走るファイヴミニッツ3
『おい、早く来い!』
寝ているところを電話で起こされ、若干イラつきながらも応対する。
「は? どこにだよ? 一体何があったんだよ?」
『学校に決まってんだろ。江川の授業、お前もう四回休んだだろ。今日来なかったらアウトだぞ!』
「……今日は木曜だろ?」
『バカ! 今日は月曜日課だ』
その言葉を聞き、頭が一瞬にして冴え渡る。マズい。この単位を落としてしまったら、また一歩、卒業から遠ざかる。
「すぐ行く!」
『急げよ。後五分がリミットだ』
通話を終える。
既に布団からは飛び出していて、近くに置いてあった服を身につける。携帯電話をポケットに入れ、床に無造作に転がしていたバッグの中身を確認する。さすがにここで辞書も教科書も入っていなかったら、教室から追い出されてしまうかもしれない。……オッケー、大丈夫だ。鍵もかけず、靴も踵を踏んだまま部屋を後にした。
アパートの階段の部分には屋根がなく、おそらくは昨夜の内に降ったのだろう、雪が積もっている。ここで滑って転んでしまっては、元も子もない。一段ずつしっかりと降りる。
自転車に跨り、全力で漕ぐ。さすがに道路の雪は解けている。目の前の信号は青。しかし右折してくる車が見えた。ブレーキをかけ、余裕を持ってそれを見送る。気づいていなかったら、危うく撥ねられるところだった。
ここからは下り坂、俺はペダルを漕ぐ足に力を込める。今日は絶対に、遅れてはいけない。今までの早起きが全て無駄になってしまう。昨夜も寒い中遅くまでバイトをしていて、その後帰ってから課題だって頑張った。休むわけにはいかない。
道路に雪がないとは言え、凍ってしまっている箇所が見えた。スリップしないよう、それらを避けながら自転車を漕ぎ進める。途中でお婆さんが歩いているスレスレを追い越す。氷で滑っていたら、危ないところだった。
大きい交差点の信号は、ちょうど赤になった。青でもさっきは車がやってきたのだから、赤なら止まらないわけにはいかない。辺りを見回すが、車の来る様子はない。すべて広い道だから、急にやって来ることはないだろう。今は一分一秒を争う。罪悪感を持ちながらも、構わずに車輪を回した。
「はい、そこのキミ止まろうか」
どうして車の有無を確認した時点で気がつかなかったのだろう。信号を渡り切った先には、運悪く警官二人が待ち構えていた。これがドイツなら罰金ものだ。
「すいません、寝坊して急いでて……」
「気持ちは分からないでもないけど、だからって無視していいことにはならないからね。はい、名前は? 大学生? 住所はどこ? 防犯登録はしている?」
観念して、答え始めた。ああ、授業が始まる。




