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ゆりこめ ~呪いのような運命が俺とあの子の百合ラブコメを全力で推奨してくる~  作者: 緑茶わいん
三章 俺と彼女と大天使の試練

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激闘の終わり

 二本の光の剣を、硬質化した紗羅の両手が受け止めた。形質変化により防御力を上げたうえ、手のひらの接触部に魔力を収束し、強化した結果だ。

 身体からごっそりと魔力が奪われていくのを感じながら、思う。

 ……紗羅、後先考えずに全開で行く気だ。


「……不思議な姿ですね」

「そうかな。私は気に入ってるんだけど」


 押しのけるように剣を返した紗羅は、反動を利用して飛びのく。真昼はすぐに距離を詰めようとするが、二人の間に生まれた黒いモノがそれを阻んだ。

 闇というべきか、あるいは黒い光とでもいうべきか。夜闇に紛れて浮かぶそれらは鏃のような形をしていた。数は十以上。紗羅と繋がっている俺には、それが真昼の光弾などと同じような魔力の塊だとわかる。

 ただし、一つ一つに込められた魔力はかなりのもの。一発だけで俺の全魔力の一パーセント以上が削られているように思う。

 当然、それだけの魔力を今の紗羅が扱えば、威力は大きいはず。


 真昼もそう判断したのか、障壁を頼りに飛び込むような真似はしなかった。

 一つ。

 何の前触れもなく鏃が飛び、光の剣に切り落とされる。それを見た紗羅はにっこりと微笑んだ。

 理由はわからないが、何かを確認したらしい。


 と、再び全身に疲労感。

 一つ、二つ、三つ。次々と宙に浮かぶ鏃の数が増えていく。最終的には数十、俺の魔力を殆ど使い尽くし、恐ろしい数が並んだ。

 ――これで俺の役割も終わり。あとは流れ弾の回避に専念しながら見守るだけ。

 俺は半ば無意識のうちに、左手の指輪をもう一方の手で握りしめた。

 ……紗羅。


 くらり、と視界が揺れた。

 一瞬、目の前に真昼がいるような感覚に襲われ、慌てて指輪から手を離す。

 不意に、真昼を見据えていた紗羅が瞬きをしてこちらを見た。彼女の唇が動き、何かを伝えようとする。

 今のを続けろ、って?

 わけもわからぬまま、俺はその指示に従うことにした。再び指輪を握りなおし、紗羅のことを思う。


「……そうか」


 視界が重なり、ある一点を越えると『二つに分かれた』。

 俺の視点と紗羅の視点を同時に、区別しながら視ることができる。これなら紗羅は、真昼を見据えたまま――。


「………」


 真昼が周囲に光弾を生み出す。間髪入れずに降り注いだそれに対し、紗羅は鏃の二つを動かして対応した。

 片方は前方に。もう片方は『後方に生まれていた』光弾のために向かわせ、その形を薄く広い盾へと変えて防ぎきる。


「へえ」


 真夜が短く感嘆の声を上げた。一方の真昼は眉を顰め、なおも光弾を生み出す。

 そこからは撃ち合いだった。

 紗羅は質を、真昼は量を重視した魔力の塊をそれぞれに操り、敵にぶつける。背後や側面を取る程度の応用はあるものの、ただひたすらに、無数の攻撃が交錯し続ける。

 目がおかしくなりそうな程の乱打のあと――。


「はぁ……っ」


 ぺたん、と紗羅が地面にへたりこんだ。それにより土埃がドレスに着くも、未だそれ以外の傷や汚れはないが、おそらくもう紗羅に戦う力は残っていないだろう。


「三人目」


 呟いた真昼が一歩を踏み出そうとして、


「はい、そこまで」


 ぱちん、と真夜が指を鳴らす。同時にちりん、と鈴の音。

 更にもう一度。ちりん。

 ちりん。ちりん。りん。りんりんりん……。


「鈴が、本当に」


 見れば、真昼の周囲へ実際に鈴が現れていた。

 一つ鳴るたびに一つずつ。真昼を取り囲むように鈴が増えていき、やがて喧しいほどに空気を震わせる。

 ――やがて。

 鈴に囲まれた空間、その内側の地面へ穴が開く。それも一つではなく複数。そこから現れたのは小さな棘を多く生やした茨だった。

 茨は四方八方から勢いよく伸び、真昼の身体を拘束していく。


「………っ」


 真昼の唇から、かすかに吐息が漏れた。彼女が手にしていた光の剣が消え、両腕がだらりと垂れ下がる。

 うまくいったのか?

 真夜が動かなかったのは、これを準備するためだった?


「つまらない小細工を」


 炎。

 足先から燃え上がるように、真昼の身体を全て包み込む。更に渦巻き、茨を全てあっという間に焼き尽くしていく。

 そうして、後には焦げ跡一つない真昼だけが残った。


「はい、じゃあ次」


 再び鈴が震えた。

 先ほどと同じように地面が隆起。次に現れたのは、いつかも見た触手だった。

 ぬるぬるした質感のそれらが伸びると、今度は真昼の身体が風を纏う。かまいたちの如く、生まれた端から触手が切り裂かれ消滅していった。


「なら、これで最後」


 三度目。

 虚空から鎖が伸びて真昼の身体に絡みつく。腕、足、胴体――様々な場所へ幾重にも巻き付き、天使の身体を戒める。

 磔のような恰好で宙に縫い止められた真昼は、初めて憎々しげな表情を浮かべて真夜を見つめた。


「……悪趣味な真似を」

「そっちこそ。好き放題に暴れてくれちゃって」


 真昼の視線を悠然と見つめ返すと、真夜はゆっくり歩いていく。

 拘束された真昼の正面で足を止めると、顎に右手をかけ持ち上げる。


「露払いがいたお蔭で準備の時間があったから、その鎖はたっぷりと強化してあるわ。いい加減、そっちも力の限界だろうし、この辺りでおしまいにしましょうか」


 空いた左手が、真昼の身体をそっと撫でる。じっくりとした不規則な動きからは、どこか淫靡ささえ感じられた。

 真昼の顔が嫌悪に歪む。


「馬鹿に……っ」

「ん? なあに、まだ負け惜しみ?」

「……しないでください!」


 ――勝った、と思った。

 油断からか、愉しげな笑みを隠そうともせず佇んでいた真夜を、光が飲み込んだ。

 矢とか、弾とか、鏃とか。もはやそういうレベルですらない。ただ圧倒的な力の奔流が、真昼の全身から放たれた。

 光は鎖を砕き、真夜の身体を焼き、更に周囲へと拡散する。


「……くぅっ」


 俺たちのところまで届く頃には威力は減衰したいたはずだが、それでも防御した世羅ちゃんは苦悶の表情を浮かべていた。

 光が収まった後には、全身に焦げ跡を作って倒れた真夜と、荒い息を吐きながらも立ったままの真昼がいた。


 まさか。

 これだけやってもまだ倒れないのか。

 凛々子さんが、杏子さんが、紗羅が全力で抗い力を消耗させ、真夜が三段構えの拘束を試みても、なお。

 総合的な力はこっちに分があったはずなのに。


 これが、純粋な天使。


「四人」


 淡々とした声で残酷な宣告が行われた。

 ぞくりと背筋が震える。すぐ傍にいる世羅ちゃんも同じようで、顔を青ざめさせ、小さな身体を震わせている。

 ……この子に無理はさせられない。

 世羅ちゃんがいなかったら、俺はもうとっくに流れ弾を食らって大変なことになっているはずだ。なら、彼女の役目はもう終わっている。


「世羅ちゃん、ここにいて。もしチャンスがあったら逃げて」

「悠奈さん……?」

「私も少しくらい役に立たないと、恰好つかないでしょ」


 驚いたように顔を上げる彼女にそっと微笑み、前へ歩き出す。死にに行くのだと思うと足が竦むが、必死で堪える。

 紗羅たちは戦闘中、この恐怖とずっと戦っていたはずなのだ。


「真昼」

「………」


 声をかけると幸い、天使はすぐに反応してくれた。

 一歩ずつ、彼女に近づきながら話しかける。


「皆を殺す前に、私も戦わせて」

「……貴方では、私の相手にはなりませんよ」

「それでもいいから」


 今の真昼なら一瞬で殺されて終わり、ってことはないかもしれない。

 数秒でも持たせられれば、せめて世羅ちゃんが逃げるチャンスはあるかもしれない。

 あるいは、回復した誰かが一矢報いてくれる可能性だって。


 ……体力が残っていて助かったな。

 ぐっと握りしめて真昼を見据える。


「いいでしょう」


 俺の覚悟が伝わったのか、あるいは既に勝利を確信したか。真昼は頷いて俺を待ち受ける。

 距離は、あと数メートル。

 駆け寄って殴りつけようと、俺は足に力を込めて――。


「その必要ないわよ」


 真夜の声が聞こえた。


「三人とも。最後の仕上げよ」


 合図と共に。俺は指輪のリンクを通して、紗羅が魔力を編み上げるのを感じた。


「……何?」

「『猛犬には首輪を。狼藉者には枷を』


 困惑の声を上げた真昼を光の縄が戒め、更に四肢と首筋に革の拘束具が纏わりつく。

 互いに抱き合うようにして座り込んだ杏子さんと凛々子さんが、しっかりとした瞳で真昼を見据えていた。

 そして。

 真昼の胸に複雑な文様が浮かぶ。まるで文章のような規則性を持ったそれは。


「紗羅」


 消耗戦の末、紗羅の『支配』が遂に通った証だった。

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