冬の女王様
ある所に冬のお姫さまがいました、名前は美雪、大変美しいお姫さまで髪は氷のように輝く銀色、肌は雪のように白く目は冬の湖のように透き通った蒼い色をしていました
みんなは美しい、まるで冬を表したような姿だと褒めてくれますが実はお姫さまは冬が大嫌いでした、寒いし、冷たいし、それに冬を思うと寂しい気持ちになってしまうのが一番嫌いでした
そんなお姫さまに女王様は言います
「姫、冬の女王になるものは皆に厳しくしなければなりません、皆に冷たくしなければなりません、心から冬を感じさせる為、そしてあなたも冬を感じ雪を降らせるために」
女王は冷たい手でお姫様の肩に触れ話を続けます
「そうしなければ冬がなくなってしまいます、あなたのおばあちゃんもそのまたおばあちゃんも皆が頑張って冬を作ってきたのです、姫、あなたも女王らしくなるように頑張りなさい」
「はい・・・わかりました女王様・・・」
「あと、これだけは何があってもやってはいけないことがあります、何度も話していますから、わかりますね?」
「はい、女王は誰かの為に泣いてはいけません、暖かい涙は私たちを溶かしてしまうから・・・」
「その通りです、私たちは人の為に涙を流してはいけません、これだけはちゃんと守りなさい」
そういうと女王様は両手を離しベットに横たわり直して姫に言います
「姫、ごめんなさい、今年の冬から塔に入るのはあなたです、心構えは出来ていますか?」
姫はビクンと少し身体っを揺らすと
「・・・はい、大丈夫です」
と答えます、普通なら姫が塔に入るのはずっと先の話でした、ですが女王様は重い病気にかかってしまっていました、みんなが黙っていましたが姫は病気の話を聞いてしまっていました
珍しい重い病気で直す方法はなく、今年の冬には死んでしまうということを、だからお母さんの傍にいたい気持ちで一杯でした、それに・・・
実は姫は雪をうまく降らせることが出来ません、姫が雪を降らそうとすると吹雪になってしまったり雨になってしまったり、何度やってもうまくいきません
お母さんの為に女王の役目をしっかりとするために塔に入る前にはなんとか雪を降らせられるようにしなければ、と、心ばかり焦ってしまいます、姫は頑張ってうまく雪を降らせられるように毎日練習しました
それから何日も経ち、とうとう姫が塔に入る日になってしまいました
「姫、気を付けて、頑張りなさい」
女王はそう言って姫に王冠と杖を渡します、これは冬の女王の証でもあり塔に入る鍵にもなっていました
「緊張しなくても大丈夫、さあ、新しい冬の女王様、行きなさい」
姫は女王から受け取った王冠と杖を着けようとしましたが王冠はぶかぶかで首輪みたいになってしまうし杖はとても長く杖というより槍のようになってしまいます、仕方がないので王冠と杖を抱えて
「・・・行ってきます」
と言って塔に入っていきました
塔に入った姫は最上階で世界を見渡します、不思議なことにここからは世界の隅々まで見ることが出来ました、みんな寒そうにコートの襟を立てていたり、家の中で震えています、
そんなみんなの姿を見て姫はまた悲しくなってしまいます、でも塔に登ったからには姫は役目を果たさなければなりません
「さあ、雪よ降って、お願い・・・」
姫は雪を降らせます、ですが雪はうまく降ってくれず雨になったり吹雪になってしまいニュースでは毎日のように異常気象が起こっていますと伝えます、姫はどうしても雪がうまく降らせられないのでとうとう塞ぎ込んでしまい雪を降らすこともやめてベッドの上で縮こまっていました
そんな日が何日も続いたある日
「どうしたんだい?女王様、雪が降っていない日が何日も続いているよ、何かあったのかい?」
その言葉に顔を上げるとそこにはまばゆい光と共に現れた神さまがいました、
「何かあったのかい?話してごらん」
姫は泣きそうになるのを我慢して神さまに話します
「わたしっ!雪がうまく降らせられないんですっ!いつも降らせようとすると雨になったり吹雪になっちゃったりして!王冠も杖もぶかぶかだしっ!」
姫は今にも泣いてしまいそうな顔で話します
「わたしっ!お母さんたちみたいにうまく雪なんて降らせられません!降らせたいなんて思いませんっ!冬なんて大嫌いっ!自分の名前も大嫌い!冬の女王なんて出来ませんっ!おかあさんの傍にいたいっ!」
姫は初めて自分の考えていることをちゃんと話しました、泣くのを我慢して自分の言葉で一生懸命に話しました
神さまは姫の話をちゃんと最後まで聞いてくれました、そして優しくうなずくと
「うん、うん、良く頑張ったね、姫、冬の女王様は大変な仕事だからね、辞めてもいいんだよ」
その言葉に姫は驚きます
「えっ?辞めてもいいんですか?」
「うん、いいよ、姫は良く頑張ったんだ、それでも嫌だったんだからもうやめて他の事をしよう、でも辞める前にちょっと手伝ってもらいたいことがあるんだけど、手伝ってくれるかな?」
姫はびっくりしましたが女王をやめていいと言われ手伝いをすることにしました、でも女王をやめていいと言われたことにちょっと悲しくなってしまっていました
「雪も降らせられない女王様なんて冬の女王様じゃないわ、これでいいのよ・・・お母さん悲しむかな・・・」
そう思って姫は神さまに尋ねます
「私は何をすればいいのですか?」
「これからあるおじさんの所に行くんだ、そのおじさんは死んじゃったんだけどとてもいい人でやさしい人だったんだ、だからどんな願いでも一つだけ叶えてあげようと思うんだ、その願いを叶える力を貸してあげるから、叶えてきてくれないかな?そしたら君の願いである冬の女王をやめさせてあげるよ」
「・・・わかりました」
神さまはまた優しくうなずくと
「じゃあ、いってらっしゃい」
と手を振って見送ってくれました、姫は光の粒になってどこかに飛ばされていきます、そして光の粒が姫に戻った時には紺色のスーツを着たおじさんの前にいました
おじさんは木で出来た家の中で暖炉の傍に座り本を読んでいましたが姫を見るとちょっと驚き、そして神さまと同じように優しい笑顔で
「やあ、小さなお客さん、こんにちは、そこは寒いだろう?こっちにおいで」
と暖炉の傍に招いてくれます
「ごめんなさい、私、冬の女王だから・・・」
おじさんはビックリしていましたがやがて嬉しそうにしながら優しく
「それはすまななかったね、じゃあちょっと暑い位かい?ちょっと待ってね、暖炉の火を弱くしよう」
と暖炉の木を調節し始めます
「いえっ!この位なら大丈夫です!わたし神さまの使いでやってきました!おじさんの願いをなんでも一つ叶えるために、だから願いを言ってください!」
姫は焦ります、早く願いを叶えてお母さんの傍に行きたい、お願い、早く願いを教えてっ!
「う~ん、願いかあ~」
おじさんは腕を組んで考えていましたがふと姫に話しかけます
「女王様、あなたの願いは何なのですか?少し私とお話しをしませんか?」
姫は焦っていましたがおじさんが願いを言ってくれないと困るのでお話しをしました、最初は気が乗らなかったのですがおじさんの話は面白く、姫の話もちゃんと最後まで聞いてくれるのですっかり夢中になってしまい長い時間話し込んでしまいました。
「すっかり話し込んでしまったね、ごめんね、女王様には時間がないのにね」
おじさんがそう言ってすまなそうにしているのをみた姫はあわてて
「いいえっ!そんなことないですっ!ほとんど私が喋っていたしっ!それに・・・楽しかったです・・・」
おじさんは嬉しそうにうなずくと
「じゃあ、おじさんの願いだ、君のお母さんの病気を治しておくれ」
姫は何も考えられなくてぼーっとしてしまいましたが
「だめですっ!おじさんのお願いなんだから私の為に使っちゃだめです!」
本当は嬉しくて嬉しくてしょうがありませんでしたが姫はこのおじさんに自分のために願いを使ってほしい気持ちになっていました
おじさんはしゃがんでやさしく姫の頭に手をのせ撫でながら
「実はもう願いはかなってしまっているんだ」
姫はきょとんとしておじさんの顔を見ます
「娘が立派な冬の女王様になった姿を見れた、今まで育ってきた話しをちゃんと聞けた、だから今の願いは妻の、美雪のおかあさんの病気を治したいんだ」
あ、あ、あ、あ、あ、姫は涙を瞳に一杯に貯めておとうさんを見ます
「美雪、私のかわいいお姫様、君が私と初めて会ったとき、君は自分を冬の女王様と言ったね」
美雪を撫でている手から光の粒がこぼれはじめ、それはおとうさんの全身からこぼれはじめます
「美雪、きみはもう知らないうちに冬の女王としての役目を行っているんだよ、立派な冬の女王様なんだ」
「おとうさんっ!おとうさんっ!」
美雪は必死にこぼれる光を集めようとしますが光の粒はこぼれて行きます
「美雪、幸せに、おとうさんはいつでも傍にいるよ、それじゃあ、またね」
優しい笑顔のままお父さんは光の粒となって空に消えてしまいました。
美雪はとうとう涙をこぼしてしまいました
「おとうさんっ!おとうさんっ!」
いつまでもいつまでも泣き続け
やがて溶けてなくなり、そこには小さな淡く光る光の塊が浮いていました
周りには雪が降っています、綿毛のようなほわほわとしてどこか暖かそうな雪がいつまでも降り積もります
「泣いてしまったんだね、辛い思いをさせてしまったね」
いつの間にか淡い光の前には神さまがいました
ーーいいえ、神さま、寂しくなんかありません今は幸せで一杯です
神さまは優しくうなずいて言います
「うん、うん、冬の女王様、良く役目を果たしてくれたね、約束通り願いを一つ叶えよう」
それを聞いた美雪は少しだけ身体である淡い光を震わせて
ーーーーいりません
と答えます、それを聞いた神さまは目を細め、優しく姫の次の言葉を待ちます
ーーーー私は今回の事で沢山の事に気づき、おとうさんにも会えて沢山お話しをして、そして冬の役目も知りました、もう願うことはありません
淡い光だった塊は、今では美しく輝き、まるで光の女王さまのようです、その光は少し笑っているように感じられ、優しい気持ちにさせてくれます
ーーーー私は冬の女王です、神さま、ありがとう
そう言うと光の粒は大きく輝きながらゆっくりと天高く舞い弾けました、神さまはそれを見て大きくうなずき、肩に積もる雪を優しく見つめ
「女王よ、君はまだまだ多くと出会い、学び、考え、答えを出していかなければならないんだよ、私は今回の答えにとても満足したんだ、そしてこれからも君の造る世界を見てみたい、だから、君に祝福と奇跡を・・・」
そう言うとゆっくりと微笑み、消えていきました
いつもより少し長い冬が終わり、春が来て、夏、秋と過ぎ、また冬がやって来ました、綿毛のようなほわほわとしてどこか暖かそうな雪が降る冬が・・・
おしまい