表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/5

走るファイヴミニッツ4

『おい、早く来い!』

 寝ているところを電話で起こされ、若干イラつきながらも応対する。

「は? どこにだよ? 一体何があったんだよ?」

『学校に決まってんだろ。江川の授業、お前もう四回休んだだろ。今日来なかったらアウトだぞ!』

「……今日は木曜だろ?」

『バカ! 今日は月曜日課だ』

 その言葉を聞き、頭が一瞬にして冴え渡る。マズい。この単位を落としてしまったら、また一歩、卒業から遠ざかる。

「すぐ行く!」

『急げよ。後五分がリミットだ』

 通話を終える。

 既に布団からは飛び出していて、近くに置いてあった服を身につける。携帯電話と、少し財布を探してポケットに入れ、床に無造作に転がしていたバッグの中身を確認する。さすがにここで辞書も教科書も入っていなかったら、教室から追い出されてしまうかもしれない。……オッケー、大丈夫だ。鍵もかけず、靴も踵を踏んだまま部屋を後にした。

 アパートの階段の部分には屋根がなく、おそらくは昨夜の内に降ったのだろう、雪が積もっている。ここで滑って転んでしまっては、元も子もない。一段ずつしっかりと降りる。

 自転車に跨り、全力で漕ぐ。さすがに道路の雪は解けている。目の前の信号は青。しかし右折してくる車が見えた。ブレーキをかけ、余裕を持ってそれを見送る。気づいていなかったら、危うく撥ねられるところだった。

 ここからは下り坂、俺はペダルを漕ぐ足に力を込める。今日は絶対に、遅れてはいけない。今までの早起きが全て無駄になってしまう。昨夜も寒い中遅くまでバイトをしていて、その後帰ってから課題だって頑張った。休むわけにはいかない。

 道路に雪がないとは言え、凍ってしまっている箇所が見えた。スリップしないよう、それらを避けながら自転車を漕ぎ進める。途中でお婆さんが歩いているスレスレを追い越す。氷で滑っていたら、危ないところだった。

 大きい交差点の信号は青だった。先のことがあるから、辺りをきちんと見るが、車が来る様子はない。すべて広い道だから、急にやって来ることはないだろう。そのままペダルを漕ぐ。

 北門から大学に入る。自転車を停めて校舎に入り、階段を駈け昇る。携帯電話を見ると、タイムリミットはもうあとわずか。教室のある四階まで走る。

 四階の廊下の、一番奥。そこが次の授業の教室だ。もう江川は来ているだろう。しかし五分の遅刻なら許してくれる。一秒でも遅れるとアウトだが。あと数秒だ、さらに走る速度を上げる。

 だから左側の研究室から、誰かが扉を開けるのを、避けることができなかった。何の研究室かは知らないが、何回か見たことのある教授が出てこようとしたのだろう、運悪く俺の進路を阻んでしまった。

「あ、ゴメン。大丈夫かい?」

「はい。自分こそスイマセンでした」

 立ち止まって確認するが、痛む箇所はない。何かを落としたワケでもない。あまり怒られる気配もない。

「すいません、急いでるんで、失礼します」

 タイムロスになってしまった。あと何秒かなんて、確認している暇も惜しい。

 息切れを治めることもせず、教室の扉を開ける。

「はぁ、はぁ……すいません、お……遅れました……」

 教室のみんなが俺の方を見る。江川も。

「…………五分二秒の遅刻だな。帰れ」

「え、二秒……」

「帰れ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ