表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゆりこめ ~呪いのような運命が俺とあの子の百合ラブコメを全力で推奨してくる~  作者: 緑茶わいん
三章 俺と彼女と大天使の試練

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

72/202

宣誓

 話が全部終わったのはちょうど日付が変わった頃だった。

 決行は今日、木曜日の夜になった。そのために高校は休み、特訓や休息に費やすことにする。


 もっと入念に時間をかける手もあるのだが、そうしなかったのにはいくつか理由がある。土曜日の終業式と、それから二日後にもうひとつ大事なイベントがあることと、俺たちと真夜の共闘はどうせ真昼にも伝わっているだろうから、できるだけ相手に対応する暇を与えないためなどだ。


 とはいえ、そうなると残された時間は少ない。

 真夜にも協力してもらい、できるかぎりの態勢を整える。


「じゃあ、始めましょうか」

「うん」

「はい」


 移動した先は俺の部屋。メンバーは俺と紗羅に、真夜の三人。

 目的は、紗羅があの黒い羽毛の翼状態を出せるようにすることだった。


「結局、あれはサキュバスと天使、両方の力を同時に発揮した状態だったってことね」


 真夜によれば、この二つの力を同時に操ることは基本的にできないという。力の性質が相反するため、そもそも一方の力しか目覚めない。


「まあ、こんな混血の仕方自体、あまり前例がないんだけどね……」


 しかし紗羅があの時出した翼は色こそ黒かったものの、確かに天使のそれだった。

 理由があるとすれば、翼を出した時の状況。


「悠奈ちゃんの魔力を貰ったこと?」

「そう。神聖よりの魔力を受け入れ、しかもそれが反発しなかった。だから、聖と魔、ふたつの魔力が共存し――天使の特性までもが引き出された」


 神聖よりの魔力、っていうのは俺のことだろう。実は遠い先祖に天使でもいたりするのだろうか。


「これは誰でもできることじゃないでしょうね。本心から信頼して、身体を預けられる相手とでないと多分無理」

「じゃあ、悠奈ちゃんとだから、できたことなんだ」


 にっこりと微笑んだ紗羅が胸に手を当てる。嬉しそうに、幸せそうに。

 それを見た真夜は、はあ、と深いため息を吐いた。


「本当、サキュバスの癖に欲が無さすぎない、貴女?」

「そんなことないよ。私は、欲望のぜんぶを悠奈ちゃんに向けてるだけ」


 ね? と、紗羅がこちらを見つめる。

 深い色の瞳に視線が吸い込まれ、甘い快感がこみ上げてくる。


「……で、本題だけど。お嬢ちゃんが自由に『あの状態』になれれば、戦力は飛躍的に向上するはず」


 一度は真夜すらも驚かせ、圧倒した力だ。使えれば間違いなく役に立つ。


「私が今から特訓しても真昼と戦うのは無理だろうし。紗羅の力になれるなら、私もその方が助かる」


 頷く。すると女悪魔はにっこりと笑って。


「OK。じゃあ、二人とも。今すぐ一つになりなさい」


 ………。

 え、っと。

 一つになる、って。つまりどういう意味?

 見れば紗羅も似たような状態で、顔を真っ赤にしたまま硬直していた。……ん? 顔が真っ赤、ってことは。


「もしかして、そういう意味?」


 尋ねれば、返ってきたのは実に愉しそうな表情。


「え? そういう意味って、どういう意味? どういう想像をしたのか二人とも、一人ずつ言ってみなさいよ」


 あ。これ、すごく面倒くさいやつだ。

 まともに対応しない方がいいと判断し、思考をニュートラルに保つ。


「……つまり、それっぽく言ってみただけで実は全然別の話、ってやつなのね?」

「いや、別に××××してもらってもいいけど」

「わー!」


 なんて直接的な表現を使うか、この年増女は。


「要は二人にリンクを作りたいのよ。魔術的に繋がっていれば、身体的接触を伴わなくても魔力を供給できるから」


 転送速度は落ちるけどね、と真夜。


「そのために一つになれって言ってるの。だから、決定的な繋がりを持てれば他の形を取ってもらっても構わない」


 そこまで言った彼女はちらりと紗羅を見る。

 紗羅はまだ赤面を継続中で、もじもじと身をよじられながら手の指をこすり合わせていた。


「わ、私は別に、真夜が言った方法でもいいけど」

「さ、紗羅」


 いや、そういうことを言われてしまうと。

 別に俺だって紗羅としたくないわけじゃない。ただ、心の準備とか、順序とかタイミングとか雰囲気とか、そういうのを大事にしたかっただけで。

 必要なら。

 あるいは、お互いの気持ちが一致してるなら、今ここでそうなったって――。


 どきどきと胸が高鳴る。


「じゃあ、その。私と」

「でも、今は駄目」

「え」


 唐突に表情を戻した彼女はきっぱりと言って首を振った。

 ここで紗羅に否定されるとは思わなかったけど、ちょっとだけほっとしたような。


「あら、どうして?」

「だって、時間までに終わらないと思うから」


 告げられた言葉は予想外のものだった。


「悠奈ちゃんと初めて『そういうこと』をすることになったら、私はもう我慢できないから。思う存分、ふたりとも気絶するまでしちゃうと思う。そうしたら真昼との戦いに間に合わなくなっちゃうから」


 だから、駄目。

 彼女の言葉を聞いた真夜はぽかん、と口を開けて俺を見てくる。いや、こっちを見られても何も言えないぞ。

 俺は俺で、嬉しさと恥ずかしさから顔が真っ赤になってるし。


「……ふふっ。あははっ。なるほどね。私にもわかりやすい理由で助かるわ」

「うん。だから、悠奈ちゃん。何がいいかな?」


 振り返った紗羅がそう尋ねてくる。


「うーん。何がいい、って言われても」


 どういう方法が可能か検討もつかない。

 あ、いや。リンクと言えば。


「亜実ちゃんの様子を見るときに使ったあれ、みたいなのでもいいのかな?」

「あ。うん、いいかも」


 紗羅が頷いて微笑んでくれた。


「じゃ、そうしましょうか。ほら、さっさとやっちゃいなさい」


 真夜に促され、俺は紗羅と向き合った。


「どうすればいい?」

「悠奈ちゃんと、一種の『契約』を結ぶから。私の目を見てくれる?」

「うん」


 サキュバス式、紗羅なりの方法で、新たな契約が行使される。

 紗羅の目をじっと見つめると、それが一瞬ほのかに輝いた。くらっとする感覚の後、視線が固定されて外せなくなる。

 紗羅の瞳の俺の姿が映っている。

 瞳の中の俺は、紗羅の瞳を見つめている。

 合わせ鏡のような無限ループに落ちていく。深く、深く。吸い込まれるように。

 深香さんに暗示をかけられた時と似た感覚。


 あの時と違うのは一人じゃないこと。

 俺の意識が深くなればなるほど、紗羅と俺の境界が曖昧になっていく。

 次第に、目の前に俺自身がいるような錯覚さえ覚え始める。


 ――紗羅と繋がる。

 すっ、と紗羅の左手が持ち上がる。それにつられるようにして俺の左手も同じ動きを見せた。

 俺たちの手はそれぞれ、相手の口元へと向かっていく。


「私、羽々音紗羅は、羽々音悠奈を護り、共に生きることを誓います」

「私、羽々音悠奈は、羽々音紗羅を護り、共に生きることを誓います」


 自然と誓いの言葉が漏れ、そして指の一本、薬指が唇を越える。

 物理的にもお互いが繋がった瞬間、身体が熱を発した。

 指先と、口の中――二カ所に魔力が流れ込み、数秒後に『契約』が終わった時には、薬指に銀の指輪が嵌まっていた。


「これで……終わり?」

「うん。成功したよ」


 言って、紗羅は右手で指輪を撫でる。


「感じない? 指輪を通して、私たちが繋がってるの」


 彼女の言葉に、自分の指へと視線を落とす。

 そうして薬指に意識を向ければ、とくん、と胸の高鳴る音。視界が二重になるような感覚を再び味わった。


「感じる。確かに紗羅と繋がってるのを」

「良かった」


 微笑みあった俺たちに、どこか呆れたような声がかかる。


「OK。なら、お嬢ちゃん。試してみなさいよ。あの姿になれるかどうか」


 と、そっか。そういえば真夜もいたんだっけ。


「うん」


 くすりと紗羅が笑い、一歩下がる。同時に彼女の身体が変身を始めたのが、目で見るまでもなくわかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ