第七話 お前ら槍は持ったな!
WAVE技術研究スレより
「鉄道はあんのに馬車がろくなのがねえ!」
「スプリングもねえ!」
「タイヤも木組みしか売ってねえ!」
「よし、ゴムだー!」
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環桜/株分け街道1
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あおーいそらー。
しろーいくもー。
どこまでもつづくかいどうー。
そこでおそってくるゴブリンたちー。
うふふふ、あはははと微笑み歩き。
「しねえええええええええええ!」
槍を繰り出した。
手から伝わってくるのはリンゴに包丁を突き立てたような感触。
狙いドンピシャ、ゴブリンの胸をど真ん中から貫き、穂先が刺さる。
『GYAAAAAAAAAA!!!』
聞き触りの悪い悲鳴を上げて子供サイズのぬいぐるみのようなゴブリンが消滅する。
そしてガランと手に持っていた錆だらけのナイフが地面に落ちた――ドロップアイテムだ。
「おし、いい調子だわ」
傍にエネミーがいないことを確認してからドロップしたナイフを拾う。
ドロップアイテムは特殊な奴以外は三分以内に拾わないと自動で消失する仕様になっており、乱戦の中ではドロップアイテムを素早く回収することを生業にしている奴もいるぐらいだ。
「マジで攻撃が当たるだけで余裕が出来るな」
ここまで三匹立て続けに仕留めたが、こちらに手傷なし。
ただ歩いて斬ることを、あるいは歩いて殴ることを意識するだけでかなり世界が違う。
そんなことを作った槍――そこそこ頑丈そうな長い木の棒を先端だけ割って、同じように手に入れたドロップアイテムの包丁を縄でくくり付けた文字通り手製の槍もどきを見ながら実感する。
(あるきりさまさまだぜ)
<あるきり>と呼ばれてるテクニックがある。
やることは一つ、走っても駆け足でもなくただ歩いて、武器を構えて叩きつける。
それだけ。
ここ以外ではなにいってんだ馬鹿と言われるPLテクニックだが、これが重要なものだ。
他のVRゲーム、特に三大主流ゲームだと基礎的に組み込まれている<動作補正機能>――通称AMSが組み込まれていない。AMSというのは言わばモーションキャプチャーなどで事前に設定された行動パターンに、プレイヤーの動きを近づけ、合わせる補正のことでバイクゲームならバイクに乗ってる時に最適な体勢に、競馬ゲームなら乗馬のスタイルなどになり、ガンゲーならハンドガンやマシンガンにライフルなどなどそれぞれに合わせた持ち方に自動で修正されるものらしい。
これのおかげでずぶの素人でも刀とかの抜刀の時に手指を切ることもないし、スキル一つでやったこともない居合いだの抜刀術などが撃てるらしいし、変な姿勢で足首をくじきましたわーというアクシンデントもないらしい。
その代わりゲーム中はなんかふわふわと自分の体を動かしているというより動かされているような気がして、操縦しているっていう風に感じられると言われているが――まあ閑話休題。
だがこのゲームにはARMの補正は一切存在しない。
そのため重い武器――鉄バットとか棍棒とか振るえば体が持っていかれるし、振り慣れていないとモンスターと自分との距離をミスってからぶることだって珍しくない。誰だって木刀や鉄パイプとかで人を殴ったり、叩いたりすることに慣れている奴なんていやしない。
ただの高校生がそこまで暴力適性とか才能があるわけがない、そもそも経験が足りない。足りてたまるか。
だから走って切りつけたり、殴りつけようとしてしくじる奴がいるのだ。
(まあ最初の時の俺なんだが)
なので歩きながら槍を突き出したりしてやると、落ち着けばそこまで理不尽でもないゴブリンぐらいなら順調に倒すことが出来た。
振り下ろすのと違って突き出すだけなら間合いも間違えないし、近寄らないから怖くないし。
おかげで腰に差したままの鉄心入り木刀に出番はなく、手と背に背負った手製槍予備二本という竹槍装備かよみたいなスタイルに俺は落ち着いていた。
おかしいな、俺。剣ぶんぶん振り回して、まるで主人公だぜーみたいなプレイやろうと思ってたのに。
(どうしてこうなった)
思わず空を見上げた。
あ、空がひろいなーうふふふ。
「なにやっとんじゃおまえは」
「お?」
軽い現実逃避から戻ってくると、ポンポンと肩に抜き身の刀の峰を乗せたクロガネじいさんが呆れた顔で立っていた。
その全身に土ぼこりや傷は見当たらない。
「じいさんもう終わったのか、五匹ぐらいいたはずだけど」
「木偶坊を切り捨てるのに時間はかからんわい」
といってドロップアイテムらしい錆だらけの包丁や汚れたナイフを腰から下げたナイフホルダー――爺さんがちょちょいと革紐で作ったくくりつけるだけのホルダーに吊り下げる爺さん。
ガチで強いわこの爺さん。
俺が槍使ってるとはいえ三匹相手でも一体ずつ撃破だったのに、この爺さん刀一本でパカンパカン首刎ね飛ばすし。
なんてチート爺だ。羨ましい。
「やっぱりじいさんインベントリいれねえのか? 場所とってジャラジャラするだろ、それ」
「一々出すのが手間だからな、使い捨てを御託大事に取っておくこともねえだろ」
確かにインベントリからアイテム出すのには登録されたポーズとか、数秒のタイムラグあるからなあ。
「じゃ、いきますか」
「だな」
周りを見渡し、ゴブリンやハイブリットドッグがいないことを確認して俺たちは街道を歩き出した。
周囲に広がるのは一面の草原と前後に真っ直ぐに伸びる野晒しの街道。
視線の奥に広がるのはでっかい山へと繋がる道だった。
株分け街道1。
元芽の町から第二の街へと繋がる長い長い草原と山道の街道だった。
主七大国。
WEVEには七つの巨大サーバーからなる七つの国が存在する。
中国モデルの<三華秦>、アメリカモデルの<フローティア>、イギリスモデルの<グレートアルテル>に、インドモデルの<ヒイグリッド>、欧州連合に所属する国がモデルと言われる<自由轟盟>、南米風味の<ヴァーヴァイン>。
そして、日本――特にアイヌ系とロシアなどを混ぜ込んだ<環桜>
この七つの国になる。
全世界展開しているこのWAVEではそれぞれの所属国家によって最初のサーバー=国家が決まり、別の国家に移動するにはある要塞に備わっていたゲートを通る必要があり、三つ存在するゲートを使うにはそれが封じられていた要塞を攻略する必要があった。
それがつい数ヶ月前に解放された<双炎の門>、三重の城壁で囲まれていた<テセウス城壁>、最大の激戦地とされた<千里の長壁>
総参加PLだけで一万人を超える大規模レイドで攻略開始から攻略終了までリアル時間で一月近くかかったという頭のおかしい話である。
とはいえこれだけ難易度が高いのは他の国にいくためのゲートであって、国内を移動するのはそこまで難しくない。
街ごとに転移点と呼ばれるワープポイントが存在し、使用するのに手数料となるZenが必要となるぐらいだ。
ただし、移動するポイントの使用には――まずその町までいってそのPL自身が登録する必要があるだけだ。
「と。まあそういう感じなんで一回足を運ばないといけねえわけだわ」
「ほうほう、なるほどなあ」
街道を歩き道すがら、事前に下調べなんてしているわけがないクロガネの爺さんに一晩掲示板などを廻って調べた情報を講義していた。
ちなみに道すがら出てきたゴブリンには爺さんと俺が投げた石とか、錆びたナイフがブッ刺さり、ドッグに関しては棒を削いで作った短槍を投げて蹴散らした。
飛び道具と長モノこそ最強だな!
剣とか所詮護身用よ!
「で、次の街にたどり着きさえすりゃあお前のダチと合流出来るっと」
「ああ、こっちでの名前はしらねえんだが付いたら合流するって約束なんだわ。先に結構始めてるみたいだから幾つか装備とか金も譲渡してもらえるだろうし」
現実での金の貸し借りはやる気はないが、ゲームでなら使ってない装備だの余ってる道具などが絶対あるだろう。
それを貰った準備金にさせてもらう位は問題ないはずだ。
なんだったら稼いで金で返せばいい訳だし、風間の奴もそこまでグチグチ言うほど心の狭い奴ではない。
「ふぅん、ま、おりゃあ楽しめればいいが……」
まあいいだろという態度で爺さんは頷いて、俺に向けていた目線を先に向ける。
目線の先にあるのはなだらかな上り坂に、数多くの木々がある道。
つまり山道だった。
「しんどくなりそうだが、いいか?」
「たかが二時間ぐらいだろ? さっきの子曰く」
ちらりと俺を見ていう爺さんの言葉に、反論する。
つい先ほどだが、山道を鈴をシャンシャンと鳴らして、両手を平行に広げたいわゆるきぃいいいいいいん走りをしていた女の子と遭遇したのだ。
犬耳バンドに、真っ赤な歯の長い下駄を履いた特徴的な子だったが、彼女に聞き込みしたところこの山を乗り越えて次の街にいくまで精々二時間ちょっと。
山道とはいえたかが数時間、歩くぐらいならなんてことはないだろう。
リアルと違ってそこまで疲労が続くもんじゃないし、部活みたいに走らなくていいし。
二時間ぐらいならジョギングでも問題なく走れる時間だ、まあゆっくりだけど。
「なら特に問題ないっしょ」
「……その言葉最後まで忘れんなよ」
「そういうフラグ立てるのやめてくんね?」
まるで死んだり、めっさ苦戦するフラグ立てるのはやめてほしい。
ふと山道の入り口辺りに見えた黄色い看板に気がついた。
――ガオーって吼えているデフォルメ風のクマの顔が映っていて、日本語でこう書いてあった。
クマ注意、と。
「あ、あ、鈴。爺さん、鈴忘れんなよ」
「北海道の時を思い出すなあ、あいよ」
お互いインベントリから狩猟ギルドから購入した熊避けの鈴を取り出し、シャンシャンとなることを確認してから腰に提げる。
曰く熊というのは臆病なものらしく、鈴を鳴らしていればあちらから避けるらしい。
これで準備完了。
さて、山登りいきますか。
小学生以来だなー。
がりごりぼりがりがりぼり。
音がする、音がする、静寂の中で噛み砕かれる音が響いた。
飴細工のように噛み砕かれるのは白い塊、咀嚼されるのは赤黒い肉、飲み下されるのは赤い液体。
一噛みごとに痙攣するのは――僅かに残った腕。
それは明るく暗い森の中で、喰らっていた。
肉を、骨を、血を。
真っ赤な毛並みの何かが喰らう。
チリンチリンと鳴り響く、腕の残骸から鳴り響く音が静寂を掻き乱して、まるで断末魔のよう。
それは朽ち折れた刃と盾の残骸。
散り散りに避け砕けた戦士たちの亡骸の残骸。
ぐるるるると音が鳴った。
まるでエンジン音、大出力の車が掻き鳴らすように喉を震わせて、それは動きだした。
――シャンシャンと"喰らうのに適した肉が鳴らす音を目指して"。
WAVE技術研究スレより
「こうしてヴァーヴァインへと遠征にいきましたとさ」
「ところでゴムって抽出出来んの?」
「ウィキって足りなければ部品から作るんだよ!」
「それを作るための道具もねえ!」
「一足飛びで作るには時間が足りねえな」
「「「だがそれがいい」」」
「オタクってめげねーな」
ブックマーク400人突破ありがとうございます!




