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ゆりこめ ~呪いのような運命が俺とあの子の百合ラブコメを全力で推奨してくる~  作者: 緑茶わいん
四章 俺と彼女と神との契り

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喪失の原因

「あの、変な意味じゃないですよね?」

「はい、もちろんですー」


 微妙に緊張して尋ねてみれば、あっさりとした返事。

 それきり凛々子さんは赤面を消し、畳の上に足を崩して座った。


「私が試したいのは、催眠術の応用ですー」

「だんだん眠くなって、質問に素直に答えてしまう、みたいなやつですか?」

「はいー。ただし、催眠術は抵抗の意思があると効きづらくなりますのでー」

「……なるほど」


 だから身体と心を委ねる必要がある、と。


「催眠術って、その、危険だったりとかは?」

「催眠は万能ではありませんから、洗脳とか、心を壊すようなことは基本的にできませんー。もしできても、そんなことをすれば華澄さんやご家族がすぐに気づくでしょう」


 ついでに、華澄や母さんからの了解も取ってあるという。


「一応、確認取ってみていいですか?」

「はい、もちろんですー」


 凛々子さんのスマホを借りて母さんと話すと、確かに許可を出したらしかった。危険がないなら何でも試してみた方がいいだろう、とのこと。

 確かに、それはその通りだ。

 通話を切った俺は凛々子さんにスマホを返し、深呼吸をして気持ちを落ち着けた。

 恐怖はやはりある。

 けど、せっかく示された道を無視するのも違う気がする。


「わかりました。お願いします」

「了解しましたー。では、こちらにどうぞ」


 ぽんぽん、と膝を叩く仕草。

 ……膝枕、今日だけで二度目だな。

 凛々子さんの膝は華澄のものよりも柔軟性に飛んでいた。沈み込んだまま安定する感じ。


「では、始めますねー」


 *   *   *


 まずはゆっくりと深呼吸をさせられた。

 緩慢なリズムに身体が慣れるのと並行して、凛々子さんの声が頭上から優しく耳に響いていく。


「私の、声だけを聞いてくださいね……」


 意識が落ちていく。

 自然と瞼が閉じて、部屋の明かりも気にならなくなる。

 深く、深く、暗闇に沈む。


「あなたは今、あなた自身の記憶の中にいます」


 俺はいつの間にか、長い道の上に立っていた。

 長い一本道。その途中にはいくつもの扉がある。きっとこの扉のひとつひとつが、俺の記憶に繋がっているだろう。


「試しに、一番近い物を開けてみましょうか」


 声に従い、すぐ傍にあった扉を開く。すると今日の出来事が鮮明に蘇った。

 華澄と散歩をして、ご神体を見せてもらって、羽々音さんたちと会って……。


「では、歩き出しましょう。一つの扉を一日として、五つ目の扉で止まってください」


 ゆっくりと歩く。

 感覚的には前に進んでいるが、記憶の時間としては戻ることになるわけか。

 二つ目、三つ目、四つ目……五つ目。

 立ち止まって扉を振り返ると、その扉は金属製のプレートで頑丈に打ち付けられ、更にはチェーンと錠前で施錠されていた。


「……そう、ですか。その封印を、壊すことはできませんか? そこはあなたの世界、あなたが望めば、扉を開くための道具は何だって用意できるはずです」


 言われて、俺は道具を思い浮かべる。すると望んだ道具が手の中に現れる。それらを使い、俺は封印の破壊にかかった。


 鋸を手に取り封印の破壊を試みたが、びくともしなかった。

 チェーンソーに持ち替えてみても結果は同じだった。

 扉ごと壊そうとハンマーを持ち出したが、びくともしない。

 業を煮やして爆弾で吹き飛ばしても、傷一つ付かなかった。

 ならば発想の転換だと、いくつも形の異なる鍵を思い浮かべてみたが、錠前に合うものは見つからなかった。


「……もう一つ隣、六日前の扉はどうでしょうか」


 隣の扉も同じだった。

 もう一つ隣も、さらに隣も。記憶が欠落している範囲の扉は、全て封印されていた。

 結局、何をやってもそれらを開く術は見つからなかった。


 *   *   *


「駄目、でしたねー」


 俺の催眠術を解いた凛々子さんが、はあ、とため息をついた。口調こそあまり変わらないものの、表情はそこはかとなく残念そうだ。

 一方の俺は、拍子抜けしたようなほっとしたような、微妙な気持ち。

 凛々子さんの膝を離れて彼女と向き合いつつ、努めて明るい声で言う。


「いや、でも扉はあったんですよね。だったら、思い出す方法もあるってことだし」

「そう、それですー」


 同意の首肯。


「悠人さんの記憶が『消されている』のではなく『封印されている』とわかっただけ収穫でした。まあ、消したうえで封印している、という可能性はなきにしもあらずですがー」

「なんか、その言い方だと意図的に記憶が消されたみたいですね」

「ええ、これは人為的なものですよ。やったのは人じゃありませんがー」

「それってたとえば、妖怪とか?」

「似たようなものですねー。悪魔です」


 ……マジで?


「……では、仕方ありませんー。奥の手を使いましょう」

「まだ方法があるんですか?」

「はいー。悠人さんの記憶を封印した相手に、直接解いてもらいましょう」


 それから凛々子さんは俺を連れて、離れの洋間へ移動した。そこは彼女と羽々音さんが宛がわれた部屋で、中では華澄と羽々音さんが待っていた。


「では、お庭へ参りましょうー」


 今度は二人を連れて中庭に出る。


「悠人さん。真夜、という名前を……そうですね、三十回くらい言っていただけますか? それで彼女が現れると思いますのでー」

「わ、わかりました」


 マヤ、か。どんな字を書くのかわからないが。


「マヤ、マヤ、マヤ、マヤマヤマヤマヤマヤ……」


 ええと、今何回言ったっけ。

 っていうかこれ、傍から見ると馬鹿っぽくないか?

 ……と。


「ああもう、うるさいわね」


 ちりん、と。

 小さな鈴の音が夜の空気を震わせた。

 くすり、と凛々子さんが笑みをこぼし、呟く。


「私たちが呼んでも出てきてくれないからいけないんですよー」

「別に私は便利屋じゃないし。まあ、契約相手に呼ばれちゃ出てこないわけにはいかないけど」


 一瞬、どこから声がしているのかわからなかったが、しばらくして気づいた。

 声の主は足元、地面を四足で歩く黒猫だ。


「猫が喋ってる……」

「見た目は猫だけど、悪魔だもの。言葉くらい話すわよ」


 言って、黒猫は辺りに首を巡らせる。「また変なのが増えてるわね」と呟くと、俺の足をちょいちょいと撫でてくる。抱き上げろってことか?

 正直、喋る猫とか若干躊躇するけど……。


「ほら」


 胸のあたりで抱えてやる。なかなか抱き心地は良かった。


「あんまり気持ちよくないわね」

「いや、じゃあ降りろよ」

「まあそれはともかく。用件は何?」


 視線を向けられた凛々子さんがそれに答えた。


「悠人さん……悠奈さんの記憶を封印したのは、あなたですね?」

「そうよ」


 あっさりと返事があった。


「何故ですか?」


 再度尋ねる声は、先程よりも幾分か冷ややかだった。羽々音さんや華澄も若干、緊張した面持ちで様子を見守っている。

 対する黒猫は世間話でもするような気軽さで。


「俺を元に戻してくれ、って頼まれたから、記憶を含めて元通りにしただけの話。交通事故に遭う前の状態に戻せばいいのかって確認したけど、それでいいって言われたわよ?」


 記憶を完全に消すのは骨が折れるから封印するだけにしたけど、と。


「でも、あなたやお嬢様との契約はそのままだったんですね?」

「契約を解除するには他者にも影響を及ぼす必要があるもの。あの子個人の状態を変更する願いでそこまで介入したら、願いの範囲を逸脱する」

「……なるほど」


 マヤの説明を聞いた凛々子さんが深く頷いた。


「私たちも含め、不注意が原因のようですねー」

「……約束を破って悠奈ちゃんに手を出したなら、絶対に許さなかったけど。安心しちゃってた私も悪かったんだね」


 羽々音さんもまた深いため息をついて眉を下げる。

 ……ええと、完全には話が見えないけど。


「つまり、だいたい俺のミスが原因ってことですか?」

「ええ」

「はいー」

「うん」

「はい」


 異口同音に頷かれた。

 っていうか、華澄にまで言われるとさすがにへこむ……。


「まあ、そういうことなら、手っ取り早く戻していただきましょうかー」

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