表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゆりこめ ~呪いのような運命が俺とあの子の百合ラブコメを全力で推奨してくる~  作者: 緑茶わいん
四章 俺と彼女と神との契り

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

97/202

獣の身体

 気づけばお風呂の時間が迫っていたため、紗羅と華澄はいったん屋敷へ戻った。

 仮の姿である悠華に風呂は必要ないらしいので、俺は彼女と縁側で話をする。


「さあ、膝に乗るがよい」

『お、おう』


 促されるまま、悠華の膝に納まる。

 小さな女の子と狐が一匹。月明りの下、日本家屋の縁側で過ごす。絵面的にはとても風流だ。

 狐は猫よりは重たいはずだが、悠華に重量を苦にする様子はなかった。


「しかし、お主も案外平気そうじゃな」

『まあ、動物に変身する奴を何人か知ってるからな……』


 真夜や真昼のことを思えば、現象自体は珍しくもない。

 でも、もちろん戸惑いもある。食事とか、ああ、あとトイレはどうすればいいのか。

 ……その辺の砂場でしろと言われたら死にたくなるぞ。


「ああ、その心配はないぞ」

『へ?』

「お主の身体には男性器も女性器も付いていないからな」

『は?』


 慌てて、確認しようと身体をよじる。うまくできなかったので、悠華に抱えてもらって下腹部を見た。確かにつるつるしていてどっちも付いてない。


『それ、食事は大丈夫なのか?』

「消化能力が強くなるようにしてあるから、食べても排泄は必要ない。無理やりな処置ではあるが、まあ一日二日はもつじゃろう」


 それ、逆に言うと三日はもたないということじゃ?


「もし限界が来たらいったん戻してまた変身させてやるから安心するがいい」

『そこまでしますか』


 若干不安だが、とりあえず納得しておくしかない、か。

 なら、話を先に進めることにしよう。


『で、自力で元に戻るっていうのは……変身能力を身につけろってことか?』

「うむ、その通り」

『俺にそんなことできるのか?』

「できる」


 悠華の返答は力強いものだった。

 彼女の顔を見上げれば、そこには優しい微笑みがあった。母親が子を見守るような……あるいは人がペットに向けるような、慈愛の笑み。


「変身は素質がものを言うが、悠にはその素質がある。それに、今回は厳密に言えば変身ではない」

『へ?』

「変わるのではなく、変わった状態から元に戻るだけ。そう考えれば簡単じゃろう?」


 確かに。感覚的にはなんとなく理解できる。

 けれど問題は方法。それがわからないと難易度関係なくどうしようもない。


「方法は、これまでに少しでも『力』を使ったことがあるのなら、それと変わらぬ。イメージを形にする、それだけじゃ」


 イメージを形に。

 魔力で炎を生み出したり、指輪を通して紗羅と視界を共有した時と同じ。


『俺が元通りになるイメージを、魔力で実現すればいい?』

「うむ」


 話が早くて助かる、と悠華が頷いた。


『……なるほど』


 それなら納得だ。自分の身体のことは自分が一番よくわかるのだから、イメージも容易なはず。もちろん、全身に魔力を通す工程は鬼門となるだろうが。

 きっと、鬼ごっこでの経験が役に立ってくれるはず。


『とりあえず、やってみる』


 理屈はわかったので一度試してみたい。

 俺は悠華の膝を降りようと身体を起こし、


「いや、そのままでいいと思うぞ。簡単とは言ったが、さすがに一度では成功せん」

『む……』


 そう言われると成功させたくなるな。

 言われた通り、俺は悠華の膝の上に残ったまま意識を集中させていく。

 魔力を使うのは数日ぶりだが、方法は身体が覚えている。そこへ、鬼ごっこで掴んだ感覚を併せて。


 まずは感覚を内側へ。極力小さく、微細な魔力を感じ取っていく。

 十分に感じ取れたら、今度はそれらをゆっくり広げる。体内を満遍なく魔力で満たす。気を抜くとムラができたり、魔力がいきわたらない部分が出るので必死に調整。

 ……うん。

 いつになく調子が良かった。何度も繰り返すことなく、たった一回で魔力の操作に成功する。

 これならいけるんじゃないだろうか。


 魔力は満ちた。後はイメージに従って身体を変化させるだけ。

 俺は、脳内に「御尾悠人」の姿を思い浮かべ、変身を開始した。


『………』

「………」

『……あれ?』


 何も起こらなかった。

 いや、体内では変化があった。「ぽすん」とか気の抜けた音が聞こえてきそうな調子で魔力の解放に失敗し、集中が途切れる。

 操作していた魔力の一部は大気中に発散され、残りは身体に戻っていった。


「失敗、じゃな」


 言われるまでもなく、それはわかっている。

 でも、何故?


 *   *   *


「自分のことだから自分が一番わかる。今回の場合、それがまず間違いじゃ」


 解説は夕食の席で行われた。俺の置かれた状況をあらためて皆に説明したうえで問題点を指摘される。

 なお、狐になった俺を、皆は案外普通に受け入れてくれた。実在する神様に仕えている人たちはこの程度では動じないらしい。


「うわ、悠人。また可愛くなっちゃって……」

「本当に可愛らしいわね。毛並みもふわふわだし」

「悠人さん、よくお似合いですよー」

『お、おう』


 女性が多いこともあって撫で撫でもふもふ、やられ放題だった。ひとしきり皆から可愛がられたあとは紗羅に抱き上げられ、彼女の席の傍に座らされた。

 一人きりの男になってしまった華澄のお父さんはかなり寂しそうだった。


「悠人さんのお食事は、基本私たちと同じで大丈夫ですよね?」

「うむ」


 さすがにこの姿だと箸は使えないので、平らな皿に料理を纏めて盛ってもらった。そういえば、猫になった真昼もこんな風に食事をしてたっけ。

 あの時は単純に「可愛いな」と見ていたけど、自分がその立場になると少し恥ずかしい。あと、綺麗に犬食いするのも意外と難しい。

 ……服も着ずに、四つん這いで直に食事をするって。いや、考えない考えない。


『あれ? 自分の身体を変化させるのは比較的楽なんじゃないのか?』


 以前に紗羅から教わった話ではそうだったはず。抵抗もないし構造を把握しやすいから、性質変化が容易だと。


「うむ。それ自体は間違っていない。ただ、悠よ。お主は自分の姿をはっきりとイメージできるか?」

『いや、できないはずないだろ』


 何せ自分の身体なのだ、と俺は反射的に答える。

 すると悠華は顔色を変えずに再度問いかけてきた?


「本当か? 身体の細部まで、詳細に思い出せるのか? 背中は? 足の裏は? 耳たぶの形は?」


 そこまで言われてようやく、彼女の言いたいことがわかった。


『自分の身体だからこそ、しっかりとはわからないのか』

「そういうことじゃ」


 顔にしたって鏡でも見なければわからない。背中側に至っては写真でも撮らない限り見ることもできない。

 わかっているつもり、だからこそ、細部をイメージしようとするとぼやけていく。

 ……それじゃあ失敗するわけだ。

 戻りたい「自分の姿」を思い描けていなかったのだから。


「……ん? んー? あの、真夜さん。これって」

「ああ、気づいた? まあ、いいじゃない。とりあえず見守っておきましょう」


 そこで、凛々子さんと真夜の会話が耳に入るが、何のことだかわからなかった。

 じっと見つめてみても誤魔化すように微笑まれてしまい、教えて貰えそうになかったので気にするのを止めた。


『じゃあ、まずはイメージを固めるところからか』


 そのためには「御尾悠人」の姿を客観的に意識し直さなければならない。

 方法は……写真、かなあ。


『母さん。俺の写真ってないかな?』


 紗羅に通訳してもらいつつ尋ねると、家にはあるけどここにはない、とのことだった。


「それに、殆ど小さい頃ので、最近の写真はないと思うけど」

『あー、そうだよな……』


 大きくなってからは親に写真を撮られる機会なんてなかったし。


『紗羅……も、持ってないよな?』

「ごめんなさい、私もちょっと。悠奈ちゃんの写真ならいっぱいあるけど」


 言って、写真シールやら、スマホ内の画像データを見せてくれる。中には「いつの間に撮ったのか」というような写真もあったが、ちょっと今は役に立たない。

 すまなそうに眉を下げた紗羅だったが、すぐに首を傾げて。


「でも、御尾くんの姿を確認する方法ならあるよ」


 事もなげにそう告げたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ