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サブエピソード 『ダウト』

――ボルミア道中――


 ボルミアからリューチカ村まではかなりの距離があるらしく、獣舎のスピードだと半月はかかってしまうらしい。

 だがメルト国を抜ける為の許可証を、リョウ達の様な国から追われる身分が手に入れる為には、どうしてもボルミアへ行く必要があった。

 その道中、リョウはリューシャから戦闘の稽古を受けてはいるものの、どうしても暇な時間が訪れてしまう。特にセティアは常に暇と言ってもいいかもしれない。

 その暇な時間に行っているのが――



「じゃあ次、ダウトしましょうよ!」



 トランプだった。



「ダウト? なんじゃそれは」


「ババ抜きくらいしか知らないです……」


「あら? 知らない感じか……まぁルールはメッチャ簡単なんで! ずっとババ抜きだとセティアちゃんも飽きちゃうでしょ」



 まずリョウは異世界にもトランプが存在していたことが驚きだった。

 スペード、クラブ、ハート、ダイヤの柄も有り、数字は13まで。もちろんジョーカーもある。

 現代のトランプと全く変わらない。

 だが、どうやらトランプゲームの文化はそこまで進歩していないようで、リューシャによると殆ど占いの類で使われるらしい。



「まず、カードを3人でシャッフルして、それを均等に皆で分ける。とりあえず分けましょうか」



 リョウは少し薄汚れたトランプを、持ち前の不器用さでぎこちなくシャッフルし、それらを一枚ずつ自分を含めた3人に分配した。

 獣舎の引手であるゴーシャは、フォートの体調管理に務めている為、トランプゲームには参加することは無い。



「で、分けたカードを1から順に伏せて置いていくんすよ……じゃあリューシャさん、1置いて下さい。絵柄は何でも大丈夫っす。数字だけ合ってれば」


「ま、まてリョウ。1が無かったらどうするんじゃ? パスするんかの?」



 少し慌てた表情でリューシャはリョウに問いかける。



「別の数字のカードを置いて下さい。それを相手に悟られないように」


「わ、わかった……で――」


「で、次がこのゲームの肝。相手が置いたカードが順番通りの数字じゃ無かったと思ったら、相手がカードを置いた段階で、他のプレーヤーは『ダウト』って言って下さい」


「言ったらどうなるんですか?」


「置いた数字を裏返す。置いたのがウソの数字だったら、ダウトを言われた人が今まで置いたカードを全部貰う。もし本当のカードだったら、ダウトって言った人が今までのカードを貰う。最終的に、一番誰が早く手札を0に出来るかってゲームっす」



 そこに様々な戦略があることは、各々にプレイを通じて知ってもらうのがリョウのスタンスだ。

 その方が楽しいし、何しろ自分が優位に立つことが出来る。

 リョウは、初心者に対しても容赦はしない。所謂大人げない人間だった。

 特に、ボードゲームにおいては。



「説明は以上っす……あっ、数字を忘れないように、出す時は順番の数字を言ってから置いて下さい。じゃ、リューシャさん」


「では……イチ!」


「ダウト」


「なっ!?」



 リョウからしてみれば、リューシャの言動から手札に1が入っていないことは解かっていた。

 そしてリョウは、ダウトのルールをおさらいする様にリューシャにダウト宣告をし、的中。

 だが――



「リョウ! 最初に数字を出す人間が変わっただけではないか! こんな事をして何の意味があるんじゃ!?」



 そうだ、手札をただ戻すだけ。ゲームにはリューシャが1を持っていないという情報が残るだけで、大きなゲームの変化は無い。

 だが、それはあくまで視覚的な話だ。



「……嘘だと解かってたから、遠慮なく言っただけっす。じゃあ、セティアちゃんから、数字は2からね」



 これはリョウの先制攻撃。

 自分がそれなりに出来るプレーヤーであることを2人に周知させる為の技だった。

 これはリョウが得意とする心理戦のテクニックの一つ。

 これを行うことにより、リョウが出すカードに対してダウトと言い難くさせる心理攻撃。

 そして、自分が都合よくゲーム展開を行う為。



「行きます……2!」


「3」



 そしてこれをされた人間は大抵――



「ダウト!」



 その仕返しをしてくる。

 これはその人物の性格によって変わるが、リョウはリューシャなら間違いなく1週目か2周目で言ってくると予測していた。

 リョウが伏せたのはもちろん、3だ。



「……っぐ」


「いやはや、予測通りっす」


「リョウさん、顔が怖いです」



 そして、その後は一巡すらしない短いダウトの言い合いが、リョウとリューシャ、時々セティアの間で行われた。

 だが、勝負は一向に終わらない。

 理由は間隔が短い故、カードがなかなか全員無くならないのだ。

 特にリョウは、周りよりも一回り大きい手札を揃えていた。



「このゲームの勝ち方のヒント、教えますわ」


「ヒント?」


「今のワシは誰も信じられん。信じられるのは己のみじゃ」



 ここでリョウはヒント、もといこのゲームで自分がより勝てる為のアドバイスを2人に行う。



「まぁまぁ、こうやって小刻みにダウトって言い合っても、なかなかカードは無くならないっすよ」


「じゃがリョウは最初に――」


「あれは自分が優位に立てるよう言っただけっす。セオリーは、自分が絶対ダウトだと思った数字を出した人に出来るだけ多くカードを渡せるタイミングで、ダウトを言うのが定石なんすよ」


「確かに……、これだとずっと終わらなそうですよね……」



 本来ダウトは大人数で行うもので、それを3人で行うのはカードの枚数がかなり多くなってしまう。

 それ故、相手が持っていないカードの数字を予想しやすく、ダウトを言える回数が多くなるのだ。

 であれば、相手が序盤で嘘のカードを出していると思っても、あえてダウトを言わず、カードが溜まったタイミングでダウトを言うのが得策。



「……わかった。1」


「2」


「3」


「4」


「5」


「6」



 そして数字は1巡を迎えようとしていた――



「本当に言わんのじゃな……13」


「言い出しっぺが速いタイミングで言うのも変かなと」


「じゃあ……1!」


「ダウト!」


「リューシャさん、それはあんまりです!」



 リューシャはおそらく1を3枚持っていたのだろう。

 なぜならリョウも1は持っていなかったからだ。

 消去法で、リューシャは2の時は絶対にダウトを言うことが出来た。満を持してのダウトによって、セティアのカードが一気に増える。



「仇は討つぜ、セティアちゃん」


「ガハハ! どこからでもかかって来るがよいわ!」



 そして、少しずつダウトの間隔が広がりながら勝負は続き、手札の枚数は以下のようになった。



 リョウ、8枚


 リューシャ、10枚


 セティア、15枚



 残りは全て、場に伏せてある偽りと真の混じったカード達。

 そしてリョウはこの時、必勝の手札を揃えていた。



「こっから全部、俺のカード嘘じゃないっすよ」


「なわけなかろう! 8枚もあると言うのに」


「絶対今嘘ついてます! ダウトです!」




 そして、



「6」


「ダウトじゃ!」


「ダウト!」



 セティアとリューシャがほぼ同時にリョウに対してダウトを言った。この時、リョウのカードは残り5枚。

 場にあるカードは文字通り大漁で、もしこれが嘘のカードであったならばリョウの敗北は免れなかっただろう。

 だが、リョウの出したカードは「6」。真のカード。



「リューシャさんが先にダウトって言ったんで、これ全部リューシャさんのっす」


「ぐ、ぐ、なんと……」


「まさか本当に全部本当のカードを出すんですか!?」


「それはお楽しみ」




 そしてリョウは全てのタイミングでダウトと言われたが、出したカードは有言通り、全て真のカードだった。



「上がり!」


「リョウにこんな特技があるとは……不器用の塊じゃと言うのに」


「でも……凄いですね、ババ抜きも大体1位になってますし」


「ババ抜きはまぁ、この人数なら割と勝てるかな」



 リョウはあえてダウトについての発言を避けた。

 なぜならリョウは、2人がダウトのルールを知らない故の、イカサマを行っていたからだ。

 リョウがそれを2人にネタ晴らししたのは、この日から3日後の事、その際にセティアとリューシャから口を聞かれなくなったのは言うまでもない。




「許して! ちゃんとしたルールでやるんで!!」


「……今日はご飯抜きです!」


「罰を受けるがよい!」



 リョウはこの日、異世界に来て初めてホームレス生活時の空腹を思い出していた。



「イカサマなんてするもんじゃねぇな……」


イカサマと言っても、一応ルール通りには行っています。


なぜリョウが勝てたのか気になる方は連絡ください。

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