走るファイヴミニッツ2
『おい、早く来い!』
寝ているところを電話で起こされ、若干イラつきながらも応対する。
「は? どこにだよ? 一体何があったんだよ?」
『学校に決まってんだろ。江川の授業、お前もう四回休んだだろ。今日来なかったらアウトだぞ!』
「……今日は木曜だろ?」
『バカ! 今日は月曜日課だ』
その言葉を聞き、頭が一瞬にして冴え渡る。マズい。この単位を落としてしまったら、また一歩、卒業から遠ざかる。
「すぐ行く!」
『急げよ。後五分がリミットだ』
通話を終える。
既に布団からは飛び出していて、近くに置いてあった服を身につける。携帯電話をポケットに入れ、床に無造作に転がしていたバッグを肩にかける。どうせ中身を出すことなんてない、辞書と教科書とノートは入っているはずだ。鍵もかけず、靴も踵を踏んだまま部屋を後にした。
アパートの階段の部分には屋根がなく、おそらくは昨夜の内に降ったのだろう、雪が積もっている。ここで滑って転んでしまっては、元も子もない。一段ずつしっかりと降りる。
自転車に跨り、全力で漕ぐ。さすがに道路の雪は解けている。目の前の信号は青。しかし右折してくる車が見えた。すんでのところでブレーキをかけ、それをぎりぎりで見送る。気づいていなかったら、危うく撥ねられるところだった。
ここからは下り坂、俺はペダルを漕ぐ足に、さらに力を込める。今は一分一秒を争う。今日は絶対に、遅れてはいけない。今までの早起きが全て無駄になってしまう。昨夜も寒い中遅くまでバイトをしていて、その後帰ってから課題だって頑張った。休むわけにはいかない。
それに気づくには遅かった。地面の一部が凍っていて、それで滑ってしまう。こうなってしまってはブレーキも無力、派手に自転車を倒し、転んでしまう。
自分が転ぶだけなら、まだよかった。痛さを感じるだけで済むから。しかし運悪く、俺が滑り転んでいった先には、お婆さんが歩いていた。衝突してしまい、お婆さんも地面に倒れこむ。
「すいません、大丈夫ですかっ!」
膝の痛みも気にせず、慌ててかけよる。
「……おぉ、う、腕が……」
見るからに腕が、関節のない部分で曲がってしまっている。誰がどう見ても骨折だ。
「ゴメンなさい、すぐ救急車呼びますからっ!」
左ポケットから携帯電話を取り出し、119にコール。この状況を見捨てて学校に行ける程、俺は冷酷ではない。




