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ゆりこめ ~呪いのような運命が俺とあの子の百合ラブコメを全力で推奨してくる~  作者: 緑茶わいん
二章 俺と彼女と天使の企み

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違和感

 それから俺は深香さんにあちこち連れまわされた。

 車で街の方へとって返し、まずはショッピング。この前の世羅ちゃんよろしく着せ替え人形にされ、服を一式プレゼントされてしまった。

 いいです、と何度言っても聞いてくれないので結局甘えてしまったが――。


「何もコートまで買わなくても……」

「もう一着くらい、持っていても困りませんよ?」


 それはまあ、確かにそうだけど。

 せっかく買ったんだからと下着からコートまで全部着替えさせられた俺は、微妙な嬉しさと気恥ずかしさ、何がなんだかわからない困惑が入り混じった複雑な気分だった。

 なお、コートは落ち着いた赤色でその下は白いワンピースにストール、黒の二―ハイソックスに白のブーツ。見えている部分だけ見ると、少し早いクリスマス? といった感じの装いである。


「えーっと、その。ありがとうございます、深香さん」

「気にしないでください。好きでやってることですから」


 お洒落なレストランで遅めの昼食をとりつつ話してくれたところによると、彼女はやはり女の子を着飾らせるのが好きらしい。


「母が服飾関係の仕事をしているので、その影響でしょうか」

「じゃあ、深香さんも将来は?」

「そうですね。そうする予定です。だから一応、将来は安泰な予定なので、悠奈さんはわたくしからの援助を遠慮したりしなくていいんですよ?」


 あー、えっと。

 なんか話が良くない方向というか、なし崩しに決定する方向に進んでいるような。


「……でも、いいんですか? 深香さんは、紗羅とは微妙なんですよね?」


 もし俺たちが家を出たとしたら、間接的に紗羅をも援助することになると思うのだが。

 すると、彼女は「いいんですよ」と微笑んだ。


「わたくしが援助するのはあくまで悠奈さんで、悠奈さんがその後どうするかは自由、という建前がありますし。それに、紗羅さんが羽々音の家を出ることを後押しするのは、互いの立場とも矛盾しません」

「……なるほど」


 紗羅を援助する言い訳はできている、ということだろうか。


「とにかく、もう少し考えさせてください。今はまだ、特訓の方に集中したくて」

「わかりました」


 それから俺と深香さんは映画を見た。とある有名なアニメ制作会社の新作を見たい、という深香さんのたっての希望である。

 同じ会社の作品は俺も夜のテレビで見た覚えがあったので、割と楽しめた。


「けど、なんでまたこれなんです?」

「女の子同士の友情物語。美しいと思いませんか?」

「納得しました」


 映画を見終えた後は、喫茶店で深香さんの感想をみっちり聞かされ、ついでにケーキをご馳走になった。

 ……不覚にも、注文したベリーショートケーキが美味しくて、満面の笑顔を浮かべてしまったところを深香さんに撮影されたのは、なかったことにしたい思い出になった。

 女性化した影響か、俺も割と甘い物に弱くなっているらしい。


 そうして夕方ごろ、ようやく屋敷に帰り着く。


「ふふ。また付き合ってくれますか、悠奈さん?」

「……まあ、できれば今度は皆いっしょがいいですけど」


 などと言いつつ部屋へ歩いていると、紗羅と遭遇した。

 さっきの話を聞いた後だと、思わず深香さんの様子を観察してしまうが。


「ただいま戻りました」


 深香さんはにっこりと笑顔を浮かべ、紗羅に挨拶していた。その様子は特に敵意があるようには見えない。

 やっぱり、立場上仲良くできない、ってだけの話っぽいかな。

 ほっとしつつ、俺も紗羅に話しかけた。


「ただいま、紗羅」

「……うん、お帰りなさい、悠奈ちゃん」


 紗羅はそう言って俺に微笑みを返してくれたが、しかし彼女の表情はどこか曇って見えた。その視線を追うと、俺の身体に向いている。

 そういえば、出かけた時と服装がまるで違うんだったか。

 脱いだ服は、紗羅とおそろいのコートも含め買い物袋の中に納まっている。


 ……どうしよう、これ。

 これには事情があるんだ、と説明すべきだろうか。でも、別に深香さんに服を買って貰ったこと自体は悪い事ではない。

 弁解してしまうと逆に、やましいことがあると宣言しているみたいではないか。


「それでは、また後程」

「はい」


 迷っている間に、深香さんと紗羅との間で会話は終わってしまった。

 ――なんだか、貴重なチャンスを逃したような。

 思うも、今更紗羅を呼び止めるわけにもいかず。俺はそのまま部屋へと戻った。


「……はあ」


 あれは、どうするべきだったんだろう。

 買い物袋を床に置き、ベッドにぽすんと腰かけつつ嘆息する。

 紗羅と世羅ちゃんを置いてけぼりで出かけた挙げ句、いかにも「楽しい時間でした」と主張するような恰好を見せびらかしてしまった。

 紗羅、怒っているだろうか。


 と、部屋のドアをノックする音。


「はい、どうぞ」


 タイミングからすると、紗羅か深香さんだろうか。

 果たして、そんな俺の予想は外れた。


「悠奈さん、少しお邪魔しますねー」

「凛々子さん」


 入ってきたのはいつも通り、メイド服に身を包んだ凛々子さんだった。彼女は丁寧に部屋のドアを閉じると、俺の傍までやってくる。

 そして、俺の恰好を見るや、何かを察したように頷いてみせた。


「なるほどー。なんとなくわかりました」

「な、何がですか?」

「お嬢様の元気が無いように見えた理由ですー」


 ……う。

 凛々子さんの言葉が胸に突き刺さる。


「やっぱり、まずかったですか? この恰好を見られたの」

「そうですねー。特にそのコートは」


 紗羅とお揃いで買った白のコートとは対照的な、赤いコート。


「お嬢様、あのコートを買われたこと、とても喜んでいましたから」

「あ……」


 そこでようやく、俺は紗羅が落ち込んでいた理由を理解する。

 外出に自分が参加していなかったからとか、そういうことではなく。紗羅にとって一番、気になった点はそこなのか。

 凛々子さんが眉を顰める。機嫌が悪いというか、相手を咎めるような表情。


「悠奈さん。最近、深香さんと親しくしすぎではありませんか?」


 そして紡がれたのは、当然といえば当然の指摘だった。

 今日の外出の発端、それから新しいコートの出どころを考えれば、そこに行きつくのは自然だろう。

 まして、俺は毎夜、深香さんと特訓まで行っているのだ。


「深香さんと仲良くするのを控えろってことですか?」

「そこまでは申しませんが……」


 俺が問い返すと、凛々子さんは困ったような表情になった。もしかしたら意識せず声が硬くなっていたかもしれない。

 ふう、と凛々子さんが息を吐く。


「どちらかといえば、お嬢様ともっと接して差し上げてください。以前に比べて、会話する機会が減っていたりはしませんか?」

「それは……」


 ない、とは言えない。一瞬、言葉に詰まってしまう。


「努力します。でも、どうしても忙しくて」

「魔力を扱う訓練、ですね。お気持ちはわかります。……でも、それも無理に急いで行わなくてもいいのでは?」


 紗羅との時間を減らして、それでも今すぐやらなければならないのか、と凛々子さんは俺に問いかける。


「そうしないと、紗羅の力になれない。……紗羅を守れないから」

「私たちがお嬢様も、悠奈さんもお守りします。それではご不安ですか?」


 凛々子さんの目は真剣で、適当なことを口にしているようには見えなかった。

 けれど。

 何故だか、俺の胸の奥から反感が湧き上がってくる。


「守るって……また俺の記憶を消したり、紗羅を閉じ込めたりするんですか?」

「っ」


 凛々子さんの身体が震えた。

 彼女の瞳が鋭くなり、俺を睨みつけようとして、止まった。


「……いえ。私たちに言う権利はありませんよね」

「あ……」


 肩を落としたその姿を見て、言い過ぎたと後悔する。どうしてあそこまで言ってしまったのか。

 そんな俺に凛々子さんは小さく微笑み、首を振った。


「この話は忘れてください。……全て、なかったことに」

「……はい」


 お互いにとってその方がいいと、暗に言われて頷くしかなかった。

 翌日以降、凛々子さんの様子はいつも通りで、言った通り「なかったことに」なっていた。

 ――ただ、どうしても、俺は完全に切り替えられはしなかった。

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