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ゆりこめ ~呪いのような運命が俺とあの子の百合ラブコメを全力で推奨してくる~  作者: 緑茶わいん
一章 俺とあの子と悪魔の呪い

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4/202

初めてのお風呂と、初めてのレッスン

 俺が目覚めたのは事故の翌々日、日曜日だったらしい。

 我ながらよく眠っていたものだが、そのため一夜明けた朝は月曜日だった。とはいえ俺はまだ学校に通えないし、紗羅も転校手続き中なので、いきなり慌ただしくなることはなかった。


「そういや、紗羅が転校する学校ってどこ?」

「清華女学園……今は清華学園だったかな。そういう名前の学校だよ」


 都内にある女子校、って言ってたか。受験の時も女子高までは調べなかったから、どんな学校なのかは知らないな。

 なんでも、今回の転校は元いた学校が共学だった事が大きな原因らしい。以前から杏子さんは女子校通いを希望していて、最近になり本格的に話が進んだのだとか。


「まあ、女子校の方が親からしたら安心だよな」

「そうだね」


 答えた紗羅は少しだけ浮かない顔だった。やはり転校の件は少し不満があるらしい。


「大丈夫。紗羅ならすぐに友達もできるよ」

「うん、そうだね。一人で転校するわけでもないし」

「そうそう」


 ……ん? 一人で転校するわけじゃないって?

 他に誰がいるのか、と首を傾げると、紗羅が苦笑しながら俺を見た。


「悠奈ちゃんも私と一緒に清華に入るんだよ?」

「な」


 なんですと?


 *   *   *


 俺が女子校かあ……なんか実感が湧かないな。


 羽々音家の風呂。その脱衣所でパジャマを脱ぎながら、俺はぼんやりと思った。

 朝食後、まずは入浴を済ませることになったからだ。ずっとパジャマを着たままだったので汗もかいているし、服も着替える必要があるということで、紗羅に案内して貰った。

 なお、今後は羽々音家の屋敷内を自由に移動して構わないとのこと。


「広っ……」


 浴室に入った俺は、まずその広さに驚く。うちの風呂の倍は軽くあるだろう。浴槽も二、三人が一度に入れそうなサイズだ。

 なんだか色々ギャップを感じつつ、髪と身体を洗うことにする。


 とりあえず、一度深呼吸。

 それから視線を下へと向け、女性化してから初めて自分の身体をじっくり見つめる。

 ……うん、女の子の身体だな。

 健康的な白い肌。男だった時に比べて体毛は薄く、体型は起伏に富んでいる。胸は……紗羅よりは小ぶりだろうか。それでも十分なサイズだし、形が良く見るからに柔らかそうだ。

 据え付けの鏡に映る顔は結構可愛らしい。これが自分の顔でなければ直視するのは躊躇われるレベルだ。


「……さて」


 身体の確認が済んだところで、シャワーを出して湯を浴びる。

 熱い水滴が降り注ぎ、肌を流れる感覚がなんだか妙に心地よかった。どうやら肌も前より敏感になっているらしい。


『髪や肌を洗う時は気を付けた方がいいと思う。女の子の身体は強い刺激に弱いから』


 入浴前に紗羅からもらったアドバイスが正しいことを実感する。言われた通り入念に、スポンジを使わず手を使って髪や身体を洗っていった。

 ついわしわしと手を動かしたくなるのは我慢。ついでに肌の感触もなるべく考えないようにした。


 綺麗に身体を洗い終えたら湯船に浸かる。朝風呂なんて贅沢な話だが、今回はわざわざ俺のために沸かしてくれたらしい。せっかくだから長湯させてもらってから風呂を出た。


「ふぅ……」


 ややひんやりした空気が火照った身体に気持ちいい。

 とはいえ、いつまでも裸だと湯冷めしてしまう。俺はタオルで手早く髪と身体を拭いていった。もちろん、これも極力、丁寧に。

 着替えは脱衣所に用意されていた。トレーナーとデニムが下着と一緒に畳んで置かれている。


「って、下着?」


 薄桃色のブラとショーツ。まさか、俺にこの下着を付けろというのか。

 いや、それはもちろんTシャツとトランクス、ってわけにはいかないだろうけど。せめて紺とかベージュとか、女の子してない色にしてくれたりとか……。

 まあ、誰もいない場所で愚痴ってもどうしようもないのだが。


「……観念するか」


 どうせいつかは通る道だ。俺はため息をつくとまずショーツを手に取り、足を通した。こんな小さな布で大丈夫なのかと心配したが、案外しっかり身体にフィットする。あと、妙に肌触りがいい。使われている原料が違ったりするのだろうか。

 で、問題はブラの方。とりあえず手に取って広げてみると、形はまあ、なんとなく予想した通りだった。

 でもこれ、どうやって付けるんだ……? 紐を肩にかけて、後ろ側のホックを止めればいいのか? 他に何かしたりするのか?


「えーっと……」


 どうしたものか。適当に付けてしまってもいいっちゃいいけど、と途方に暮れていると、ちょうどいいところに紗羅が顔を出してくれた。


「悠奈ちゃん、着替えは大丈夫そう?」

「あ、紗羅。その、下着がうまく付けられなくて……」

「そっか、そうだよね。私が手伝うよ」


 正直に伝えると、紗羅はにっこり笑ってそう言ってくれた。

 同い年の女の子に頼むのは心苦しいけど、ほっとする。いや、今は女同士だからいいのか? 紗羅も裸同然の俺を気にしていないみたいだし。


「あ。駄目だよ悠奈ちゃん」

「え?」


 俺の傍まで歩み寄ってきた紗羅が突然声を上げた。何か問題があっただろうか。


「髪の毛、ちゃんと乾かさないと痛んじゃうよ」

「ああ、でも水気はちゃんと拭き取ったし」

「駄目。下着はちょっと後回しにして、ドライヤーかけよう」


 ……別に放っておければ乾くと思うんだけど。有無を言わさず後ろを向かされ、ドライヤーを当てられた。


「これで大丈夫。それで、下着だよね」

「あ、うん」


 紐だけひっかけた状態のブラを見せると紗羅は頷く。


「付け方がわからないと上手くいかないよね」


 言いながら彼女は俺の胸に腕を回してきた。恥ずかしくなって身をよじると「動いちゃ駄目だよ」とやんわり叱られる。いやその、胸が微妙に当たってるんですが。

 仕方なく動きを止めると、紗羅はまずブラの位置を調整してからホックを止めた。更に、ブラの上側から俺の胸に手を差し入れてくる。


「え、ちょ」

「大丈夫。痛くないから」


 そのまま胸の肉を掴んで形を整え、カップに入れたら肩紐の長さを調節する。反対側の胸も同じようにした後、俺はようやく解放された。


「ただ下着を付けるだけで、結構大変なんだな……」

「男の子から見たらそうだよね」


 下着にしろ水着にしろ、上半身には何も付けない事も多いから、そもそもが理解の外だ。

 誰かと付き合った経験でもあれば別だろうが、あいにくそういうのには縁がなかったし。


「次からは自分で付けられそう?」

「……多分、手順はわかったのでなんとか」


 ブラがなんとかなれば、後は自分でも着られた。デニムのホックの向きが逆なのに少しだけ手間取った程度だ。

 そうか、確かボタンの留め方とかも反対なんだっけ。


「やってみると色々、勝手が違うな……」

「ゆっくり慣れていけばいいよ。時間はあるんだし」

「それもそうか」


 そして、着替えを終えた俺は紗羅さんと部屋に戻り――。

 最初の「女の子レッスン」が幕を開けた。


 *   *   *


「では、そこからこっちまで歩いてみてください」

「は、はい」


 俺への「レッスン」を担当するのは凛々子さん――例のメイドさんだった。てっきり紗羅がやるのかと思ったが、彼女はセコンド的な立場で傍についてくれる。

 また、具体的なレッスン内容はまっすぐ歩くことだった。

 何だ、そんなことか……と思ったが、それも束の間。俺は凛々子さんから駄目出しの嵐を受ける。


「もう少し歩幅を小さくしてください。でないとスカートを履いた時に危険ですよー」

「歩くたびに少しずつ右に寄っていますねー。できるだけまっすぐ歩くようにしてみてください」

「今度は左右にふらふらしてますー」


 ただ歩くだけでここまで注意されるのか。

 凛々子さんの口調が厳しくないのが救いだが、小一時間ほど部屋を往復し続けた結果、俺は想像以上に疲労していた。


「少し休憩にしましょうー」


 と凛々子さんから許可が出た途端、思わず床に崩れ落ちそうになったくらいだ。紗羅が慌てて椅子をすすめてくれたので事なきを得たが。

 それを見た凛々子さんが目を細める。


「申し訳ありませんー。少しやりすぎてしまったかもしれません」

「あ、いえ。たぶん精神的なものだと思うので……」

「そうですか。でも、無理はなさらないでくださいねー。体力も落ちていてもおかしくありませんし」


 それはそうかもしれない。男だった頃のノリで動き回ったら無理が出る、というのは割とありそうだ。


「ありがとうございます」

「いいえ」


 お礼を言うと、にっこり笑顔で首を振られた。

 凛々子さんはまっすぐなロングヘアーをした長身の女性だ。黙っていると少しキツそうな顔だちだが、だいたいは微笑んでいるため柔和な印象がある。

 歳は……いくつなんだろう。成人してるのは確実だけれど、正確にはわからない。


「さて、それじゃあ再開しましょうかー」

「はい、お願いします」


 十分ほど休憩した後、俺たちはレッスンを再開した。再び俺がへばったところで、凛々子さんは家事のため席を外す。

 それから昼食まで、今度は紗羅が俺に言葉遣いをレクチャーしてくれた。


「学校に行くとき、その言葉遣いのままじゃ困るでしょ? だから今のうちから練習しておかないと」

「確かに」


 一人称が「俺」の女の子は結構レアだし、似合う似合わないがはっきり分かれる。まして完全に男口調となると、元男の身からしても勘弁してもらいたい。


「じゃあ、始めるね。まずは、私の名前は羽々音悠奈です、って言ってみて」

「わ、わたしの名前は……」


 ……自分の事を「私」って言うだけで物凄く恥ずかしいけど!


「まあ、ほら。お家にいる間は普段通りでも構わないから。頑張ろう?」

「そ、そうだな」


 延々自己紹介の練習をしてから昼ご飯を食べて、また歩き方の練習、続いて再び自己紹介の練習……と続き、ようやく解放されたのは夕方になってからだった。


「やばい、疲れた……」


 夕食まで自由行動と言われ、ふらふらと部屋を抜け出しつつ呟く。というか、いきなり月曜から慌ただしくはならないとか言ったの誰だっけ。俺か。


「それにしても広い屋敷だよな、ここ」


 いわゆる洋館というやつだろう。部屋の外は長い通路が伸びていて、途中にはドアがいくつか見える。典型的な金持ちの家、という感じだ。

 ここの家事を凛々子さん一人でやってるんだとしたら、相当大変なんじゃなかろうか。

 などと思いつつ、俺はどこに行こうか思案する。少し息抜きがしたかっただけで目的地があったわけではないし、何より知っているのは風呂場の位置くらいだ。


「どうしたものか……」

「探し物ですか?」


 と、そこへ誰かの声がした。振り返れば、制服姿の女の子が俺を見て首を傾げている。

 誰だ? 見たところ中学生くらいの子だけど。


「悠奈さん、ですよね? お姉ちゃんを助けてくれた」

「え、と。お姉ちゃん、ってことは、君は」


 思わず問い返すと、彼女は「あ、すみません」と声を上げてにっこり笑った。


「わたしはお姉ちゃんの妹で、羽々音はばね 世羅せらっていいます」

私立清華学園は私の前作、というか別作品「ロールプレイング・ハイスクール」に登場した学校名ですが、メインストーリーに関わるリンクの予定はありません。

単品でお読みいただけますのでご安心ください。

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