表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゆりこめ ~呪いのような運命が俺とあの子の百合ラブコメを全力で推奨してくる~  作者: 緑茶わいん
三章 俺と彼女と大天使の試練

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

73/202

開戦

 指輪という形で具体化された繋がりが、紗羅の状態をしっかりと伝えてくる。

 紗羅の内にあった魔力が活性化する。それと同時に彼女の身体が魔力を使うのに適した形へ変化していく。

 サキュバスとしての本来の姿、蝙蝠の翼と尻尾、角を帯びた姿へと。


 ただ、それだといつも通りの変身だけど……。


 と、疑問に思ったのとほぼ同時。俺は自分の身体から魔力が抜け落ちる感覚を覚えた。真夜の時、深香さんの時と同じように力が吸われ、紗羅の身体へと転送される。

 俺の魔力を受け取った紗羅は、体内にそのまま魔力を保管する。

 サキュバスは吸った精気を自分の魔力に変換する。同様に魔力を自分用に取り込み直すプロセスを、紗羅は半ば意図的に止めているようだった。


『神聖よりの魔力を受け入れ、しかもそれが反発しなかった』


 一瞬、紗羅の変身が停止した。

 生まれようとしていた翼はやや色を落とし、ふわふわの羽毛へ。

 先端の尖った尻尾は生えず、真珠色の角はそのまま額から突き出す。

 身に纏っていた寝間着は消え、漆黒のドレスへと変わった。装飾は最低限でありながら、紗羅の身体を強調することで妖艶さと清楚さを同時に醸し出している。


「できたみたい」


 紗羅がそう言って微笑むと、俺はほっと息を吐いた。


「前見た時は尻尾があった気がするけど」

「こっちが完成形……なのかな。なんだか安定してる感じ」


 確かに、紗羅の言う通り、俺が感じる紗羅の状態は穏やかだ。この状態こそが紗羅の本当の姿だ、と思いたくなるくらいに。


「これ、なんて呼べばいいかしらね。性天使、ってとこ?」

「……恥ずかしいから止めて欲しいな」

「はいはい。で、戦えそう?」

「うん」


 真夜の問いに頷いた彼女は、そっと空中に右手をかざす。手のひらから宙へ魔力が放たれ、漆黒の刀身を持つ剣となった。

 それを見た真夜は満足そうに微笑んだ。


「上出来ね」


 今、紗羅は視線による支配を行使していなかった。代わりに魔力の固定化、天使が得意とする作業をスムーズにやってのけた。

 扱える魔力が増え、得意分野が増えれば戦力は一気に高まる。


「それに、これなら戦場に置物を作る必要もないわ」


 俺と紗羅、互いの指に嵌まった『指輪』は双方向の繋がりを意味する。

 俺の方から魔力を送り込むことも、紗羅の意思で俺から引き出すこともできる。それも、必要な時に必要な分だけ。

 だから、俺も最低限動けるだけの体力を残しておける。邪魔にならない場所に下がったり、流れ弾を避けるくらいはできるだろう。


「便利に使わせて貰うから、そのつもりでいなさいね」

「そっちこそ。手を抜かないように」


 憎まれ口たっぷりの悪魔に言い返すと、彼女はくすりと笑って姿を消した。どこに行ったのかは知らないが、時間までには戻ってくるだろう。


「それじゃあ、私たちも休もうか」

「うん」


 寝間着姿に戻った紗羅が頷く。

 戦いまではもう二十四時間もない。少しでも身体と心を休め、万全の状態で臨まなければ。


「じゃ、悠奈ちゃん」

「……ん」


 ベッドサイドに座った俺たちは、そっと口づけを交わした。ほんの数秒、唇を触れ合わせるだけの簡単なキス。

 身体を離すと、紗羅はゆっくりと立ち上がった。


「それじゃあ、おやすみなさい。頑張ろうね」

「うん。勝とう、必ず」


 ――精気の授受は行わなかった。指輪を通して繋がっている以上、今はもう必要ないからだ。

 きっと紗羅もそれはわかっていただろうが、それでも『儀式』を継続したのは。


「……よしっ、寝よう」


 俺はすっぽりと布団にくるまると、ぐっすり眠った。

 ――仮眠から目覚めると、亜実ちゃんからメールが届いていた。


『もし、先輩たちが何か大きなことをしようとしていたら。大丈夫です、それはきっとうまくいきます。変なことを言ってごめんなさい。無視してくれても構いません』


 俺は微笑んで「ありがとう」とメールを返した。


 *   *   *


 午後十時。

 入浴や夕食、その他諸々を済ませた俺たちは、羽々音家の庭へと集合した。

 杏子さん、凛々子さん。紗羅、世羅ちゃん、そして俺。


 杏子さんと凛々子さん、世羅ちゃんは、コートの下に水着のような、身体に張り付く衣装を身に着けていた。手首と足首までを覆うデザインで、背中側には翼や尻尾を通す穴が開いている。変身用の特注品だろうか。

 一方、変身できない俺はコートにジャケット、パンツにタイツ、靴はスニーカーと動きやすさ、防寒を優先した武装。ちなみにコートは痛める前提で、深香さんが買ってくれた赤い物をチョイスしている。せっかくだからこういう機会に供養してやるのがいいだろう。

 そして、紗羅はごく普通のパジャマ姿だった。


「お嬢ちゃん、随分適当な格好してるじゃない」


 すると真夜がどこからともなく現れ、からかうような声を上げた。今日は黒猫の姿ではなく、最初から紫の髪と瞳を持った女の姿だ。


「いいの。どうせこれから着替えるんだもの」


 着衣を変換するとその分疲れる。そういう意味では悪手にも思えるが、穏やかに首を振った紗羅の表情に迷いはなかった。

 変身。

 そして現れた紗羅は、漆黒のウェディングドレスを纏っていた。


「どうかな、悠奈ちゃん」

「うん。……すごく綺麗だよ」


 もう少し気の利いたことを言おうと思ったけど、それしか言葉が出てこなかった。

 広げられた翼と豪奢なドレスは、およそ戦闘向きとは思えないほどに美しく、だからこそ紗羅の思い、気概が伝わってくる。

 ――何者にも自分を侵させない、負けるつもりはない、と。


「では、杏子様。世羅様。私たちもー」

「ええ」

「うん」


 続いて他の三人もそれぞれに変身を終える。

 二組と母娘と一匹の悪魔。三種類の翼を持った五人の女達が気力を高めていく。


「じゃ、まずは――」


 ぱちん、と真夜が指を鳴らすと、門と塀を境に屋敷の外の景色が白黒に変わる。杏子さんが敷地内にかけた結界に重なる形で、もうひとつの結界が形成される。

 羽々音の当主が、悪魔の結界を許容した。

 本来であれば有りえない事態は、当然、かの『純粋な天使』にも伝わる。


「来ます」


 空気が、渦巻く。

 ばさりと、翼をひとつはためかせ、彼女が庭へと舞い降りた。

 夜の闇すらも切り裂く絶対の白。

 金の髪に純白のドレス、前に見た時と全く同じ姿で現れた真昼は、ふわりと滞空すると、閉じていた瞳をゆっくりと開いた。

 すると、それだけで強烈なプレッシャーが全身を襲った。


「……愚かな選択です」


 碧の瞳がじっと見据えるのは、意外にも俺だった。


「その女もろとも、全員ここで朽ち果てる運命となっても、よもや後悔はしませんね」

「……さあ。そうなるつもりはないから、わからない」


 目を逸らしたくなる気持ちをぐっと堪えて答えると、真昼は次に真夜へと目を向けた。


「果てしない時を経た因縁が――このような形で潰えるのは、少し残念な気もしますが」

「冗談。私は待ちに待ったわよ、この時を」


 天使と悪魔。超越者同士の短い会話の後、


「我が同胞と言えど容赦はしません。当然、心得ていますね?」

「……はい。ですが、一つだけ」


 真昼から視線を向けられた杏子さんは、どこか震える声で尋ねた。


「あなたが、紗羅を。私の娘を殺そうとしたというのは、事実でしょうか」

「………」


 大いなる天使は目を細めて杏子さんを見つめた。


「事実です」

「……そう、ですか」


 真昼の答えに、空気が更に張りつめていく。世羅ちゃんがきっと顔を上げ、凛々子さんの視線が鋭くなる。

 そして杏子さんもまた、身体と声の震えを止め、上位者へと宣言する。


「ならば、それだけで。私があなたに挑む理由は十分です」

「わかりました」


 かすかに頷く真昼をよそに、俺たちはじりじりと動き始める。


 戦闘中の動き方はある程度、打ち合わせ済みだった。

 紗羅に魔力を供給する俺は、世羅ちゃんと一緒に後退する。紗羅たちのフォローが効く範囲で戦場から離れつつ、ある程度のハプニングは自分たちで対処する。

 杏子さんたちは四方に散り、真昼を取り囲む。つかず離れずの距離を取りつつ、回避にも攻撃にも他人を巻き込まないよう配慮する形だ。


 一方、真昼は動かないまま宙を揺蕩い――。

 不意に戦場へ光が溢れた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ