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ゆりこめ ~呪いのような運命が俺とあの子の百合ラブコメを全力で推奨してくる~  作者: 緑茶わいん
二章 俺と彼女と天使の企み

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密談?

 土曜の夜以降、俺は毎日、深香さんと特訓を続けた。

 日曜からの数日は初日と同じく、全身を拘束された状態で深香さんの声に導かれるまま、いくつもの属性をイメージしていく。


「悠奈さんの適性は火だとわかりましたが、それはそれとして他の属性にも慣れておいた方がいいでしょう。魔力の扱い自体に慣れるのにも有効ですし、あとあと応用を利かせやすくなりますから」

「了解です」


 で、特訓を続けるうちに目覚ましいパワーアップを……とはいかなかったが、ほんの少しずつ成果は出始めた。

 特訓のたび、深香さんの声が深く聞こえるようになっていく。

 つまり、それだけ意識が深部に届いているということ。


「身体の感覚を捨てて、思考を楽にしてください。胸の鼓動から全身へ、そして体内に満ちる魔力へ意識を向けましょう……」


 イメージは繰り返すたび明確になっていく。

 そして、特訓後の疲労感もだんだんと軽くなり、慣れもあって特訓直後の疲労も我慢できないほどではなくなった。


「俺、進歩してますよね?」

「ええ。最初の一歩を完了できたと思います」


 ……レベルが1上がって2になったってことかな?

 そう考えると長い道のりだが。


「うん。でも、その例えで言うと『0から1』に上がるのが大変なんだと思うよ」


 この話をすると、紗羅からはそう言われた。

 魔力の扱いを習得するのに何が困難かといえば、体内の魔力を感知するのが一番なのだという。なにせ、今までまったく知らなかった事柄を一から覚えなければならないのだから。

 成人してから外国語を、いや、言語という概念そのものを覚えるような苦行だと。


「悠奈ちゃんは最初の部分をすぐに越えられたから、運がいいと思う。悠奈ちゃんに素質があったのか、深香様の教え方が良かったのかも」

「そっか。……ちなみに、紗羅も苦労した?」

「私はもともとの体質が違うから。参考にならないよ」


 サキュバスの場合、精気を吸って糧にする能力を誰もが本能的に習得する。その延長で魔力の扱いにも自然と慣れていくらしい。


 そうして約一週間が経ち、再び土曜日。

 神霊研の部室を紗羅と共に訪れた俺は、澪ちゃんから家に来ないかと誘われた。


「悠奈先輩、あれからお兄様とは会ってませんよね? だから、お兄様はきっと寂しがってるんじゃないかと」

「慎弥が寂しがって?」


 うーん、いまいち想像できない。

 でも、確かに真夜との一件以来、慎弥とは会っていなかった。メールで礼は言ったものの、会って挨拶しておいた方がいいかもしれない。


「ということで、これから行きませんか?」

「なるほど。……どうしようか、紗羅?」


 尋ねると、紗羅は「私は遠慮しておくよ」と微笑んだ。


「二人で話したいこともあるでしょ? 先に帰ってるから、澪ちゃんと行ってきて」

「え、紗羅先輩は行かないんですか?」

「うん、ごめんね、澪ちゃん」


 それならと、せめて帰りにお昼を食べていくことにした。近所のファーストフード店でハンバーガーとポテト、ドリンクのセットを注文する。

 ちなみに、清華学園では時と場所を弁えれば寄り道はオッケーだ。


「あ、今更ですけど紗羅先輩、こういうの駄目だったりします?」

「そんなことないよ。お友達と何回か食べたことあるし」


 そう言って、紗羅は包み紙を開き、チキンバーガーを口にしてみせる。丁寧にバーガーを両手で保持し、ぱくりと小さく齧る姿はどこか上品だ。

 おー、と、俺と澪ちゃんは二人して妙な感心をする。


「ところで、澪ちゃん。私には聞いてくれないの?」

「え? 悠奈先輩は全然平気ですよね?」

「うん。その通りだけど」


 どこでイメージに差がついたのか。ちょっとだけしょんぼりしつつ、俺はてりやきバーガーに齧りついた。

 うん、この味。濃い目のソースとマヨネーズの風味が口の中いっぱいに広がる。そこへポテトを放り込むと、うまい具合に中和されてくれる。

 幸せだ。女になる前と違って、追加注文しなくてもセットだけでお腹いっぱいになるし。


「お二人が本当の姉妹じゃないっていうのも納得です」


 と、澪ちゃんはチーズたっぷりのバーガーをぱくつく。む、あれもいいなあ。今度機会があったら食べよう。

 しばらく食べ進めるうち、喉が渇いてきたのでドリンクをすする。


「ところで、悠奈先輩ってお兄様と付き合ってます?」

「ぶっ!?」


 口の中の液体を吹きそうになり、慌てて口を抑えた。ちょうど紗羅もホットティーを口にしていたのか、紙コップを置いてけほけほと咳き込んでいる。


「ど、どこからそんな発想が出てきたの」

「いえ、割と親しげな気がしたので一応。その反応だと違うみたいですね」

「うん、私と慎弥はただの友達だよ」


 ああ、びっくりした。そうか、そういう発想もあるんだな。


「慎弥がそういうタイプじゃないの、澪ちゃんも知ってるでしょ?」

「まあ、そうですけど。だからこそ、悠奈先輩とならありえるかなあ、と」

「ないない」


 軽く手を振って答えると、澪ちゃんは「じゃあ安心ですね」と微笑んだ。


「紗羅先輩、悠奈先輩のことは責任もってお預かりしますので」

「……ふふ。うん、よろしくお願いします」


 えっと、これはどういう会話だろう?

 ともあれ、食事を終えた俺たちは紗羅と別れ、電車と徒歩で慎弥の家へ。幸い慎弥はもう既に帰宅していた。


「ん……悠奈か。元気そうだな」

「うん。慎弥も」


 慎弥の様子はやっぱりいつも通りだった。

 居間に案内され、彼と向かい合って座る。澪ちゃんがお茶を淹れてくれて、テーブルに湯呑を三つ置いた。

 慎弥が複雑そうに眉を潜める。


「お前も参加するのか」

「いいじゃありませんか。あたしだって気になります」

「……だ、そうだ」


 はあ、と旧友が息を吐き、こちらをちらりと見る。俺はそれに頷いた。


「うん、私は構わないよ」


 この面子だと世間話より俺の近況報告になるだろうし。

 俺は慎弥に先日の礼をあらためて述べると、話せること話せないことを頭の中で整理しつつゆっくりと語った。

 前回同様、紗羅の体質や俺の女性化については伏せ、それ以外だけを。


 紗羅の体調は回復しつつあること。深香さんの来訪。真夜との再会。それから俺が魔力の扱いについて特訓を始めたこと。


「魔法! 悠奈先輩、使えるんですか?」

「あはは、まだそこまでは行ってないよ。まだ教えてもらう準備段階」

「……それはそうだ。そんなに簡単に使われても困る」


 慎弥にとって、魔法とか魔術というものは長年の研鑽と鍛錬によって習得されるべき技術であるらしい。それを特別な家系の子供ならまだしも、その辺の高校生にほいほいマスターされてはたまらない、と。


「家の人も似たようなこと言ってたよ。本当は基礎からかなり苦労するものなんだ、って」

「その通りだ」


 うんうんと頷き、お茶を啜る。やっぱりこういう話になると慎弥は生き生きする。


「でも、そうすると不思議ですね」


 俺の隣に腰かけた澪ちゃんが首を傾げた。


「悠奈先輩のお家って、魔術師とか霊能者の家系なんですか? 特にそういう話は聞いた覚えがありませんけど」

「え? えーと……さあ?」


 そこまでは聞いていない。話してくれない以上、理由があって秘密なのだろうという認識だった。杏子さんや世羅ちゃんが普通の人間だ、みたいな話は紗羅から聞いた覚えがあるけど。

 俺が曖昧な返事をすると、慎弥からじろりと睨まれた。


「それだ。悠奈に魔力の扱いをレクチャーしている以上、羽々音家が何らかの特殊な家柄なのは間違いないだろう。この際、そこは確認しておいた方がいいんじゃないか?」

「確認って、どうやって?」

「方法は二つある。直接的な方法と、間接的な方法だ」

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