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ゆりこめ ~呪いのような運命が俺とあの子の百合ラブコメを全力で推奨してくる~  作者: 緑茶わいん
四章 俺と彼女と神との契り

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プロローグ

 軽く勢いをつけて腰を預けると、ベッドがぎしりと小さく軋んだ。

 はあ、とため息を吐いて自室を見渡す。家具の配置などに変化はないものの、本棚や机の上には薄く埃が積もっている。

 やや長期間、そう、数か月は使われていなかったことを証明するように。


「……十二月二十五日、かぁ」


 ぼんやりと呟く。

 現在の時刻は午前十時過ぎ。帰宅からは既に数時間が経っている。


 あのあと、母さんはひどく動揺した様子のまま俺を家に迎え入れた。

 そこからは父さんも交えての状況説明。なんでも二人によれば、俺は二か月近く前に交通事故で死んだはずだという。

 状態が悪いのを理由に死体は見せてもらえなかったが、事故現場には通学鞄のほか、スマホや財布など、俺の所持品が残されていたらしい。

 けれど正直、言われた内容について実感はなかった。


「だって、俺、こうやって生きてるし」


 しかし、腑に落ちる部分もあった。

 まず、俺にはここ二か月程の記憶がない。必死に思い出そうとしてみても成果はなく、思い出せた最新の記憶は十一月の初め、二学期中間テスト最終日のものだった。

 その日付は、俺が事故に遭った日と完全に一致する。


 だから、両親の言葉を頭から否定することもできない。

 そして父さんたちもまた、俺が生きていた喜びより何がどうなっているのかという不安が強い様子だった。無理もない。もしかしたら、何かヤバい事件に巻き込まれているのかもしれないのだ。

 そもそも、目の前にいる息子は本物なのか、と疑っても何もおかしくない。一応、色々話して、少なくとも記憶は偽物じゃないと信じて貰えたっぽいけど。


「何なんだろうな、これ……」


 真実はわからない。

 実は俺は悪の組織に改造を受けているとか、どこかの異世界を救って帰ってきたのだとか、そういう妄想ならいくらでも浮かぶが。

 ……まあ、とりあえず生きてることを喜んでおくしかないだろうか。


「高校も終わってるみたいだしなぁ……」


 通学の必要もないとなると手持無沙汰だ。

 まあ、もし授業があっても、死んだことになってた奴がしれっと登校したらまずいだろうけど。というか、この場合って元の学校に入学し直せるものなのだろうか。

 ああでも、その前に警察とかで根掘り葉掘り聞かれるんだろうなあ……。

 なんか、物凄く面倒臭そう。


「はぁ……」


 俺は再びため息をつくと、ベッドへ横になった。

 とりあえず、何も考えずに寝てしまおう。

 目を閉じて呼吸を整えると、使い慣れたベッドのおかげかすぐに睡魔がやってきて、俺は眠りへと落ちていった。


 *   *   *


 起きるともう夕方だった。

 眠ったことで憂鬱な気分も和らいだ。きっと、しばらく騒ぎになるのを我慢すればすぐ元の生活に戻れるだろう。たぶん。

 俺はベッドを下りると軽く伸びをし、部屋のカーテンを閉じてから居間へ向かった。


「ああ、悠人」


 居間のテーブルでは、母さんが誰かと向かい合って話をしていた。

 会話を中断してこちらを振り返った彼女に軽く問いかける。


「あれ、お客さん?」

「うん」


 向かいに目を向けると、座っていたのは女の子だった。

 前髪は綺麗に切り揃えられ、サイドには細い二本の三つ編み。後ろ髪は肩口を越えて伸びている。顔立ちはかなり整っていて、細い身体に落ち着いた色合いの着物を纏っていた。

 静かな瞳や、すっと伸びた背筋のせいで大人びて見えるが、たぶん歳は同じくらいだろう。

 彼女は俺の視線に気づくと丁寧にお辞儀をしてくれる。


「お久しぶりです、悠人様」


 あれ、知り合い?

 記憶を探ってみるも特に思い至らない。あ、いや。遠い昔に会ったような気も……?

 必死に思い出そうとしていると、少女が声を出さずに微笑んだ。


御尾みお 華澄かすみと申します。悠人様とは従姉妹同士にあたります」

「覚えてない? 私の妹の娘なんだけど、小さい頃に遊んだことあるでしょ?」

「そう言われれば……」


 あるような、ないような。小さい頃の話だと、どのみちお互い外見もかなり変わっているだろうし。


「母さんの方の親戚って、殆ど会わないからな……」

「そうですね。でも、悠人様はお変わりありませんね」

「そう、ですか?」


 おずおずと問い返す。すると華澄に「敬語はお止め下さい」と釘をさされた。


「華澄の方が一つ年下ですから。それに、従姉妹同士ですし」

「……そっか。わかった」


 大和撫子、とでも言うのだろうか。見た目通り物腰の丁寧な子のようだった。

 会話の流れでなんとなく華澄と見つめあっていると、母さんから着席を勧められた。言われるまま席に着く。

 定位置の隣に華澄が座っているため少し緊張したが、相手の方は気にする様子はなかった。先ほどの微笑みを崩さず自然体を保っている。


「えっと。どうして華澄さ……華澄がここに?」

「はい。年末の予定を調整するために参りました」


 予定というと大晦日とか、お正月とか?


「たまには実家に帰ろうかと思って。ほら、こっちにいると年末だっていうのにバタバタしそうじゃない?」


 母さんの実家は地方の田舎にある。帰省だと言ってそっちに行ってしまえば、しばらくの間は騒動を避けられる、ということらしい。

 華澄に会った記憶が曖昧だったのと同じく、母さんの実家に言ったのも遠い昔の話なのだが、急に話が持ち上がったのはそういうわけか。


「……面倒をおかけします」


 思わず頭を下げると、苦笑が返ってきた。


「気にしないの。ここのところ面倒くさがって帰ってなかったから、ちょうどいい機会だもの」

「華澄も、悠人様にお会いできて嬉しく思います」


 華澄も穏やかに同意する。なら、口より心の中で感謝しておくべきか。

 ……ありがとう。


「じゃあ、割とすぐ向こうに行く感じ?」

「うん。明日の朝には出発しようかと思ってるけど、問題ない?」

「ん、構わないよ」


 この状況じゃ友達との予定も立てようがないし、こなすべき冬休みの宿題も無い。


「それじゃあ、そうしましょうか」


 帰省はこのメンバーで行われるらしい。まあ、華澄は向こうに住んでいるらしいので、帰省というとちょっと違うが。

 父さんは仕事を片づけてから自分の実家に戻るとのこと。今日もあのあと仕事に出かけたらしく、本当に申し訳なくなった。

 ともあれ。そんなわけで、今後の予定はあっさり決まった。

 そのまま居間で軽くお茶を飲んだ後、母さんは準備のため買い物に出かけてしまう。そうすると残されるのは俺と華澄だけになるわけで。


「………」

「………」


 えっと、何を話せばいいんだろう。

 同年代の女の子と話した経験なんて、それほど多くない。しかも相手はクラスメートとかではなく親戚だ。共通の話題を見つけるのも難しい。

 共通の話題。あ、そうか。


「母さんの実家って、どんなところなんだっけ」


 ひとまずは帰省に関する話を当たり障りなく続けていけばいい。そう気づいて口に出すと、華澄もそれに乗ってくれた。


「山の近くにあるお屋敷ですよ。古くからある日本家屋……覚えていらっしゃいませんか?」

「あ、なんとなく思い出してきた」


 電車を乗り継ぎ、何時間もかけてようやく到着した覚えがある。屋敷も子供心に「でかい」と感心したような。

 屋敷の周りは自然がいっぱいで、走り回っているだけで楽しかったっけ。


「今もあの頃のままなのかな」

「そうですね。多少、お屋敷も補強や改修は行っていますが、基本的には当時のままです。でも、町には少しお店も増えましたし、少し遠出すれば買い物も不便はありませんよ」

「へえ……」


 古き良き田舎の雰囲気を残しながら、少しずつ移り変わっている。そんな感じか。


「いいところなんだろうな」

「ええ。穏やかで、いい場所ですよ」


 華澄の気性も、そういった田舎の空気が培ったものなのかも。


「……あ、悠人様。少し失礼してもよろしいですか?」

「うん?」


 何かを思いついた、というように言って、華澄がゆっくりと立ち上がる。

 トイレか何かだろうか、と思っていると、彼女はテーブルをぐるりと回って向かい側に移動する。静かに椅子を引き、そこへ腰を落ち着ける。

 座る際に腰のあたりから着物を撫でつける仕草に女性を感じた。


「急に、どうしたの?」

「あ……はい。せっかくお話するのでしたら、面と向かって、と思いまして。これでしたら悠人様の顔がしっかりと見えます」


 そんな華澄の言う通り、俺たちは正面から顔を向き合わせる形になった。

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