第五話
水晶玉の上に手を置くと、水晶玉が淡く光り始めた。
手の平に仄かな暖か味を感じる。
しばらくすると、その光は徐々に消えていった。
「はい、これで大丈夫ですので、もう手を離して頂いて結構ですよ」
受付のお姉さんがそう言ってので、俺は水晶玉から手を離した。
「それでは、ステータスを見てみましょう」
お姉さんは、水晶玉の下の方から紙を取り出した。
それにはこう写し出されていた。
MP(マジックポイント) 83
STR(攻撃力) 12
VIT(防御力) 13
AGI(素早さ) 27
DEX(命中率) 18
INT(知力) 78
MND(精神力) 30
LUK(幸運度) 80
お、なかなかいい感じなのではないか?
「結構凄いですよ! このステータス!」
「あの、数値の平均が分からないのですが、これはどうなのでしょう」
「そうですね、まずMPですが、低くはないですね、どちらかといえば高い方です。 冒険者に成りたての方の平均ですと、40位でしょうか」
「他の数値はどうですか?」
「STRとVIT、それにDEXは低いですね、とても低いです。 平均的には30くらいあるのですが……」
「そうなんですか……」
「AGIとMNDは平均位です。 でもINTとLUKはとても高いです。 冒険者に成りたての方で、これほど高い方は初めてです。 INTは、平均ですと大体20位なのですが、これほど高いのでしたら、魔術師になれると思います。 MPも低くはないですし」
魔術師か、なかなかいい職業ではないだろうか。
ファンタジー物ではお決まりだし、威力の高い魔法を出すのも魅力的ではないか。
「それで、LUKなのですが……」
どうしたのだろう、お姉さんはそこで口を閉ざしてしまった。
「あの、LUKがどうかしたのですか?」
「ああ、すいません、少し考え事をしてしまっていました。 LUKなのですが、いままで色々な冒険者のステータスを見てきましたが、こんな数値は見たことがありません。 デタラメな数値です」
LUKの数値が高いということは、俺は運が良いということだよな。
しかし、異世界に飛ばされてこれまで、別に運が良かったと思ったことは、あまり無かった様な気がする。
猫に会って森を出れたことは、まぁ運が良かったかもしれない。
しかし、その他はどちらかというと、そうでもない様な気がする。
というか、異世界に飛ばされた事は運が良かったと言えるのだろうか?
何も分からないままで異世界に飛ばされたのだ。
どうなのだろう?
でも、あのまま死んでいたかもしれないところを、こうしてまた生き返ることが出来たのだ。
運が良かったと言えるかもしれない。
世界には、人間にとって一番不幸な事は、この世に生まれた事だと言う人もいたように思う。
でも、その考えはあまりに悲しい、悲し過ぎると言えるだろう。
そうだ、俺は今からこの世界で、二度目の人生を生きていくのだ。
運が良かったと思おう。
そう思うべきだ。
「あの、考え事の途中ですいません。 LUKの平均的な数値のことなのですが……」
お姉さんの言葉で思い出した。
まだそのことを聞いていなかった。
「ああ、そうですね、一体どれはどなのでしょう?」
「実はですね、LUKは少し特殊なステータスでして。 レベルが上がっても、この数値だけは上がらないんです。 幸運度のステータスですので、生まれた時から既に数値が決まっているんです。 しかも、他のステータスと違い、%で示されるんです。 もうどういう事かお分かりですよね? あなたのLUKは非常に高いです。 羨ましい位に……」
それほどまでに高いのか、それは嬉しい事だ。
これからが楽しみだ。
「あまり他の方には言わない方がよろしいかもしれませんね」
そうお姉さんが言った。
たしかにそうかもしれない。
俺のLUK目当てに近づいてくる人間もいるかもしれないな。
最悪の場合は、何かの事件に巻き込まれることもあるかもしれない。
ん? でも運があるから事件に巻き込まれる様な事は無いのか?
よく分からんが、所詮ただ運があるということだけだろう。
あまり運に頼る様な事はしないでおこう。
「ご忠告ありがとうございます。 それで、この後はどうしたらいいんですか?」
「次はですね、職業を選択して頂きます。 ステータスから考慮して、貴方のなることの出来る職業が、こちらに幾つかございますので、その中から選んで頂きます」
そう言ってお姉さんは紙を捲った。
どんな職業になることが出来るのだろう。
さきほどお姉さんは、俺は魔法使いになれるかもしれないと言っていた。
楽しそうだな、魔法使い。
ワクワクしながら俺は紙を見た。
職業
テイマー
以上
「えっ…… 嘘…… これだけ?」
そう言って驚いたのは、俺ではなく、お姉さんだった。