第六話
「えっと、どういうことでしょうか。 これだけ、とは?」
不安になった俺は、そうお姉さんに聞いてみた。
「……」
お姉さんは黙ったままだ。
「あの…… お姉さん? 聞いてます?」
「あ、すいません。 ほとんどの方は、少なくても二つ以上は選択できる職業があるので…… 一つだけの人は始めて見ましたので……」
運が良いんだか悪いんだか分からなくなってきた。
テイマーか……
魔法使いは無いな……
ここに有る職業にしかなれないのだろうか。
「すいません、ここにある職業にしかなれないのでしょうか」
「はい。 そうなっています」
「じゃあ、魔法使いにはなれないんですか?」
「はい」
「そうですか……」
「あの、そう気を落とさないで下さい! テイマーもちゃんとした職業ですから!」
テイマーか。
魔物使いの事だよな?
俺には魔法の素質があるみたいなのだが……
テイマーでも魔法は使えるのだろうか?
「テイマーでも……魔法は使えるんですか?」
「はい! もちろんです! まぁ、魔法使いには劣りますがね……」
おお!
魔法自体は使えるらしい。
では、魔法使いとはいったい何が違うのだろう。
「魔法を使えるのに魔法使いではないのですか?」
「はい、魔法使いは魔法を得意とする物が選択する職業ですので」
「じゃあ、魔法を使うことの出来る人と魔法使いは、全然違うということですか?」
「はい、そういうことです。 失礼ですが……もしかして、職業がどういったものか御存じないのですか?」
「はい……すいません……分からないことだらけで……」
「いえっ、大丈夫ですよ! 分からないことがあったらいつでも聞いてください!」
「ありがとうございます」
「それでは、職業の説明をさせて頂きます」
お姉さんの説明を要約することにする。
各職業には、冒険者の得ることが出来る恩恵が有るらしい。
例えば、魔法使いなら魔法の効果が他の職業よりも高くなる。
剣士なら剣で攻撃した時に、攻撃力が上がったりする。
職業によって、その職業でしか取得出来ないスキルもあるらしい。
後は、職業によってステータスの上がり方も違う。
要約すると、こんな感じだった。
ちなみに、スキルには魔術や武術などがあるらしい。
スキルを取得するには、スキルポイントを割り振って取得する。
スキルポイントは、レベルが上がるときに貰えるそうだ。
当たり前だが、現在の俺のレベルは1だ。
「分かりやすい説明で助かりました。 ありがとうございます」
「喜んで頂いて何よりです」
「ところで……テイマーはどんな恩恵が受けられるのでしょう?」
「あぁ、それを説明するのを忘れていました。 テイマーはですね、契約している魔物が得意としている特殊魔法を、自分で使うことが出来るんですよ。 それと、契約している魔物と意思の疎通が出来たり、おおよその位置を把握したりも出来るらしいです」
「それって結構凄いんじゃないですか?」
「ええ! それこそがテイマーの強みなんです! それに、契約している魔物との好感度が上がれば、より強い特殊魔法を使える様になるんです!」
なるほど、万が一魔法が使えなくても、それで補えるな。
動物好きの俺にとって、テイマーは天職かもしれないぞ。
「しかし、ステータスのSTRやVITは他の職業に比べて上がりにくくなっています」
なるほど、魔物の力を借りている分、自分の力はあまり強くならないのか。
メリットも有れば当然デメリットも有るよな。
魔物と連携しながら戦ったりも出来ることを考えれば、メリットのほうが有る様に思える。
自分の力は、魔法で補う事にしよう。
「じゃあ、テイマーになります!」
「畏まりました。 では、冒険者ギルドのライセンスカードを発行しますので、少々お待ちください」
五分程してお姉さんは帰ってきた。
「お待たせ致しました。 こちらがライセンスカードと、登録した際にお渡しすることになっている2万ゴールドです。 ライセンスカードは、自分のステータスを確認したりスキルを取ったりも出来ます」
「ありがとうございます」
危ない、危ない。
異世界の楽しさに酔いしれて、お金の事をすっかり忘れてしまっていた。
お姉さんから渡された、青色のライセンスカードには、俺の名前と職業が記されていた。
ステータスなどは自分が念じると見えるようになるらしい。
結構便利だな。
それと……
冒険者ランク?
Gと記されている。
「あの、冒険者ランクとは、いったい何でしょう?」
おそらく、冒険者の階級の事だろうが一応聞いておく事にした。
「冒険者ランクとは、その冒険者の階級を表すものです。 階級はAからGまであります。 AからCまでは、A+やC-という様に+と-の二段階が有ります。 よりランクの高い方は、色々な許可を与えられます。 織部様は、まだ冒険者になったばかりですので、冒険者ランクは一番低いGランクです」
某ゲームでは、Gは一番高いんだけどな。
「なるほど。 ランクを上げるにはどうしたらいいのでしょう?」
「ランクを上げるには、冒険者ランクと同じ難易度の依頼を十回成功して頂くことになります。 Cのランクに上がる時からは、そのつど試験を受けて頂く事になります。 依頼には、魔物の討伐から家の掃除まで色々な物が有るので、自分にあった依頼を受けてくださいね。 依頼は、そちらに在る掲示板に張り出されます」
そう言ってお姉さんは、受付の右の方に在る掲示板を指差した。
まぁ、当分は生活に困らない程度に依頼をこなしていくことにしよう。
とりあえず今日のところは、宿屋で部屋を取ってゆっくり休みたいな。
初めての異世界で、結構疲れたからな。
「ありがとうございます。 登録はこれで終わりですか?」
「はい。 登録はこれで完了です」
「分かりました。 今日は宿屋で部屋を取りたいのですが、宿屋はどこに在りますか?」
「宿屋なら、ギルドを出てから真っ直ぐ歩いて、噴水の在る広場に出たらすぐ左手に在りますよ」
「ありがとうございます。 後、お姉さんのお名前も教えて頂けますか?」
「あっ! すいません、申し送れました。 私、冒険者ギルドサラノーラ支部受付の、アリーシャ・エウテルベと申します。 どうぞ宜しくお願いいたします。 皆さんからはアリーシャと呼ばれていますので、織部様も気軽にアリーシャと呼んで下さいね」
「はい、こちらこそ宜しくお願いします。 アリーシャさんも、僕のことは気軽に優って呼んで下さい」
「はい!」
そう言ってアリーシャさんは笑顔で返事をした。
とても気持ちのいい笑顔だ。
見ているだけで癒される。
この冒険者ギルドの看板娘と言ったところだろうか。
「それではまた明日」
「はい、またのお越しをお待ちしております」
ギルドを出て、俺は宿屋へ向かうことにした。