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異世界に来たが、どうやら俺の武器は炊飯器らしい  作者: みっトン
第二章 炊飯器でダンジョン攻略するのは間違っているだろうか
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第二章1 『ボルミア』

――ボルミア――



「いやぁ、久しぶりに他人の顔見ましたわ。なんたって半月っすからね」


「仕方あるまい、追われる身なんじゃから」



 リョウとセティアはヴァルド大陸の五つの国の一つ、『メルト』に追われている。

 その為領内の村や町に入ることが出来ず、出入りできるのはリューシャだけだった。

 ではなぜリョウとセティアが今ボルミアに居るかと言うと、ボルミアは国が監視出来る程治安の良い場所では無く、国から捕縛される可能性が他の町村よりも少ないからだ。

 


「でも……やっぱり怖そうな人が多いですね……」



 すれ違う人々は、怖そうな人間ばかり。

 中には仮面を被り自分の素顔を隠している者、明らかに殺人の用具として用いられる道具を露店で売っている者などもいて、治安が悪いことは一目で分かる。



「しかも睨んできよるわい。気分の良いもんじゃないのう」


 

 住人たちの多くがリョウ達を訝しげな眼で見てくる。多分それはリョウ達が余所者だから。

 ボルミアの住民の服装は、あまりキレイじゃ無い。

 それに対してリョウ達の服装は、ある程度の清潔さを三人とも保っており、ここの住人で無い事は誰の目から見ても明らかだ。

 だがリョウ達はそんなこと気にしている場合じゃない。なぜなら――



「まぁそれは置いといて……ここ、どこっすか?」


「……リューシャさん、やっぱり……」


「……」



――道に迷っていたからだ。



「もう歩いて三時間も経つんすけど……つか、さっきここ通らなかったすか?」


「……」


「私も通った気がします……」



 リューシャが言った予定では、許可証を扱っている商人にはすぐ会えるはずだった。

 だがもう歩いて三時間、田舎で有りがちなすぐ着く詐欺である。



「……おかしいのう、地図ではこの辺りと書いておるんじゃが……」


「まぁ仕方ないっすよ、迷路みたいっすもん」


「リューチカ村と比べると、凄く複雑な所ですね……」



 リューシャが道に迷うのも無理はない。

 ボルミアは大通りのような目立つ道が存在せず、とにかく小道が入り組んだ造りになっている。

 建造物も多く、視界も遮られる為方向感覚も見失いやすい。

 普通の町や村ならこんな効率の悪い造りにはならないだろう。



「人に聞く、っていう手もありますけど……相手によっては喧嘩になりそうな気も……」


「じゃが、正直埒が明かないのも事実じゃ。ワシが聞いてみよう」


「気を付けて下さいね、リューシャさん」



 リューシャは、食料品の販売を行っている露店の店主に喋りかけた。



「店主、少しいいか?」


「あ? どうしたよ」


「すまぬが、『業店(ゴウテン)アリババ』を探しておるんじゃが、どこにあるか教えてくれんかのう」



 おそらくアリババという店が、ボルニアで許可証の販売を行っている店なのだろう。

 店主は少し沈黙した後、口を開いた。



「知らねぇ訳じゃねぇが、この町じゃ情報は金。五万ゴールドで手を打とうじゃねぇか」


「……なるほどな」



 情報料としてかなり割高なのは間違いない。それはリューシャの態度が証明していた。

 余所者だからと、店主は足元を見ているんだろう。

 ここでぼったくらないメリットは、店主には存在しない。リューシャが諦めればそれまで。払えば儲けもの。



「どうすんだ? 早いとこ決めてくれや、商売の邪魔になっからよ」


「……」



 大金をここで無くすのは大きな痛手になるとリョウは知っていた。

 リューシャが調達してきてくれた食料も、基本は必要最低限。

 一度だけ魔法の修行の為に大量の米を買ってきて貰ったことがあったが、それ以外は本当に最低限の食料しか買っていなかった。



「……ちょっと良いすか?」


「じじいの連れか? どうした」


 

 じじいに反応しかけたリューシャを横目に見ながら、リョウは提案を行う。



「……一万ゴールドにまけて貰えないすかね? これ置いてくんで」


「あ? なんだそりゃ?」



 リョウが店主に見せたのはオラクルで召喚した炊飯器だ。

 もちろんこれを交換した後に、リョウはオラクルを解除する予定。

 リョウ的には一万ゴールドでも高いと思っていたが、イカサマをすることの償いも含めて、この金額を提示した。



「神器っすよ、これ売るだけでメッチャ稼げますよ絶対」


「なるほど、お前亜人か……ん? 待てよどっかで……」



 どうやら店主はリョウと面識があるようだったが、もちろんそれは店主の気のせいだ。

 リョウはこの異世界に来てからまだ一ヶ月すら経っておらず、知り合いは殆ど居ない。

 ましてや今目の前にいる店主と出会ったことは万に一つでもないだろう。



「たぶん気のせいっすよ。日が浅いんで」


「……アリババの場所を教えてやる。夜になったらそこの酒場に来い……忘れんじゃねぇぞ」


「代金は教えて貰った後で大丈夫すか?」


「……あぁもちろん」



 男が最後ににやりと笑いながら言ったのが気になったが、とにかく交渉は成功した。

 夜まで時間は二時間以上はあるが、それは仕方ない。

 下手するとこのまま一日中歩き回ることになるかもしれなかったのだ。



「一日潰しちゃいましたけど、大丈夫っすよね?」


「助かったリョウ。ここで金を使うのはちと……正直一万ゴールドでもキツいがな! ガハハ!」


「夜までどうしますか?……私はあまり歩かない方が良いと思うんですけど」



 約束の時間まではまだ時間がある。

 かと言ってこの場をあまり離れすぎてしまうと酒場に辿り着けない可能性もあるし、リョウ達はこの周囲で時間を潰すしかない。



「そうだなぁ……俺は暇には慣れてるけど、セティアちゃんはそういう訳にも行かねぇだろうし……」



 リョウは暇を過ごすのに慣れていたが、セティアはそういう訳にも行かないだろう、何かしら暇を潰せる事はないかと探していた所――



「おいお前ら! 暇ならちょッと腕相撲やッてみねェか?」



 リョウと同じくらいの青年が、声を掛けてきた。

 ガタイはある程度筋肉質で、髪の毛はオレンジ色。

 活気に溢れた声色から、明るい性格の持ち主だと見て取れる。



「なんじゃ? 腕相撲じゃと?」


「そうそう! 俺と腕相撲して、俺が勝ッたら掛け金の二倍俺が貰う。負けたらそッちが二倍貰うッて勝負!」



 見た目からしてリョウは間違いなく負けるだろうが、リューシャ相手に勝てるとは青年を見る限り思えない。

 リューシャは利き手がまだ完治していないが、利き手じゃなくともリューシャに分があるだろう。

 それほどまでに、二人の筋肉量には差があるように見えた。



「オッサン! 頼むぜ、今日誰も挑戦してこねェんだ」


「オッサ……分かった、千ゴールドでどうじゃ?」



 オッサンというワードが癇に障ったのか、リューシャはその勝負に乗り気のようだ。

 それを聞き青年もニカリと笑い、



「毎度! 利き手は? そッちに合わせるぜ」


「生憎、利き手は負傷しておってな。右手で行かせて貰うぞ」


「あらら、俺右利きだけど、大丈夫か?」


「ふっ、生意気な奴じゃ」



 

 そして二人はテーブルに肘を付き、手を握り合う。

 ここで体格差、筋力差はハッキリ分かった。

 一回り、いや、二回りも違う青年とリューシャの腕、拳。間違いなく勝つのはリューシャだ。

 おそらくセティアもそう思っていただろう。



「おいそこのもやし、合図頼むわ」


「……もしかして、俺の事?」



 もやしと言われリョウもカチンと来る。

 是非ともリューシャにはこの野生児をぶちのめして欲しいと念じながら、リョウは二人の拳に手を乗せ、カウントを始めた。



「3、2、1、ファイッ!」


「オラ!」


「フン!」



 そしてリョウの予想通り、勝負はあっと言う間に着いた。

 だが、予想外な点が一点、



「な、なんじゃと……」



――負けたのが、リューシャだった事だ。



 

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