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ゆりこめ ~呪いのような運命が俺とあの子の百合ラブコメを全力で推奨してくる~  作者: 緑茶わいん
三章 俺と彼女と大天使の試練

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エピローグ2

「さて、と。……真夜」


 朝から股のあたりに違和感があるせいで、自宅付近の路地裏へ着くまでには結構時間がかかった。

 立ち止まった俺は、周囲に誰もいないことを確認してから真夜の名を呼ぶ。

 すると左手に刻まれた契約の証の効能か、今回は悪口を言うまでもなく、すぐに黒猫が姿を現した。


「一つ目の願い、使うのね」

「ああ」


 短く答える。今更女口調を使う必要もないだろうと、しばらくぶりの素の態度だ。


「じゃあ、念のため、もう一度願いを聞きましょうか」

「律儀だな」


 さすがは悪魔。嘘を吐けない、なんて特性を持っているあたり、案外契約とかそういうのに関しては杓子定規に動く奴らなのかも。

 俺は苦笑しながら真夜に答えた。


「俺を元に戻してくれ」

「OK。貴女を、交通事故に遭う前の『御尾悠人』に戻せばいいのね?」

「ああ」


 頷くと、真夜はくすりと笑みをこぼした。

 ……何がおかしかったんだろう? 首を傾げるも、理由はわからなかった。


「じゃあ、始めるわ」


 それからすぐに黒猫はそう言った。

 彼女が元の姿に戻るのと、周囲に結界が張られるのが同時。左手の刻印が三から二に変わり、足元に複雑な魔法陣が生まれる。


「目を閉じて。次に気づいた時には、貴女は元に戻っているわ」


 言われた通りに目を閉じた。

 これで、戻れる。

 何もかも本当に全部終わる。


「ありがとな、真夜。色々と」

「何よ。お別れだからって、しんみりするような間柄でもないでしょうに」

「まあ、それはそうだけどさ」


 魔法陣が輝きを放つ。

 ……しかし、お別れってのも気が早いな。まだあと二つ、願いは残ってるってのに。


「でも、ま、愉しかったわ」

「そっか」


 続けて放たれた、らしくない言葉に頷く。

 魔法陣がせり上がり、俺の全身を包んでいく。


「ばいばい。羽々音悠奈」


 初めて名前で呼ばれると同時に、俺は奇妙な違和感を覚えた。

 ――何か見落とした?

 真夜は契約によって俺に危害を加えられないはず。また、俺の願いを叶えることも契約によって決められている。

 ならば、何が。

 突然湧き上がってきた焦燥の中、俺は思考を進めるも、結論に行きつくよりも早く意識が薄れ始めた。

 脳裏にこれまでの記憶が蘇る。


 皆に見送られたこと。紗羅との一夜。真昼との戦い。亜実ちゃんのこと。

 深香さんに洗脳されそうになったこと。

 真夜との戦い。地下室に監禁されたこと。女の子のレッスン。


 一つ一つの記憶が浮かび上がっては、どこか遠くへ去っていく。

 思い出せなく、なる。


『貴女を、交通事故に遭う前の『御尾悠人』に戻せばいいのね?』


 まさか。

 あの時、尋ねられたのはこういう――。


「紗羅……!」


 最後の瞬間に浮かんだのは、あの子の笑顔だった。

 それから。

 ちりん、とどこかで鈴の音がして。


「……あれ?」


 気づくと、俺は自宅付近の路地裏に立っていた。

 空の様子を見ると時刻はどうやら朝方らしい。こんなに時間に、俺は何をしていたんだっけ?

 思い出せない。

 更に記憶を探りつつポケットへ手を突っ込むと、何も入っていなかった。スマホどころか財布も、自宅の鍵すらない。

 じゃあ、コンビニに用事ってわけでもないか。

 早朝の散歩、とか?


「……うーん」


 まさかこの若さでボケたのだろうか。

 何だか知らないが、着ている服にも見覚えがないし。っていうかまだ新しくないか、この服。

 と――不意に左手に目が行く。

 手の甲にローマ数字の二の字に似た模様。そして薬指には見覚えのない銀の指輪があった。

 ……何だっけ、これ。


「まあ、いいや」


 とにかく家に帰ろう。もしかしたら寝ぼけてるか、疲れてるのかもしれないし。今日が平日なら登校する準備をしないと。

 ――そういえば、学校と言えば。


「羽々音さんは、もう来ないんだよな」


 ふいに蘇ってきた記憶。

 二学期中間テストの最終日、俺はクラスメートの羽々音紗羅さんに告白して振られた。そしてその後、彼女に誘われて一緒に帰ったのだ。

 あの日、彼女は今日限りで転校すると言っていた。

 だから、もし登校しても彼女には会えない。


「うわ、なんか落ち込んできた」


 もしかして記憶が曖昧なのもそのショックか?

 などと考えつつ、俺は自宅へと辿り着いた。


「っ、と?」


 鍵が無いのだから玄関は開いているはず。そう思ったのだが、ドアを引いた手に返ってきたのは堅い感触だった。

 まだ若干、父さんたちを起こすには早い気もするが。

 はあ、とため息をつきつつインターホンを押すと、しばらくしてから反応があった。


「……はい?」

「あ、俺だけど。ごめん、鍵を開けて貰っていいかな?」


 訝し気な声に、気持ち申し訳なさそうな調子で申し出る。

 と。


「すみません、どちら様ですか?」

「いや。俺、悠人だけど」


 朝っぱらから外出したことに怒っているのだろうか。

 そんな思いは、がたん、という物音によって遮られた。どうやら中との通話が乱暴に切られたらしい。

 ……何だ?

 訝しむうちに屋内から足音が聞こえ、すぐに玄関のドアが開かれた。顔を出したのはやや息を荒くした母さんだった。


「……悠人?」

「うん」


 信じられないものを見た、というように目を丸くする母さんに頷きを返すと、そこへ。


「どういうこと?」


 更に意味の分からない質問が投げかけられた。

 そこでようやく、俺は自分が置かれている状況が「何かおかしいらしい」ということに気づいた。

 ――しかし、俺自身には一体何がおかしいのか、全くわからなかった。

四章は終盤までは、悠人が男に戻った状態での話になります。

その後は再びタイトル回収の予定です。

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