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ゆりこめ ~呪いのような運命が俺とあの子の百合ラブコメを全力で推奨してくる~  作者: 緑茶わいん
四章 俺と彼女と神との契り

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83/202

帰郷

 翌日。俺たちは午前中に出発した。数日分の荷物が入った鞄を持って、まずは電車で東京駅まで移動する。


「華澄の荷物はそれだけ?」

「はい。こちらへは一泊だけの予定でしたから」

「じゃあ、良かったらそれも持つよ」

「ありがとうございます、悠人様。では、お願いいたします」


 男に持たれるのは嫌かとも思ったが、華澄は微笑んで俺に荷物を預けてくれた。

 東京駅からは何本か電車を乗り継ぎ、延々と揺られる。そのうちに周囲の景色は少しずつ変わり、畑や田んぼ、古めかしい屋根が増えていく。


「あー、なんか覚えがあるな、この感じ」

「前に来たとき、悠人は殆ど寝てたけどね」


 母さんの返答を聞いた華澄がくすりと笑った。


「ここですね」


 道中は天気や通り過ぎた景色など、他愛ない話をして過ごした。後はまあ、それこそ仮眠を取ったりとか。

 昼食を駅弁で済ませ、更に電車に揺られてようやく辿り着いたのは小さな駅。駅舎は無人ではないものの、あくまで必要最低限といった佇まい。


 駅舎を出れば、絵に描いたような田舎町が視界に広がった。

 がらんとした駅前ロータリー、ちょっと距離を離したところには小さな商店街、視線を上げれば割と近くに山の緑も見える。そして、ところどころに積もる雪。

 見覚えは、やっぱりあるようなないような。


「この街に、母さんの実家があるのか」

「うん。ここから三十分くらいのところにね」


 ……なんですと?


「それは、歩いてってこと?」

「そうよ」


 なんという。道のりは想像以上にハードだった。


「もしお辛いようでしたら、車を出しますが」

「いや、いいよ。せっかくだし歩こう」


 母さんたちはそのつもりだったみたいだし。と、俺は気を取り直し、二人分の荷物を抱えた。

 そこからは散発的に立つ家々や田畑を横目にしつつ、ひたすら歩く。

 時折町の人ともすれ違うが、多くの人が華澄に声をかけてくる。田舎なので、皆けっこう知り合いだったりするらしい。中には母さんの顔を覚えている人もいた。

 なるほどな、と感心していると「もしかして悠人くん?」などと言われたり。俺の名前まで覚えてるのか、凄いな。


 歩くうち、風景はいよいよのどかになっていった。道もコンクリートではなく土の地面に変わり、気づけばだいぶ山の傍まで近づいている。


「あそこです」


 さすがに疲れてきた頃、ようやく華澄が到着を告げた。

 示された先には、聞いていた通り大きな日本家屋があった。周囲は低い塀に囲まれて、門をくぐるとちょっとした前庭がある。その先には引き戸の玄関があった。

 前庭は直接、中庭にも繋がっているらしく、そちらには庭木や池も見える。ちょっと不用心な気もするが、そこは田舎。泥棒などそうそう入らないのだろう。

 そういや表札は、と少し戻ってみれば、きちんと「御尾」と掲げられていた。


「何やってるの?」

「いや、母さんってお嬢様だったんだな、と」

「お嬢様って。ただ家が立派だってだけよ」


 大したことじゃない、と母さんは肩をすくめる。俺からすると、この屋敷はかなり金持ち感があるのだが。


「我が家は屋敷こそ維持していますが、基本的には質素を旨としていますから。悠人様が思っているほど贅沢な暮らしではないと思いますよ」

「なるほど」


 華澄がそう言うならそうなのだろう。

 玄関まで移動した後、華澄が引き戸を開ける。「ただいま戻りました」と中へ声をかけると、程なくして中から人が現れる。どこか母さんに似た雰囲気をした中年の女性。

 彼女は俺と母さんを見ると、にっこりと笑った。


「お帰りなさい、姉さん。それからいらっしゃい、悠人君」

「……ん」


 やっぱり、この人が華澄のお母さんか。

 曖昧な返事をして微笑む母さんの横で、俺はぺこりと頭を下げた。


「私たちはどこに泊まればいい?」

「離れを用意してあるわ。そっちの方が過ごしやすいでしょう」

「私の部屋は?」

「そっちも使えるようにはなってる」

「ありがとう」


 短い会話で必要な情報は伝え終わったらしい。母さんは俺を促してつつ玄関から外へ出た。何やら華澄も一緒に付いてくる。


「離れって?」

「中庭を挟んだ先にある建物です。あちらは比較的、現代的な造りになっています。華澄の部屋もそちらにあるんですよ」

「大掛かりな改装はできるだけ離れで、って方針なのよ。だから悠人とか、華澄ちゃんなんかはそっちの方が過ごしやすいでしょ」


 説明を聞きつつ中庭を歩いていくと、庭木の向こうに小さな建物が見えた。まあ、小さいと言っても、ちょっとした一件家くらいはあるのだが。


「それじゃあ、華澄ちゃん。悠人を案内してあげてくれる?」

「はい、伯母様」

「って、母さんは?」

「せっかくだし、私は自分の部屋を使うわ」


 母さんの部屋は屋敷の側にあるらしい。

 荷物を持って来た道を戻っていく母さんを華澄と二人で見送った。

 ……ん? 二人?


「あのさ、華澄。この離れに住んでるのって」

「今は華澄だけですね」


 ってことは、華澄と二人きり?

 まさか母さんはこれを狙ったのかと振り返るも、彼女の姿は既に無かった。


「では、ご案内いたしますね」

「あ、うん」


 離れの内装は、和風ではあるものの割と新しい感じがあった。これが改装の成果なのだろう。

 歩きながら和室と洋室どちらがいいか、と聞かれたので、和室と答える。


「悠人様は洋室の方がお好みかと思いました」

「和風のものって結構好きなんだよ。母さんの趣味と……あとは、もしかしたらこの家のイメージがどこかに残ってたのかも」


 そう言うと、華澄がかすかに微笑んだ。


「でしたら、このお部屋をどうぞ」


 両手ですっと障子を開けて示されたのは、畳敷きの部屋。ちょっとした旅館の一室くらいはあるだろうか。室内には箪笥や折り畳み式のテーブル、エアコンなどが用意されている。数日過ごすくらいなら十分すぎる設備だ。


「華澄の部屋は隣ですので、もし何かありましたらお申しつけください」

「わかった。ありがとう、華澄」


 笑顔を返して頷くと、華澄は入ってきたのと別の障子から隣の部屋に消えていく。どうやら彼女の部屋とはそこで繋がっているらしい。

 ……うん、嵌められたな、これ。俺に不利益が全くないあたり、文句の言いようもないが。


 程なくして、華澄が着替えを始めたのだろう。しゅるしゅると衣擦れの音が聞こえてくるのを、俺はなるべく聞かないよう、意識しないように努めたのだった。


 *   *   *


 移動に時間を取られたせいで、のんびりしているとすぐ夕方になった。

 風呂をいただいた後、屋敷の広間で夕食をいただく。服は華澄が浴衣を用意してくれたので、ありがたくそれを着させて貰っている。

 御尾家――母さんの実家は華澄とその両親、それから祖母の四人暮らしらしい。俺にとっても祖父にあたる人物は既に亡くなっているとのこと。

 皆、碌に面識もない俺を暖かく迎え入れてくれた。


「ほら、悠人君。君も飲みなさい」

「いや、俺、まだ未成年なので」

「そんな事、家の中で気にせずともよろしい。私の若い頃は皆、普通に飲んでおった」


 華澄のお父さん――眼鏡をかけた細い好中年からビールを差し出され、やんわりと辞退すれば、最年長である華澄の祖母が平然と法律違反を薦めてくる。いやまあ、俺も甘酒くらいは飲んだことあるけど。

 母親勢に視線で助けを求めてみるも、彼女たちは傍観の構えだった。


「普段、うちは女ばかりですから。男性と話せるのが嬉しいんだと思いますよ」

「いいんじゃない? 年末年始だし、羽目を外しすぎなければ」


 駄目だ、この人たち。っていうか華澄ですら止めに入らず微笑んでるし。

 とまあ、そんな風にして、帰郷初日の夜は更けていった。

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