第一章4 『おっさんルート』
――リューチカ村道中――
「リューシャさん、まじ大丈夫すか? 明らかに軽傷じゃすまされないレベルだと思うんすけど」
「ガハハ! 大丈夫じゃ! 村に着けば、光属性の魔法に長けたものが知人におる。そやつに治してもらうとするわい!」
リューシャはウルフリーダーとの戦いに勝ったものの、左腕を食いちぎられてしまったかと錯覚してしまう程の傷を負っていた。
包帯で止血はしているが、とても痛々しくて見てられない。
「魔法で治るもんなんすか? その怪我」
「並の使い手ならば、かなりの時間を費やすのは確かじゃ。下手すると完治すら難しい。じゃが、ワシが頼りにしとる奴なら一日もあれば治せるじゃろう。礼はせんといかんがな! ガハハ!」
「そうすか? なら良いんすけど……あ、悪いんすけど、聞きたいこと聞いていいすか? さっきの戦いで、聞きたいこと増えたんで」
「良いぞ、まずは波動について教えるとしよう。波動とは――」
――リューシャさんの説明を整理すると、波動は全ての生物が扱うことができる魔法とは別の異能らしい。魔法みたいに生まれつきの才能で左右されるわけでも無く、純粋に自分の心身を鍛えることで使えるようになるとのこと。魔法の才能に恵まれなかった奴は大抵波動を習得するんだとよ。ちなみに俺は使えませんでした。
「つーことは、リューシャさんは魔法が使えないってことすか? さっきも一切魔法使ってなかったすけど」
「――まぁ、そうじゃな。……それより、ワシを最初おじさんと言っておったな。何歳じゃと思う?」
リューシャがあからまさに話題を変えたことを不思議に感じるリョウ。
が、リューシャが魔法を使えるか使えないかは、リョウにとっては関係の無い事だ。
そう思って、話題を変えたことは気にしない事にした。
「それ、大抵実年齢より若く言わないと微妙な雰囲気になっちゃう質問っすよね……」
「大丈夫じゃ、おこらんから!」
「じゃあぶっちゃけて、50歳!」
「ぐ……」
「……?」
「……そ、そうか、50に見えるか……ガハハ、はぁ。……村はもう直ぐじゃ、それまで少し、一人にさせてくれんかの……」
「えぇ……、確かに怒ってはいないけど、メッチャ落ち込んでるじゃないっすか……こういうの、世間一般では微妙な雰囲気って言うんすけど? つか俺がおじさんって言う時点で、心構えしといて下さいよ……」
「せめて40前半と言ってほしかったの……、老いて見えるのは否定せんが……」
「え? じゃあ30代……すか?」
「一応、今年で36じゃ……」
予想より遥かにリューシャが若かった事実に、リョウは動揺する。
老け顔というには無理がありすぎる。どの角度から見てもオッサンだ。
老化現象が進むとかの呪いである可能性を思いついたが、それを直接リューシャに聞くのはデリカシーが無いよなぁと思い、とりあえずリューシャにフォローを入れる事にした。
「――い、いやでも実年齢より見た目が老けて見える人って、なんか数多くの修羅場潜り抜けてそうな感じがして男としては憧れるっすよ!」
リョウは――でも流石にその年齢は――と最後に言いたい気持ちをグッと堪えた。
ついつい一言余計に言ってしまいそうになるのは、リョウの悪い癖だ。
そのフォローに励まされたのか、リューシャは顔を上げる。
「た、確かに修羅場は潜ってきておるな、先の戦いも修羅場と言って良いじゃろう、実際死ぬ覚悟をしたからの! ガハハ!」
「そういや俺に謝罪するって言ってましたよね。いやまぁ別に良いっすけど。実際リューシャさんが俺に声かけてこなかったら、体動かなかったでしょうし」
「……それに関してはすまなかった。許してくれい」
リューシャは負傷した左手を庇いながら、一度は上げた顔をまた深々と下げる。
リョウは本心で謝罪はいらないと思っていた。
あの会話が無ければ、リョウはリューシャを助けられなかったかもしれない。
リューシャのおかげで魔物と戦う勇気を出せた、逃げずに戦うことが出来た。それだけで十分だった。
「頭上げて下さいよ、マジで俺なんとも思ってないんで。むしろ感謝してるくらいっす」
「――感謝? なぜじゃ?」
「いやまぁ、その、なんつうか……その後信じてくれたじゃないすか、それがなんか嬉しかった。みたいな……――!?」
そこまで喋ると、嫌な予感がリョウの頭に過る。
――あれ、俺のヒロインって、もしかしてリューシャさん……? そういや異世界転移系の話は、この世界のいろはについて説明してくれる相手は基本的にはヒロインであることがセオリー。だが俺の場合はどうだ、ガタイの良い老け顔のおっさんじゃねぇか。……まぁここまではまだ有りうる、多分。問題は、俺がおっさんとフラグ的なモノを立て始めていることだ。
「どうした? 考え事か?」
「ちょっと今後の異世界ライフについて真剣に考えてます」
「そうじゃな、この先どうするかも決めんと行かんとは……亜人は大変じゃのう」
――さっきの戦いで、妙にお互いの間に信頼関係が生まれちまったのがおっさんルート突入の可能性が出てきちまった要因だ。リューシャさんも俺もお互いを信じて戦った。そして今、そのことを言葉にして伝えちまった。もしかしたらリューシャさんにそっちの気があって、俺に変な気を抱くかもしれねぇ。早いうちにこのフラグ、折っとかねぇと。
「リューシャさん、俺、女の子しか好きになれないんで」
「……何やら、変な誤解をしているようじゃな……それよりリョウ、リューチカ村が見えてきたぞ!」
「お! マジすか!」
もしこの村でヒロインと出会えなかった場合、リューシャがヒロインになってしまう可能性が本格的に浮上してしまう。
それだけは防がねばと、真のヒロインと出会えることを心から願うリョウ。
――あれ、これ出会い厨の発想じゃね。
その思考がリョウが忌み嫌う、所謂出会い厨の思考であることにツッコミを入れながら、リョウはリューチカ村到着を待った。
読んで頂いた方に心より感謝を!