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ゆりこめ ~呪いのような運命が俺とあの子の百合ラブコメを全力で推奨してくる~  作者: 緑茶わいん
四章 俺と彼女と神との契り

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ぎこちない再会

 何もかもわからないことだらけだった。

 何故、羽々音さんが突然この場に現れたのか。何故、華澄は羽々音さんたちの来訪に気づいたのか。『悠奈ちゃん』とは誰なのか。俺の失われた記憶は、いったいどういうものだったのか。

 それがわからないことには、泣きじゃくる羽々音さんにかける言葉も見つからない。

 と――。


「……悠人様」


 華澄の手が俺の右手をそっと包んだ。

 羽々音さんにはもう一人の女性が歩み寄り、彼女の肩を優しく抱く。

 どこか羽々音さんに似た、夜の海のような瞳が俺を見る。


「御尾悠人さん、ですよねー?」

「え。……はい、そうです」


 語尾を伸ばす話し方に警戒心がふっと薄れる。この人の方は、少なくとも落ち着いて話をしてくれそうだ。

 女性は凛々子、と下の名前だけを名乗った。


「お嬢様の身の回りのお世話をさせていただいておりますー」


 それから彼女はにっこり笑って、


「許されるのでしたら、頬を張って罵らせていただきたいところなのですがー」

「え」

「ひとまず、お話をさせていただけると幸いです」


 俺と、隣にいる華澄を見つめながらそう告げた。


 *   *   *


 四人で、本殿の端に並ぶように腰かけた。この境内にはベンチも何もなく、石段へ直に座るよりは幾分かマシだろうという判断だ。

 羽々音さんの涙は十分ほどで止まった。

 気分も幾分か落ち着いた様子だが、代わりに話をする気力を失ったように俯いてしまっている。


「できれば、驚かずに聞いてくださいねー」


 凛々子と名乗った女性はそんな前置きのあと話を始めた。


 俺は十一月の初め――羽々音さんに振られたあの日に交通事故に遭い、女の子になってしまった。その後、羽々音家に保護された俺は、家に戻せば大騒ぎになるという判断から『羽々音悠奈』という名前で生活していた。

 色々あってついこの前、元の身体に戻る算段がつき、俺と羽々音家の面々と別れた。


「我が家での生活の間、お嬢様と悠奈さん……悠人さんは恋仲でした。ですから、元に戻った後も再会の約束をされていたのですがー……」


 どういうわけか、俺は約束の日時に姿を見せなかった。

 羽々音さんとその家族は理由を知るため、俺の所在を必死に探し回り、ここまで追いかけてきたらしい。


「その結果、悠人さんが私たちとの記憶を失っていることがわかりました。悪意があってお嬢様を蔑ろにしたのではないとわかっただけ、幸いではありますがー……」


 凛々子さんが羽々音さんに視線を向ける。

 羽々音さんの髪は先ほどの騒ぎで乱れ、瞳はより赤く腫れあがっていた。それでも彼女の美しさは変わらないけれど――。


「……すみません。ちょっと信じられません」


 俺が女になって、しかも羽々音さんと恋人同士だったなんて。

 さすがに荒唐無稽すぎて頭からは信じられない。だからこそ嘘ならもっとつくだろう、とも思うが。

 それに――羽々音さんがあんな風に取り乱す所は初めて見た。

 あれが演技だったなどとは思えないし、思いたくもない。


「……そうですねー。当然だと思います」


 凛々子さんも怒りだしたりはしなかった。ただ小さくため息をついて眉を下げ、困ったような、寂しそうな表情を作る。


「あの」


 そこで華澄が口を開いた。遠慮がちに、しかし言葉を詰まらせることなく凛々子さんたちに問いかける。


「お二人は、これから悠人様をどうなさるおつもりですか?」


 ぴくりと、羽々音さんの肩が動いた。


「悠人様の記憶を戻す手段を講じる? それとも……悠人様ともう一度、恋人同士に?」


 顔が上がる。

 両端に腰かけた少女たちが、俺越しに視線を触れ合わせる。


「もしそうなのでしたら、華澄は反対です」


 右耳に華澄の吐息がかかった。

 小さい頃に会ったきり、つい先日再会したばかりの少女。けれどこの数日で仲良くなって、心も通じ合えたと思う。


「反対、って?」

「華澄は、悠人様をお慕いしております。この方となら将来を歩んでいける、と。ですから、悠人様と交際してほしくはありません」


 ……さっき、何も起きなければ俺は、この子と。


「駄目」


 底冷えのする声が左側から聞こえた。

 羽々音さんが、華澄を睨みつけている。


「御尾くんは、御尾くんだけは絶対駄目」


 ずっと好きだった女の子。

 好きで、でも手の届かなった女の子。

 あの羽々音さんが、俺のことをそんな風に。


 やっぱり、本当なのか。

 凛々子さんの話、全部が全部じゃないにしろ、少なくとも羽々音さんの気持ちは。

 ……でも。


「羽々音さん」

「……うん」


 羽々音さんの視線が俺に向けられる。すると、途端に瞳の中の色が変わっていく。熱っぽく、そして艶っぽく。

 ぞくぞくする。

 はぁ、と俺は息を吐いて。


「ごめん」

「……え?」

「俺は今、華澄に惹かれてる。この二か月の記憶もやっぱり思い出せない。だから、華澄の気持ちを裏切りたくないと思ってる」

「え……?」


 目を見開いた羽々音さんは、地面へ降りると俺の正面へ回り込んできた。そのまま勢いよく俺の左手を掴んで、


「やだ!」


 嫌々をするように首を振った。


「駄目、絶対駄目。そんなこと言われたら、私」


 再び彼女の瞳が俺を貫く。くらり、と頭に霞がかかる。

 周囲の音がシャットアウトされ、羽々音さんの声だけが大きく聞こえる。


「御尾くん、私ね、私」

「はい、そこまでですー」


 はっと我に返る。

 ……なんだ、今の?

 困惑していると、いつの間にか華澄に右手を握られていることに気づく。すると両手ともが塞がっていることになるわけで。

 ええと。どうしてこうなった?


「華澄さん、でよろしいですかー?」

「はい」


 凛々子さんの声に華澄が頷く。すると凛々子さんは困り顔を作って、


「実は私たち、衝動的に出てきたので宿を決めていないんです。よろしければ、お部屋をお貸しいただくことはできないでしょうか?」

「それは……」


 華澄が羽々音さんに目をやる。

 凛々子さんがにっこり笑って頷いた。


「はい。もう少し、お嬢様にもチャンスをいただけないかとー」


 その声に、両手を包む少女たちの力が強くなった。


 *   *   *


 結局、華澄は凛々子さんの頼みを了承した。

 とはいえ宿泊となれば家人の了解も必要なので、華澄は一足先に屋敷まで戻ることになった。すると、そこへ凛々子さんが同行を申し出た。


「お願いする立場の者が顔を出さないというのも不作法ですからー」


 というわけで。

 俺は羽々音さんと二人、境内へと残される。

 別れ際、華澄から「悠人様、大丈夫ですよね?」と小さく囁かれた。それには微笑んで頷いたものの、実は少々、不安だったり。

 何しろ、今の羽々音さんは平静じゃない。


「じゃあ、ゆっくり戻ろっか?」


 しかし、華澄たちと別れてから数分、羽々音さんは何も言わなかった。俺の隣に座りなおすと、手を繋いだまま黙っていた。


「……そうだね、そうしようか」


 二人で本殿から降りると、ゆっくり歩き出した。その間も羽々音さんは手を離してはくれない。離そうとすると不安そうな顔をするのだ。


「御尾くんは、華澄さんとキスしたの?」

「なっ」


 石段にさしかかろうというタイミングで突然聞かれた。幸い、バランスを崩して転ぶようなことはなかったが。


「私は、したよ。悠奈ちゃんと、何回も」

「悠奈って、俺、なんだよね? 女の子になった」


 尋ね返すと、「うん」という短い返事。

 羽々音さんはゆっくり石段を下りながら、遠い空を見上げる。


「目はちょっとだけ横に長くて、でも怖くはなくて優しい感じ。髪の毛はふわふわで、動物の尻尾みたい。唇も綺麗な色で、触ると弾力があって――」

「……聞いてると、どこかの美少女にしか思えないけど」

「そう。可愛かったんだよ、とっても」


 楽しそうな表情だった。

 そういえば、羽々音さんがこんなに親しげに話してくれるのも初めてか。

 彼女との二か月。

 俺は、どうして忘れてしまったのだろうか。


「でも……悠奈ちゃんはもういないんだよね……」


 羽々音さんの呟きに、俺は何も言えなかった。

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