中を割り進んで前へと出た。

 既にクロガネは輪のようにぽっかり広がっている橋の手前まで辿りついてしまった。


「ん? 今度はあんちゃんか、得物は刀かい? いいのかい、俺は薙刀だぜ」


「そりゃあ見れば分かるさ」


 ガンユウがくるりと薙刀の穂先を手首で廻し、柄の部分で地面をコンっと叩く。 

 クロガネは見慣れた笑みを深めて、刀を鞘から抜いてびゅんと剣先を斜め下に垂らした。


「抜いたら――やるしかねえだろ?」


 すっと初心者丸出しの胴衣が揺れることなく、"僅かに下へ下がった"。


(ん?)


 クロガネの膝が僅かに撓む、腰を降ろすような、あるいは立ち上がりかけているような姿勢。

 背筋はピンと伸びているのに、下半身だけがまるで発条を巻いて動かした精密機械のようにぴたりと下がったのだ。


「っ……」


 それに一歩、ガンユウが距離を取る。

 歩幅を広げて、左足を差し出したまま下半身が半歩ほどの距離を下げて、薙刀を持ち上げた。


「あんちゃん……どこのアーツだ?」


「時代劇か? 名乗るルールがあるってなら従うけどよ」


 にぃと嗤う。

 クロガネの指先が鍔もない剥き出しの柄を握って、刀身が虚空に縫い止められたように止まっている。

 それに周囲から僅かな囁きが零れた。


「あのおっさん、刀が揺れてねえぞ」 「初心者装備だよな、あれ? 刀結構重いんだぜあれ」 「片手で支えるの結構きついんだが……」 「どこの流派(アーツ)だ? 下段の構えに似てるが」 「特定無理だろ、剣術だけで何十種類あんだよこのゲーム」 「ぬぅ、あれは! ……出てこん」 「らいでーん!」


 役に立つような立たないようなざわめき。


「……初心者装備のわりには堂に入ってやがんな」


「年季が違うからな、で、仕掛けていいのか?」


(うん?)


 笑みを浮かべて喋りながらも、奇妙な違和感。

 声は響いているのに、何故か平坦な音。


(クロガネのじいさん、なんだ……?)


「あーまてまて。このままだとPKになるからよ、切りかかんなよ? ――コンソール、決闘要請(デュエルオーダー)


 だがガンユウを見てもその違和感はない。


「お、これか? 掛けるのも金か武器か。金は足りねえな、この刀でいいか」


 そういってゆらりと止めていた剣先が揺れる。

 くるりと空を掻き混ぜる動きに雑踏がざわめいた。


「おいおい、いいのかよ。それ5000Zenはするだろ、あと所有者登録してんのか? 名札ねえなら後で渡してやるけどよ」


 ガンユウがクロガネの返答に困ったように目を見開いて、すぐに細める。

 じいさんの態度の意味が分かったんだろう。


「おう、貰うわ。負けたらな」


 クロガネには負ける気がさらさらないということにだ。


「まあ負けても外の奴ぐらいなら素手剥げばいいしな。いざとなれば棒でやれるじゃろ」


「ワイルドだなおい!?」


 いや、わりとあるのかもしれん。


(っていうか、あ、そういうことか)


 会話する二人を注視して、見比べて気付いた。

 クロガネのじいさん。


 ――口を閉じてねえ。


 口を動かさずに会話と呼吸をしていて違和感があったのだ。


(でもなんでんな喋り方を?)


 さっき飯場で食ってた時は普通に喋ってたはずだが。


 俺が首をひねっている中、二人がコンソールに手を押し付け、ピポンと雰囲気にそぐわないSEが音を立てた。

 途端に眼前の空気が変わり、耳元で流れていた音楽(BGM)が穏やかな和風曲から軽快な太鼓の音から始まるBGMに切り替わる。


 決闘の曲だ。


 そして、空気が変わった理由がゆらりと眼前で陽炎を生み出した。

 まるで火で炙った空気のような歪んだドームが見える。

 決闘が始まり、二人の周囲十メートル範囲が立ち入り禁止の結界が張られたのだ。


(確かデュエルシステムは人数設定と範囲の指定が出来たよな)


 ――デュエルシステム、文字通り決闘用/PvP用のシステム。


 PK機能が搭載されているWaveでは当然対人対戦も推奨されており、デスペナや負傷でのデメリットを気にせずPvPをするために幾つかのVRMMOや前時代MMOでも搭載されていた決闘機能がユーザーには搭載されている。

 決闘には致死傷決着(デッドエンド)、HP突破による負傷決着(スカーエンド)一撃決着(ワンショットエンド)での三種類が想定(オーダー)されており、さらに対戦での細かい条件も幾つか決められるという。

 お互いの決闘には掛け金(アイテムや物品、金額、あるいは両方)を設定、もちろん何も賭けないことも可能だったはずだ。

 さらに決闘システムで行なった勝負の条件やログなどは互いに強奪譲渡不可能な決闘証明書として保有され、トラブルの時にはGMなどに提出することが出来る。


 そして、その証明書の総数や内容によって特別なアイテムやアーツが取得出来るのではという噂がある。


(だったっけか)


 とまあそんなHPと掲示板で得た情報を思い出しながら二人の決闘に目を向ける。

 コンソールを出せばきちんとヘルプで確認出来るが、戦いを見逃すかもしれない。


「さて」


 ! 二人の動きに集中する。

 コンソールをお互い片手で消したあと、再び同じ構えに戻る二人。


決闘流儀(ゲームマナー)だ、天道流(テントウリュウ)――ガンユウ」


 ザッと地面が擦れ、薙刀の穂先がさらに前へと構えられる。


「名乗りな、あんちゃん」


 ガンユウの言葉に、クロガネがようやく喉を鳴らして嗤った。


「"クラマ流"、クロガネだ」


 二人が名乗る。

 お互いのアーツの名前に誰かが囁いた。

 どっちも初期アーツじゃねえか、やっぱり駆け出しか? だが結構ガンユウは強かったぞ、そんな雑踏の口が開いて――閉じた。

 ビュンッと空気を切り裂く音がしたから。


「ッ!?」


 繰り出したのはガンユウ。

 だが戸惑いの声を上げたのもガンユウだった。


(なんだ? いきなり)


 ガンユウが構えたままクルリと半回転させた薙刀を見て、俺は首を傾げた。

 何故なら。


「なんだ? いきなり何もないところを斬ったぞ」


 その通り、"いきなりガンユウが目の前を薙刀で薙いだのだ"。

 無論、クロガネは一歩も踏み出していない。

 構えたままで、上下にも揺れておらずに、いや。


「やっぱりな」


「て、めえ……」


 嗤う、唇を半開きに、呼吸を感じさせない笑みのままに。



「殺気か、怒気か、どっちかそれとも両方かしらねえが。察知してやがんな」



 は?


「殺気感知ってきいたが、なるほどな。よくできてやがる」


 独り言を諳んじるような声音で、クロガネの膝がゆっくりと撓む。

 彼の動きに、ガンユウが握った柄の手元をずらして握り直した。


「殴り合って斬り合ってまあ最後の最後になんとなく三割ぐらいで当てるもんだが」


 呟きながら、クロガネの刀の矛先が、

 ゆっくりと動いて。


「"全員読めるってか、大したもんだ"」


 ひゅんと弧を描くように真下に揺れ――


 フッ! と息吹を発して白い影が踏み込んだ。

 ガンユウの疾駆。

 大きな巨体でありながら背を縮め、低い姿勢から刃を横に薙ぐ。

 白い光が奔ったようだった。


 ブォンと割れた風の音。


 だがそれはクロガネの半歩前を通り過ぎた。

 間合いを間違えた? 違う、あいつが下がった。

 姿勢も変えないままに。


「その駆動じゃあ間合いは伸びねえ」


 呟く声が瞬き一つ遅れて聞こえた気がした。

 パシンッと戻った柄を受け止めて、跳躍するように動きで、ガンユウが背から舞わした刃を振り上げて。

 衝撃音。


「――は?」


 それは見ていた何人が理解出来たのか。

 音と共にガンユウの手首が斬り飛ばされていた。

 "薙刀の矛先を踏み付けた"クロガネによって。


「じゃあな」


 風を切る音もなく。


 白いフードの頭がポーンと上へ刎ね飛んだ。


 同時にリズミカルな音楽も止み、閉じ込められていた空気が解放されて俺たちの衣を揺らした。

 それが決着だった。









「ハッハッハ、いやあ負けた負けた。なんか空から下が見えたわ! 首マジ飛んだら意識あんだなぁ」


「怖いこといってるよ、この人!!」


 きっちりとくっついた首を撫でながらガンユウが笑っていた。

 すでに音楽は決闘から通常音楽になり、「今日は負けたから店じまいだ、お付き合い感謝感謝!」 といって看板を仕舞い、プレイヤーやあとNPCからもおひねりの実体化したZenを拾い集めながら彼は陽気に笑っていた。

 すでに野次馬はさっさと解散しており、残ってるのはぶっ殺したクロガネとそれのなんか付き添いになってる俺だけだ。


「なーにこのゲームだと死ぬなんてよくあることだからな、PK相手なんてグサーとかされてびっくりするぞ?」


「こええよ」


「まあ実際死ぬわけじゃねえから問題ねえだろ」


「だなー」


 それを殺した本人の横で言えるから大したじじいである。

 いや殺された本人も笑ってるから両方大したもんである。


「しかし、まさかあんな封じ方があるとはな。確かに薙刀は穂先の間合い間違えるとただの棒だけどよ」


 筋力には自信があったんだがなぁーと呟くガンユウ。


「まさか足で踏まれただけであんな無様とは」


「いやしゃあないんじゃない? あれ蹴られてたし」


 そんな慰めを言ったのだが。


「は?」


「ん?」


 何故かその本人に目を丸くされたんだが。


「蹴られたって、まじか?」


「ああ、だってさ。あれどう見ても蹴りだったろ?」


 俺は斜め後ろからだったからよく見えたのだ。

 ガンユウが薙刀を振り上げる時、クロガネも動いたのだが。

 あれは踏み出したんじゃなくて、蹴り出していた。

 まるでローキックでもするように足を振り上げるのではなく、弾き出すようにぶつけて、その衝撃で矛先が一瞬止まって、そのあとクロガネが前傾姿勢で腰を落として、"ガクンと振り上げようとしていたガンユウの動きが止まった"。

 そのままスパンと彼の手が斬られて、返す刀で首をズバッとされた。

 俺にはそういう風に見えていた。


「はあ、まじか。確かにくそ重くて固定された感じがしたが、衝撃はあれだったのか」


「という風に見えたな、うん……ってどうしたじいさん?」


「…………いや、小僧の言うとおりだな」


 顎を撫でながら上を見ていたクロガネがぎょろりとこちらに目を向けなおす。


運足(ウンソク)の一つだ。踏み込むのと踏み降ろすのを同時にやる、じゃねえと間に合わんからな」


「ほうほう」


 なるほどやはり工夫か。

 ただのローキックと違ったのかというのは個人的な感想だが。


「ほぅ、クラマ流には変なアーツあんだなぁ。足払い対策専門じゃねえか」


「慣れれば相手の軸足を踏み折れるぞ」


「なにそれこわい」


 多少工夫がいるがの、と嗤って言うがなにそれこわいわ。


「さて小僧、泡銭も手に入ったし付き合え」


「は? いや、2000Zenでなにすんだよ」


「これだけあれば買えるもんもある、いいから付き合え。じゃねえと何も教えてやらねえぞ」


「なんか師匠面してるぅう!!」


 と思わずツッコミをいれながら、さっさと歩き出したクロガネの後ろを付いていくのであった。

 色々となんか並外れてるが、面白くなりそうな気がするしな!


「じゃあなー。次回は弱いほうでかかってこいよー」


「え、やだ」


「こいよー!!」


 イや無理、初心者で勝てる相手じゃないだろお前。









「ククク、ガンユウが破れたか。だが奴は我々の中でも小物」


「だが新時代の(ウェーブ)はこれからが本番だ」


「戦いはこれからもっと激しくなるのだ」


「ふふふふ、風が騒がしいな」


「戦いはここから始まる」


「………………あのすいません、どちら様です?」


 何故かこちらを見下ろす形で服装もばらばらの集団がいたんだが。


『あ、ただの通りすがりなんで』


『言ってみたかっただけでーす』


『あざっした!』


 といって敬礼してなんか去っていかれた。

 気持ちは分かるけどさ!!


 ――我が一生に悔いなーし。


 じゃねえよ、うっせえ!

 あとベンケイセブンってなんだったんだろうか。









「ベンケイセブン……主要七国家に一人ずつ名乗りを上げてるプレイヤー群」


 ボソボソと手に抱えた記録端末に声を吹き込む。


「名前の由来は義経記、弁慶物語に記録される源義経の郎党武蔵坊弁慶(むさしぼうべんけい)の七つ道具から取られたとも思われる。環桜で目撃されたベンケイセブンその1ガンユウが、岩融(いわとおし)の音読みであることから残り六名も熊手、大槌、大鋸、刺又、突棒、袖搦のいずれかの可能性が高い」


 ボソボソ、ボソボソと喋る度に手にするメモ帳のようなテキストブックに文字が記載される。

 口頭入力によって記録するそれは文字を打ち込むよりも早く、"彼女"には便利な道具だった。


「目的は各自武器千本の入手、それも所有者の違う武器を集めることという謳い文句。ただしクランとしては成立は未確認」


 呟き、スクリーンショットで取った画像を張りつけながらペン型のデバイスで記録、修正を行なっていく。


「決闘王が目的かどうかは不明」


 呟き、ブックに記載された情報を整理しながらそれを記録するものはキョロキョロと目線を動かし、視線入力で誤字を確認する。


「<千殺英雄(サウザントマーダー)>、一騎当千の誕生は都市伝説か?」


 か、と呟いて。

 言い直す。


「信憑性の高い伝承ソースは存在する、それが楽しみである」


 そこまで言い切り、ペンを走らせて、編集した一角を保存。

 滑らかな指を動かし、ページを捲る。


 そして現れた空白のページに新しい一言を付け加える。



「ベンケイセブンを破ったのは初心者の胴衣を纏ったユーザークロガネ、名乗った流派はクラマ流」


 スクリーンショットを張りつけ、その端を押し込んで記録する。


「"鞍馬流にあんなアーツはない"」


 記録、記録、口述記録し、彼女は首を傾げて、言葉を吐き出す。


「新世代ユーザーの一人の可能性大、Waveに新しい時代の波が来ている」


 彼女は告げる。

 微笑んで、ありもしない眼鏡の弦を撫でて呟く。


「三武襲来、それ以来の新世代ニュービー。革命の時は来たれり」


 ピッとペンを押し込んで機能を停止し、最後の言葉を付け足した。



「このゲームはもっと面白くなるでしょう、Byクロウ」



 パタンとブックを閉じて、青い青い空を見上げて彼女は立ち去った。

 真っ黒な鴉の羽根のようなマフラーをたなびかせて。




返信レスより


「ようこそウェルカム、鎌使いの里へ」

「おいでよ、大鎌の世界へ」

「実践用のってそれ形状的にグレイブじゃね? とかはないしょだよ☆」

「デースサイズより、我々邪悪THEリッパークランへかまーん!」


 僕は絶望した、百人ぐらい使ってる人がいたから。


「そりゃ大鎌の使い方ぐらい西洋武術本にも載ってるぞい」

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