第七話
ギルドを出て少しすると。
「なあ、あんた、ちょっといいかい?」
そう言って肩を叩かれたので、振り向いた。
「その猫の魔物、あんたのかい?」
2メートル程の背丈の猫の獣人がいた。
デカイ。
町を歩いている獣人を目にしていたので、背が高いことは分かっていたが、近くで見るとその迫力は凄いものがあった。
筋骨隆々のグレーの猫で、声から察するにどうやら女性らしい。
「おい、聞いているのか?」
まさか、異世界で声を掛けられるとは思いもしなかった。
いったい何の用だろう?
変な事はしていないと思うが……
「はい…… いったい何の用でしょう?」
「だから、さっきも聞いただろう。 その横に連れてる猫は、あんたの猫だろう?」
俺の連れてる、白い猫のことを聞いているらしい。
「いや、別に俺のって訳じゃあ……」
「じゃあ、なんで一緒にいるんだ?」
「えっと…… 一人で旅をするのが心細かったので……」
「ふーん…… 悪いとは思ったんだが、さっきギルドで、あんた達の会話を盗み聞きしてな。 あんたテイマーなんだろう? なら、どうしてまだ契約していないんだ?」
契約?
あっ、そういえばそんな話もしてったっけ。
契約の仕方を教えてもらうのを忘れていた。
「あの…… 契約の仕方が分かりません……」
「はあっ!? あんたテイマーなのにそんな事も知らないのかい?」
面目ない。
テイマーなら知っていて当たり前だよな……
てか知ってなきゃ駄目だろう。
もっとしっかりしなきゃな……
「アリーシャの奴、また説明するのを忘れたな?」
どうやら、アリーシャさんが忘れっぽいのはいつもの事らしい。
まぁ、そんな所が可愛いのだが。
「でも、あんたも冒険者ならそれくらい自分で聞きな。 そんな事だと、いつか命を落とすことになる。 もっと気を引き締めな」
「はい、ありがとうございます」
ごもっともである。
「で、契約する気はあるのかい?」
「こいつ次第ですね」
「ん? どういう事だい?」
「こいつが契約を嫌がるのなら、契約はしないって事です。 無理矢理にはしたくありません」
「あんた、見込みの有る奴だね。 テイマーに向いているかも知れないよ」
どうやら褒められた様だ。
「ありがとうございます」
「うん。 その気持ちを大事にしなよ。 どれ、ここは一つ、あたしがあんたに契約の仕方を教えてやるよ」
「えっ!? 本当ですか? ありがとうございます!」
「いいって事よ」
契約の仕方を教えてくれるらしい。
この人、結構いい人かもしれないな。
「じゃあよく聴くんだよ?」
「はいっ!」
「契約したい魔物に、お願いするんだ」
「えっ?」
「だから、お願いするんだよ。 お願いを。 下手に出る必要はないぞ? 言葉はなんでも構わない。 テイマーってのは、魔物に力を貸して貰うってのは聞いただろう?」
「はい」
「だから、もし魔物がお願いを拒んだら、契約は出来ないと思え」
「分かりました」
「中には、無理矢理に魔物と契約する奴もいるが、あれは見ていられない位に酷いんだ。 魔物の魂を無理矢理縛り付けているから魔物は長生きできないし、力を引き出してもその効果は薄い。 まるで道具のように扱って使い捨てるんだ」
そんな事をする奴も居るのか……
テイマーの風上にも置けないような奴等だな。
「酷いですね……」
「あぁ…… でも、お前なら大丈夫だろう。 さっきも自分で言ってたじゃあないか。 無理矢理は嫌だって。 だからあたしも、あんたに契約の仕方を教えたんだよ?」
「ありがとうございます」
「後ね、契約出来る魔物ってのは、何となく直感で分かるそうだよ。 どうやら、相性の良い者同士は、魂のどこかで繋がりってのが有るらしいんだ」
「なるほど…… 直感ですか……」
「その猫にお願いしてみたらどうだい? 力を貸してくれないかって」
そう言われて、俺は白い猫を見た。
猫もこっちを見ている。
なんとなくだが分かる。
一緒に来てくれそうだと。
俺に力を貸してくれそうだと。
「あぁそうだ、名前を付けるのも良いらしいよ」
「名前ですか?」
「あぁ、これから一緒に旅をするんだから、名前を付けたほうが良いだろう? それに、名前を付けることによって協力して戦う時に、魔物から借りる力が強くなるらしい。 魂の繋がりを強くするそうだ。 それに、少なからず魔物にも力が付くらしいよ。 一石二鳥だね」
「なるほど」
名前かぁ……
どんなのが良いだろう?
因みに、この白い猫は雄だ。
モフモフしている時に分かったのだが、玉が付いていた。
カッコいい名前を付けてやりたい。
あ、でもその前に。
「なぁ、お前に名前を付けたいと思うんだが…… いいかな?」
俺は猫にそう聞いてみた。
「にゃん♪」
どうやら大丈夫らしい。
「ありがとう。 じゃあお前の名前は、今日から虎徹だ!」
どうだろう、我ながら良いネーミングセンスをしていると思うのだが……
「にゃあ!」
驚いている。
カッコよくてビックリしているのだろう。
「にゃん♪」
どうやら気に入ってくれたらしい。
「名前を付けたなら、お願いしてみたらどうだい?」
「はい!」
虎徹にお願いしてみよう。
「なぁ虎徹、俺に力を貸してくれないか? お前の力が必要なんだ……」
そうお願いすると。
「にゃん!」
そう返事をしてくれた。
良いよと言ってくれている様な気がした。
俺の気持ちに応えてくれた。
すると、いきなり俺達の下に魔方陣の様な物が浮かび上がった。
「なんだ!?」
「にゃん?」
紅い光が俺達を包み込む。
暖かい。
悪い物ではないらしい。
おそらく、契約の時に発現するのだろう。
徐々に光が消えていった。
「よし、これで契約は完了だぞ。 おめでとう」
俺に、異世界初めての仲間が出来た。