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3/10

第二話 やだ、変なおっさんと知り合ったんですけど

初心者用スレッドより記載


Q.このゲームで強くなるにはどうしたらいいですか?

A.殺せるだけのエネミー見つけて辻斬り十回すればいんじゃね?


zzzzzzzzzzzzzzzz

 環桜(カンザクラ)元芽(ハジメ)の街

zzzzzzzzzzzzzzzz




 ばくばくむしゃむしゃごきゅごきゅごくん。

 音にするとそんな感じとしか言いようがない光景だった。


「……よく食うなぁおっさん」


 飯屋の片隅で、盛大に食料をカッ食らうおっさんの姿に俺は頬杖を付きながらそういった。

 ちなみにこの飯代は俺が出すはめになった。

 まあいいんだけどね、精々一食50Zenだし、満腹度回復するだけで特に安い飯だしさ。


「いやー食った食った。こんだけ食ったのも久しぶりだな」


 ゲフッと親父臭いげっぷを吐き出して、おっさんが腹を撫でながらそう言った。


「しかし結構食ったつもりだが、満腹ってのにはならねえんだな?」


「ならねえよ、満腹中枢は満たされない仕様だし。ユーザー保護って奴で当たり前だぜ?」


 口の中に指を突っ込んで弄くってるおっさんを見ながら、そう返事を返す。

 この手のVRゲームで食事などの行動が出来るのはもはや珍しくないが、基本的に多少の満足感はあっても満腹っていうことにはならないし、リアルのほうでも腹が満ちることはない。

 最新の技術ならある程度満腹中枢を満足させることは医学的に出来るようだが、それをやると現実での身体での食事だの、ホルモンバランスだのに問題があるらしく、ゲームで食いまくったのにリアルだと腹が空いたままで脱水症状で倒れるなんていう事例もあったぐらいだ。

 なんでこのWaveでも基本的にはそれに乗っ取ってるし、味は感じられるが擬似的な代理品でしかない。

 まあダイエット代わりにVRで食いまくってリアルで我慢するなんていうことをやるのもいるみたいだが。


「そんなことも知らないのかよ、おっさんは」


 わりと常識だろ?


「しゃあねえだろ。ゲームなんざこの歳になってようやく久しぶりなんだからよ、てめえぐらいのガキなら詳しいんだろうけどよ」


 分からん分からんと肩を竦めて、舐めてた指を胴衣の裾で拭くおっさん。汚ねえなあ。


(ていうかクソ強かったのに、ゲームはやっぱり初心者なんか? すげえ年上みてえだが)


 節々から聞こえる言い回しや微妙に掠れた声音からして、リアルだと年上のように思える。

 もちろんそういう演技をしている奴もいるだろうし、リアル体型が基本になっているとはいえ外見などはある程度は弄れるから若さも年齢もある程度は自由が利く。

 なので本来はネチケットとしてはよくないんだろうが。


「なあおっさん、ゲーム初心者ってあんた何歳だ? これ結構きついゲームだぞ」


 アバターの年齢は三十前後ぐらいに見えるが、まあもう少し老けてるか若いか、


「あん、わしか? わしは今年で七十じゃな」


 時が止まった。

 俺の目も丸くなってた。


「どうした? 鳩が豆鉄砲で殴られたような顔をして」


 ふぁっ。


「え? マジで? 冗談にしても性質が悪いんだけど」


 いや、確かにゲームで年齢制限は下にはあっても上にはないが、ええー。


「嘘を吐いてどーするよ、最近は腰はいてえし、全力で走るのもきっついぐらいだしな」


 腰がいてえって、ええ。


「おっさんていうかえ? マジでじいさんなの? じゃあその外装どうなってんの、なんかの映画俳優の写真でもスキャンしたんか? あとぽっくりいかない?」


 見た目年はそれなりに食ってるように見えるが、ジジイにはまるで見えない。少なくとも七十はねえ。

 いっても三十ぐらいの男の俺が言うのもなんだが精悍な顔立ちだ。

 このゲームでの外装は基本的にリアルの自分の身長や体格を読み込んで、そこから付属のソフトでシステムで弄くって作ることになっている。

 簡単なのなら肌の色や髪の色、瞳の色とか髪型のそういうのから、耳の形や鼻の位置、念入りにやろうとすればまったくの別人や思い通りの理想の自分にもなれるし、ごつい体格の人間からうっすらと細い体格のモデルにもなれる。

 その他にもリアルな写真とか画像データとかを読み込んで、それを3Dに投影再現、基本的なフェイスモデルにすることも出来るんだが。


「あー? この外見なら息子が用意してくれてな、あと最後はよけえだ」


「へ、息子?」


「おう、わしの若い頃の写真を使ったらしいがまあ中々いけてるだろ?」


 ニヒっと犬歯を剥き出しに笑う。


(マジかよ)


 何度目のマジかっていう感想なのか数えてもないが俺は驚くしかなかった。いやだって爺がゲームするのに自分の息子に手伝ってもらったとか、こうなんか生々しすぎてびっくりする。

 飄々と当然のようにリアル情報を漏らすこのおっさんもとい爺さんはどうかと思うが。

 話半分で通すのが賢いゲーマーかもしれんが、なんていうかこう生々しい言い方が信憑性が高くて困る。


「……ん? ていうかゲーム用意してくれたって、それなら息子さんは一緒じゃねえのか?」


 明らかに一人で爺にやらせるゲームじゃねえだろこれ。

 爺無茶すんなっていうレベルだし、これ。


「うちの息子は忙しいらしくてよ、こちとら隠居してる爺だから時間だけ余ってるだろって押し付けられたんだよ」


 あーやだやだボケ防止になりますよとか、斬り直し出来ますよとか、嫌味かよ畜生めと爺さんがぶつくさと呟きながら注文していた茶をぐびりと飲む。


「しっかし、いやあゲームも捨てたもんじゃねえなぁ、最近はあれこれ酒は控えろ、饅頭は食べ過ぎるな、棒振りはほどほどにしろと言われてるがやりたい放題みたいだしな。これで女も抱けたら文句なしだったんがなぁ」


「ねえよ! これ一般ゲームだから! ハラスメント通報されたらBAN(バン)だぞ!」


 これ大丈夫? 周りから通報されてない? あ、目線逸らされてるか、気にすらされてない。

 ていうかまだ見慣れてないが騎士甲冑とか、戦国甲冑とか、バイキングみたいなのが箸持って飯食ってるのにはなんかシュールだなぁ。

 あと背中にでかいナタを十字に背負ってるのあれなに? 蛮族かなんか? あとゴスロリしてる人とかいるんですけど。


「そういえば坊主」


「あんだよ?」


「さっきから手前ばっかり質問してるけど、そろそろ名前ぐらい言わねえか? あ、わしはクロガネだ」


「あー俺はカイセ。スタイルは牢人だ、あんたのスタイルは?」


「スタイル? なんじゃそれ」


「スタイルはスタイルだよ! 最初の成長方向決める職業っていうか、ステータス画面で見れるだろ!?」


 何度目かのつっこみに、クロガネのじいさんがあー? といいながら右手で左肘を二度叩いて画面を開く。


「こんそーる、お、これか」


 思考言語に慣れてないユーザー向けのダブルタップ入力だ。最近の慣れてる奴は口で言うか、あるいは言わずに思考言語と眼球の動きだけでコンソールも操作するのだが、まあ俺もそこまで到達していないし、そこまで廃ゲーマーじゃない。


「見れたか? 自分のステータス画面でスタイルと選択したアーツが出てるはずだけどよ」


「うむ。スタイルは牢人って奴だな、でアーツっていうのはこりゃあ鞍馬(クラマ)流か? わしが納めてる奴じゃねえか……あん? なんだ、将監のほうかこいつは」


 ぶつくさとよくわからないことを言ってるが、聞き取れた情報から補足する。


「スタイルっていうのは初期選択で選ぶまあ所謂職業だな。<牢人(ロウニン)><(シノ)び><僧兵(ソウヘイ)><山人(サンジン)>の戦系四種と<職人(ショクニン)><商人(ショウニン)><農民(ノウミン)><狩人(カリウド)>の生産四種、業計八種類があり、それぞれ初期パラメータと延びる補正が違ってる」


 ちなみに他の国だと牢人が自由騎士、戦士、武夾だのそういうクラスに変わってるらしく、それぞれで取得出来るアーツも違うらしいがほぼ初期ステータスは同じだ。

 By初心者用掲示板である。


「伸びる補正?」


「ああ、このゲームは能力を上げるのは装備と行動、あと初期スタイルでのステータス補正しかないらしい。あとパッシブスキルぐらいか?」


 コンソールと呟いて、口頭口術と思考制御で俺もコンソールを呼び出す。

 目の前に浮かび上がったコンソール画面の端を摘まんでクロガネにも見えやすい位置に動かすと、そこから公式HPへと移動、スタイル八種の説明している画面を表示する。

 それには大まかなグラフ形式でステータスの違いを出している絵とつらつらと説明書きが書いてあったのだが。


「だがぶっちゃけ成長補正は誤差らしいぜ」


「誤差? なんでじゃ」


「だってこのゲーム、強さが"人間大"が限度らしいからよ。初期選択した山人と今前線走ってる前線組でも足の速さとか100mでも一秒ぐらいの誤差しかねえらしいとかなんとか」


 コンソールを操作し、今表示しているのとは別のタブを作成、その作成画面で公式HPからアクセス出来るWave専用掲示板を開き、5chンネル形式の初心者向けスレッドを開く。

 そして昨日自分も読んだ箇所を探してスクロールし、そこで画面を止めてクロガネに向けた。



「ほいこれ」





    ●                 ● 



 【Q&Aで】初心者向けスレッド その28【お答えします】



1:名も無き牢人さん

 Weapon&Arts・Virtual reality Entertainment。

 通称Waveでの初心者救済用のスレッドです。

 右も左も上も分からない困った人に向けてチェケラ☆ という気持ちで答えを教えてあげましょう。

 なお、ガチの初心者やニュービーのWaveヘッズに対してなのであまり修羅った答えは返さないように。


 このクソゲーめいたゲームに少しでも戦力を!


~~~~~~



128:名も無き牢人さん

 すいません、ついこの間から右往左往しながらこのゲーム始めたんですが。

 全然ドッグとかに勝てません、ていうか自分僧兵で「剣道連盟杖道」ってアーツ選択したんですがよくわからねえです。

 「本手打」って奴で殴って、ゴブリン一体ぐらいなら倒せるんですが、犬に囲まれると死にます。

 あっけなくぶち殺されるんですが、もしかして自分はずれとか引いてます?


 あとステータス、ブンブン武器とか振り回しててそれなりに伸びてる気がするんですけど全然成長した気がしないです。

 自分別のVR経験者なんですが、もしかしてなんか間違ったことしてるんでしょうか?



129:名も無き牢人さん

 ようこそ初心者よ、大丈夫みんな通る道だぜ。君の感覚は間違ってねえぜ。

 それ仕様ですから。


130:名も無き羊飼いさん

 この素晴らしくもないクソゲーにようこそ、さあ今すぐ自分のゲームにゴーホームだ。

 それか石を握れ、石こそ全てよメー。


131:名も無き牢人さん

 やめてやれよwwwww いやまじで正しい答えかもしれんがww

 あと貴様みたいな羊飼いがいるか!


132:128

 どういうこと?


133:名も無き牢人さん

>>132

 このゲームで成長を実感するのはかなり伸ばした後か、実戦の中ぐらいだ。いやガチで。

 言うなれば100m走でタイムが一秒縮んでも計ってないとかわからないような感じで。


134:名も無き牢人さん

 ていうかこのゲーム、ガチでよほどの化物相手でもないとしょせん同じ人間よー。

 装備とPLスキル除けば大体始めたばかりでも相手の頭かち割れるし、動かなければな!


 動かないわけがないんだけどな! くそあいつら気配感知で俺の狙撃避けやがって、気持ち悪い動きで距離詰めてくるわ、投槍ぶちこんでくるわががががが


135:名も無き羊飼いさん

 PKとか理不尽されるって決まってんだメーね。

 まあ一番倒しやすくてきついのがPvPだが、あ、ちなみにこのゲームで不遇はあまりないよ。

 言うなれば剣とか素手ぐらいかなー。

 あれガチできっつい、おかげで俺は石厨です。石こそ最強武器よ、人間の武器は投石だメー。

 あと人間が一番不遇(真顔


136:128

 石?(困惑

 剣が不遇ってどういうこと? かなりアーツの種類多くて、被るとやだから棒術取ったんだけど、不遇なの?

 あとステータス差違がないってどういうことだ、公式HPだと成長するみたいなこと書いてあったんだけど。

 PV詐欺? あれすげえ動きしてたんだけど、特にニンジャ。


137:名も無き牢人さん

 棒術、槍術は強アーツだぜ。

 武器とか使ってくるゴブリンとかスケルトンにはくそ有利だし、大半の対人でも有利だぜ。ただし遠距離相手にはなんだろうがちぬ。

 犬相手にはアーツでの技説明とかモーション指示無視して突いて殺すのがお勧め。

 あと囲まれるとどちらにしろ死ぬので少ないのから狙って、あと防具揃えろ、噛み殺されるし。

 PVのは多分人間詐欺か人間卒業者だから気にするな。


 Q:剣は強いですか?

 A:浪漫です。槍こそサムライ殺しよ。


 (過去レス転載↑


138:名も無き牢人さん

 Q:剣は強いですか?

 A:くそ弱い、だがそれがいい俺たちが剣使いだ!


139:名も無き牢人さん

 Q:剣は強いですか?

 A:槍と剣は三倍段って現実なんよね。


140:名も無き羊飼いさん

 Q:剣は強いですか?

 A:石でいい。


142:名も無き牢人さん

 お前はゴリアテと戦ってろよ、この羊飼い!



141:128


 わけがわからんぞ!!?


~~~~~~




    ●                 ● 




「なるほど、わからん」


「わかれよ!」


 いや気持ちはわかるけどなー。


「このゲーム、成長してもあんまり差違がないみたいでさ。スキルはあれこれ有用だったり、使えないのが多いとかなんとか」


 掲示板ちらほら見たけど、まともに使えるのが殺気感知とか、気配探査とかで。あと生産系のぐらいが有用ってされてる。

 使い方の講座みたいなスレもあったけど説明がファジーなのとわからなさで目が滑って、しっかり読んでねえし。

 あとなんかお勧め武器が石上げられまくっててよくわからんぞ。


「ほうほう、まあ敵なんざ刀でブッ刺せば大体死ぬから問題ないな」


「乱暴な言い方だな爺さん、まあ大体あってるけどよ。このゲームHPは飾りだし、ヘッドショットとか首ずばーとか心臓ぐさーやれば大体死ぬらしいぜ」


 このWaveだとHPなんてあくまでも防御力の一種、まんま耐久力ぐらいで目安程度でしかない。

 ゲージも自分以外のなんてスキル使わんと見れないらしいし。


「ほうほうけったいな仕組みじゃねえか、んじゃあアーツってのは?」


「アーツはまんま流派って奴だ。このゲームじゃあ戦系四種だと流派、生産四種だと道法っていうらしいがまあ同じ内容だな。選んだアーツによってそれぞれ"覚えられるゲーム内スキルが違うらしい"」


 これは俺もよくわかってないんだと前置きしてから、クロガネに自分のアーツの名前を言う。


「俺は警視流って奴を選んだ」


 これがほんまよくわかんのだが、開いたウィンドウから自分のアーツの説明を見る。



【警視流~第一の型 八相(直心影流)~】


 直心影流、春夏秋冬の四季の春の太刀。

 八相の構えから受け手に返すこれすなわち八相発破→<参考ムーブメント>

 対応道場にてチュートリアル可能。



 である。さらに術理テキストっていうのがついていてるんだが、これがびっしりとくそ長くしかも古臭い言い回しで書いてあってわけがわからん。

 季節春也。草木が生育して行く如く~だの。

 上段は陰の構へ、精眼は陽の構へ、陽の構にて陰中に陽を発しだのなんたらかんたらだの。

 まるでわからんし。


「これがわけわからんしな、正直あまり使えないんだわ。ムーブアシストないしさ、このゲーム」


「アシスト?」


「ああ、他のゲームだとある程度モーションムーブが登録されていて、距離とか場所あってれば勝手に体が動いて技とか叩き込めるんだよ」


 スタイリッシュさで有名な<バスタード・ブレインライン>とかSFサイキックアクションの<サイキックハート>とかで有名なシステムだ。

 言葉一つ、思考トリガー一発でリアルだと出来ないアクションがお手軽に出来る。

 最初は酔うらしいが、そのうち脳が慣れて速度にも感覚にも調整されて適応出来るとかなんとか。

 あっちは数百万とか全世界数千万までいく超大手だから参考にはならんが、そういう不便なところで不満が出るのだ。

 まあ唯一の利点は自分が納めてないアーツでも説明や動きを教えれば使えるようになれるとか、システム的なロックがないぐらいである。


「ほうん」


 とまあそういう説明をしたんだが、目の前の相手はつまらなさそうに耳をほじってた。


「どうでもよさそうだな」


「余所は余所、隣の芝が青いだのんなもん何処にあってある話じゃろうが」


 ふぅとゲーム内で汚れるわけもない指に息を吹きかけて、ぎょろりと再現率が高い瞳がこちらを見た。


「大体んな簡単に体が動くので楽しみたいならそれでやればええだろうが、別のをやってあーだこーだ余所のが羨ましいだの女々しいわ。それにそんなんで動かされても腹が立つし、折角自由にやれる身体なんだから自分で動いたほうが楽しいわい」


 そういって机の上においていた手を、スッと前に動かす。

 丁度俺の真下辺りに。


「?」


「わしもまあこれをやって一時間程度だが……」


 そして。

 目の前が真っ暗になっていた。

 いや、目の前にクロガネの手があった。机の上にあったはずの手が俺の眼前に指を突き出していた。

 瞬きしたら触れそうな距離に皺さえ浮かんで見える指先があって、息が止まった。


「 」


 は?

 確かにクロガネの手を見ていたが、何時そうされたのかわからなかった。

 まるで掻き消えて、この目と鼻の先に瞬間移動されたような動き。


「――中々具合がいい。身体はいまいち鍛えが足りんがの」


 スッと俺の顔から指が離れる。


「……はぁっ」


 それを見てようやく息を吐けた。

 バイタル警報が出ないぐらいに息が詰まって、心臓がばくばくと音を鳴らす。

 ゲームだと頭ではわかってるが、目の前で眼球を潰されかけた恐怖があった。


「大丈夫か、小僧」


「……びびったんだが」


 いやガチで。


「悪い悪い」


 効き過ぎたかと顎を撫でるクロガネの姿を見て、薄々と感じていた得体の知れなさに実感が湧いてきた。

 このおっさんじじい、確かに装備と言動から見てゲームを始めたばっかりの初心者なのは間違いない。

 だけどなんだろうか、妙に強いっていうか、やばい。

 リアルだとテレビで見た格闘家だの、あんまり流行ってない剣道とかそういう試合に出て来る選手を見たような気分になる。

 今さっきのとか、あのレッドキャップ相手にしてた動きといい。

 なんか凄いアーツ? いや、システム? をしてるんだろうか。


(チートでは多分ない気がするけど)


 ていうかどういうチートがあるかなんてろくに知らんが。


「そうだ小僧、お前さんさっき警視流っていってたよな」


「そうだけど」


「で、八相……直心影流か。五行のほうじゃねえな、初夏秋冬――木太刀型か」


「うん? なんか知ってるんのか」


「ああ。八相自体は見慣れたもんだからな、警視流はまあ世話になったほうはねえが、直心とはやったことはある」


「は?」


 やった? どう言う意味だPvPとかでか?


「まあ口で言うのもなんだ、あれこれ教わった礼だ。少しぐらいなら教えてやる」


 そこまでいった時だった。

 飯屋の入り口が騒がしく開かれたのは。




『てえへんだてえへんだ!! けっとうさわぎだー! あかばしで決闘さわぎだー!』



 がらがらと音を立てて開いたのは騒がしく喋くり倒す人――じゃない。

 木製の図体、四角いと口と丸い○のような目に、手ぬぐいと町人風の外見をした人形、NPC(モクジン)だ。

 棒読みめいた声と喋り方は音声に使ってるのが人工再生ソフトのせいだ。


「決闘?」


「なんかの騒ぎか?」


 がやがやとNPCの伝えた報告に飯屋のプレイヤーたちもぞろぞろと席を立ち、勘定を受付前のこれまた町娘風の外見をしたNPCに払って出て行った。


「あの、なんか騒ぎ? なんかNPC飛び込んできたけど」


 手短なプレイヤーに聞いてみる。


「ああ? 見たことないのか、街中いると騒ぎがあるとNPCが飛び込んできたり、騒いだり、紙の新聞とかチラシ巻いて知らせるんだよ。と、オレもみにいくわ」


 そういって本人もさっさか野次馬根性で出て行くようで。


「どうするじいさん」


「見に行くか。喧嘩と花火は江戸の華っていうだろ」


 振り向いた先ではクロガネが意気揚々と立ち上がり、インベントリにもいれずに壁にかけていた刀を腰に差し直していた。



「ここ江戸じゃねよ、環桜だよ」



 俺はため息を付いて、NPCに勘定を払った。



返信レス

「なにそれこわい」

「どこの蛮族だ」

「切り覚えさえすればそりゃあ強くなるよ」

「石でいい」


 参考にならない例より抜粋

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