第三話
草原に出た俺は、呆然と立ち尽くした。
衝撃的過ぎて、考えることが出来なかった。
「まじかよ……」
怖い、理解できない恐怖。
地球ではないことは明らかだ。
「まさか、天国とかか?」
おそらく、俺はあの時崖から落ちて死んだのだろう。
しかし、俺みたいな奴が天国に来れるのだろうか。
神なんて信じてなかったし。
そもそも俺は死んだら何も無くなるんだと思っていた。
意識が無くなり、それで終わりだと思っていた。
でもここが天国だとしたらそれはそれで嬉しいではないか。
「でも、天国じゃあないよなぁ……」
天国なら、さぞ綺麗な花々が草原一面に咲いていることだろう。
想像だけど。
「たぶん、異世界ってやつだよな……」
ネット小説で何度か読んだことがある。
剣と魔法の世界、いわゆるファンタジーというやつだ。
ドラゴンなどの魔物や魔王と戦って、可愛い女の子達とキャッキャウフフするやつだ。
うん、好きだよそういう話。
大好物だ。
まさに俺得。
でもそれとこれとは関係ない。
おそらく、ここは異世界なのだろう。
しかし、どういった異世界なのか分からないのだ。
剣や魔法があるのか、魔王なんて存在がいるのか。
もしかしたら、俺の他には人間すらもいないのかもしれない。
なにも分からないのだ。
俺一人だけだとしたら寂し過ぎる。
「にゃあ?」
そんな考えを巡らせていたので、すっかりこの猫の存在を忘れていた。
こいつは、俺を森の出口まで案内してくれたのだ。
そんな恩人、いや恩猫のことを忘れるなんて。
「ありがとな」
そう言って猫を撫でた。
まあこれで、俺だけではないことが分かった。
一人と一匹だ。
それでも寂しいことに変わりはないのだが、一人きりよりもましだろう。
「まずは情報収集だよな」
何も分からないままでは埒があかない。
そう思った俺は顔をあげた。
すると、いままで考え事をしていて気が付かなかったのだが、草原の向こうに何かが見える。
そこに向かうとしよう。
「なぁ、お前も一緒に行ってくれないか?」
怖かった、なにも分からないこの世界で一人きりでいるのが。
一人で向かうのはあまりに寂し過ぎると思った。
だから俺は、猫にそう聞いてみた。
「にゃあ!」
もちろん! といった風に答えてくれた気がした。
頼もしいではないか。
「じゃあ、向かうか」
「にゃん♪」
そう言って俺達は歩き出した。
少し歩くと、その何かは街だということが分かった。
「良かった、俺の他にも人間が居るのか」
街に近づいていくと、俺達の他にも街に向かっている人達が見えてきた。
馬車だ。
いわゆる商人といった人だろうか。
街に近づいて驚いたのだが、どうやら街は10メートルくらいの高い壁に囲まれているようだ。
「結構デカイな」
なんだかこういう壁を見ると、ファンタジーの世界に自分が入り込んでしまったように思えてきた。
というか、もうそうなのではないだろうか。
そうとしか思えない。
この異世界は、ファンタジーの世界に出てくる様な世界なのだろう。
そう思うと、段々楽しくなってきた。
「さっそく街に入ってみよう」
そう言って街に入ろうと思ったのだが、あることに気づいた。
街に入っていく人々は皆、カードの様な物を門番に見せているのだ。
身分証明書の様な物だろうか。
しかし俺はそんな者を持っていない。
というよりそもそも、言葉は通じるのだろうか。
言葉が通じなければ、意思の疎通が図れないではないか。
大体、こういうファンタジーの世界に飛ばされると、神様とかが出てきてチート級の能力やアイテムなんかをくれるのではないだろうか。
そして言葉が通じるものなのではないだろうか。
なのに、俺の前には神様も出てこないし、チート級の能力やアイテムも貰ってない。
ましてや、言葉が通じるかどうかも分からないのだ。
俺が神の存在を信じていないからか?
それにしたって、あまりにも分からないことが多すぎる。
少しくらいご都合主義でもいいものだろう。
いや、もう少し前向きに物事を考えることにしよう。
言葉が通じるかどうかを確認するのも、情報収集の一環だと思おう。
門番に話しかけてみよう!
「あの、すいません、街に入りたいのですが……」
「分かりました、身分を証明出来る物を提示して下さい」
ご都合主義だった。