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第一章1 『与えられた異能』

登場人物


リョウ……善田良。年齢一八歳。キノコを食って異世界に召喚された。彼女いない歴=年齢。


リューシャ……リョウを助けてくれたオッサン。ゴツい。優しい。

「おじさ……、そういや名前聞いてなかったっすね。聞いてもいいすか? 助けて貰った人の名前知らないってのも、変かなと」


「ワシはリューシャじゃ。で、どうしたんじゃ? 何か聞きたいことがあるんじゃろう? 何でも聞くが良い、まだこの世界について何も知らないじゃろうから」


「どもっす。じゃあ……、亜人って特殊な能力とか持ってたりするんすよね?」



 リョウが一番知りたいのは、自分がチート能力を持っているか。

 もし万が一、亜人が特殊スキルを持って召喚されていなければ、異世界チートハーレム無双は一生妄想で終わる。



「あるぞ、亜人は唯一、亜属性の魔法を使える人種じゃ」


「お! やっぱあるんすね! で、どんな魔法なんすか?」


「詳しくは知らんが、神器を召喚する魔法『オラクル』を使えると聞いておる」



 神器召喚魔法、それ即ちチート能力。リョウは自分の妄想物語が実現可能なことを確信した。

 オラクルで召喚した聖剣を手に、この異世界に蔓延っているであろう悪をバッタバッタとなぎ倒し、旅の途中で出会う無条件で好意を向けてくれるヒロイン達と世界を救う。



「じゃ、じゃあ今唱えてもいいすか!? なんか詠唱の準備に必要な物とかありますかね!? 魔法陣とか!」


「いや、おそらく唱えるだけで大丈夫じゃ。……適正さえあればな」



 魔法を唱えられないかもしれない、リョウは額に汗を浮かばせた。

 リューシャが言ったことを考えると、多分リョウの持った異能は亜属性の魔法だけだろう。

 もし万が一魔法を使えなかったら、召喚前と何も変わらないただの一般人だ。

 無双してハーレムを築くなんて夢のまた夢、下手するとこの世界で生きることすらハードモードなのではと、リョウは不安を募らせる。



「頼むぜ……――オラクル!」



 リョウは意を決し、オラクルを唱えた――

 右手が眩く光り出し、自分の体の中から急速に『何か』が消えていくのを感じる。

 今まで自分が体験したことの無い感覚に、一瞬パニックになりかけるがそれを何とか堪えた。

 その感覚が自分の身に危険を及ぼさない事を、本能的に理解することができたからだ。



「リューシャさん、これ成功してますよね!?」


「ワシもオラクルを見るのはこれが初めてじゃ。じゃが、絶対とは言い切れんが今神器が召喚されておるハズじゃ! 亜属性の魔力をリョウの手から強く感じる!」


 

 リョウの体から『何か』の消失は続く。

 だが、それと同時にリョウの右手には神器が召喚され始めていた。

 いつの間にか右手は神器の持ち手を掴んでおり、間違いなくオラクルは成功していると確信。



「リューシャさん! 自分が何出してるか見えます!? 眩しすぎてちょっと見えなくて!」


「ハッキリとは見えんが、丸いぞ! 丸い形をしておる!」


「は? 丸い!? 剣じゃないんすか!?」


 

 リョウは聖剣を思い浮かべながらオラクルを唱えたが、リューシャの見る限りでは神器の形状は球体。

 神器召喚魔法ではあれど、『理想の』神器召喚魔法とはリューシャも言っていない。

 聖剣で無いことを残念がりつつも、リョウはまだ見ぬ神器に心を躍らせる。



「リョウ! 召喚が終わったようじゃぞ!」



 オラクルを唱えてから約一分、とうとう神器召喚が完了。

 『何か』が消失していく感覚も無くなり、リョウの右手が次第に輝きを失っていく。



「……」


「おお! これが神器か! 凄いのぉ!」


「……」


「リョウ?」



 リョウが召喚した神器は、白くて丸い形。

 持ち手は気軽に持ち運べるように取っ手が付いていて、ワンボタンで簡単にフタを開けれる新設設計。 

 前に付いているボタンは少な目で、機械に苦手意識がありがちな主婦も簡単に動かせる優れものだ。



 リョウが召喚した神器は――



「まじすか……」



 炊飯器だった。



「どうした、リョウ。神器に不満があるのか?」


「正直、不満しか無いっす……」


「なんでじゃ?」


「……飯を作る神器って……まじすか」


「ん? なぜ飯が出てくるんじゃ? 武器では無いのか?」



 武器では無いのか、そう言われてますます気分を落ち込ませるリョウ。

 これ以上炊飯器、もとい神器について話すのにも抵抗あったが、自分を助けてくれた恩人だ。

 無視する訳にもいかないと思い、



「これ、米炊く奴なんすよ。これを使えば、焦がすことなく誰でも安定して美味しいご飯を炊けるって言う優れものっす。……武器としては……鈍器にしかなんないっすけど……」


「そうか……武器では無いのか」


「やっぱリューシャさんもそう思います? ショボすぎますよね……はぁ」


「そ、そんな事は無いわい! 誰でも米を美味しく炊ける! 凄いではないか! ガ、ガハハ!」



 丸わかりのリューシャのフォローでも、リョウにはありがたい言葉だった。

 確かに炊飯器は武器じゃない。武器では無いが、ファンタジー世界に革命をもたらす可能性があることは確かだ。

 ファンタジーの世界に、家電は存在しないはず。

 


「リューシャさん、電気って知ってます? あと家電って聞いたことありますかね?」


「ふむ……どちらも聞いたことが無いのう……神器と、何か関係があるのか?」



 この世界に電気の文化がないことを確認し、予想が正しかった事に小さなガッツポーズ。



「これの名前、炊飯器って言うんすけど、電気っていう魔法みたいなモンを使って動かすんすよ。で、電気を使って動かせるのは他にも一杯あって、俺らの世界じゃ家電って呼んでます」


「なるほどのう……リョウの居た世界にはそのような魔法が……あ」


「ん? どうしました?」


「……ワシらの世界にデンキは無いと思うのじゃが、スイハンキを動かせるのかのう……?」


「――」



 そうだ、異世界には電気の文化が無い。

 存在しなければ、電気を動力とする炊飯器は動かせない。

 炊飯器がどんなに便利でも、主婦に優しくても、動かせないならただのガラクタ。

 リョウは多少家電全般の知識は持っていたが、電気を一から作り、炊飯器を動かせる技術は持ち合わせていない。

 文字通り、これはガラクタである。


 

「じゃあ俺が召喚した神器、マジでただの鈍器ってことすか……」


「……」


「……」


「……」



 沈黙。

 聞こえるのは獣舎を引いている生き物の足音と、時折鳴く鳥達、獣たちの声。

 いっそ村人Aとして生きていこうかと思っていた時、リューシャが喋った。



「――リョウ、魔物が近づいて来ておる」


「……へ? なんでわかるんすか?」


「ワシにはわかるんじゃ、後で説明する。……正面から来ておるようじゃ。相手の速さを考えるに、まず逃げられんじゃろう。ここで迎え撃つ――ゴーシャ! 獣舎を止めるんじゃ! 魔物が来ておる!」



 リューシャがそう言うと、獣舎が急にスピードを落として停止した。

 急停止にリョウは態勢を大きく崩し、危うくまた気絶しそうになる。



「っぶねー」


「大丈夫か、じゃがモタモタしておる暇はないぞ。魔物の数が少しばかり多い。病み上がりでスマンが、リョウにも戦って貰うかもしれん」


「へ? いや俺戦ったことなんて一度も――」



 リョウの言葉はリューシャには届かなかったようだ。

 リューシャは喋りながら素早く獣舎の側面に掛けてあった槌を手に持つと、急いで獣舎の布を潜り降りて行った。

 リョウは横に置いた神器、もとい炊飯器を見て、



「まぁ、鈍器にはなるし……」



 もうどうにでもなれと思いながら、リョウも一応の戦う覚悟を決め、獣舎を降りた。

 ここで初めてリョウは、この異世界の景色を見る。



 豊かな自然に、ほぼ獣道と言ってもいい舗装されていない森道、空は現代と変わらなかったが、心無しかこの世界の空の方が澄んでいるような気がした。



「やっぱ……異世界に来たんだな、俺」


「来たぞ……」



 緊迫した表情のリューシャが口を開く。

 前方から、狼のような魔物の群れがリョウ達を目掛け走っていた。数にして二十匹は下らないだろう。そして、最後方には一際大きい朱色の狼型魔物が一匹。



「い、異世界無双、始めようじゃねぇか……」



 魔物の姿を確認した瞬間、一応の戦う覚悟が音を立てて崩れ落ちていくのを感じ、その覚悟は恐怖と緊張と焦りで上塗りされていく――

ブラバ理由、教えてください!

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