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ゆりこめ ~呪いのような運命が俺とあの子の百合ラブコメを全力で推奨してくる~  作者: 緑茶わいん
二章 俺と彼女と天使の企み

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特訓

「ひぅっ……」


 つん、と。

 深香さんの指が――首輪の宝石を軽く叩いた。

 次いで右手首、左手首と順に枷に埋め込まれた宝石に指が触れていく。すると、深香さんの指が触れた宝石がぼんやりと光を放ち始める。


「あれ……?」


 想像していたのと違う展開だった。

 なんか、普通の作業っぽい?


「だから、すぐに済むって言いましたよ?」

「あ、ああ……」


 心配して損した。

 そりゃそうだよな。これは一応、杏子さんから依頼された仕事なわけで。私利私欲のために全然関係のないことを始めるはずがない。

 ほっとして胸を撫で下ろす。と、


「ぁぅっ!?」


 にっこり微笑んだ深香さんの指が、軽くお腹を撫でていった。意識を外した瞬間の刺激に思わず声が漏れてしまう。

 ……やっぱ駄目だこの人。

 むっとして睨みつけるも、その時にはもう深香さんは真面目モードに戻っていた。更に鞄から取り出した板状のものを見つめ、何やら目を見開いている。


「……へえ。これは」

「何かわかったんですか?」


 俺がいる位置からでは板の表面は見えない。なので何もわからないのだが。


「ああ、いえ。……悠奈さんの魔力量は、私より少し多いくらいみたいですね」


 ああ、それで驚いていたのか。どうやらあの板は魔力の計測器だったらしい。四肢と首の宝石から情報を受け取っている、ということか。


「それって、凄いことなんですか?」

「いいえ。並程度、いたって普通の量です。特訓に支障はありませんけれど」


 ……なんだ。

 実は俺にはすごい能力が、とかを一瞬期待したのだが、さすがにそんなうまい話はなかったらしい。

 まあ、少ないって言われるよりはマシか。


「では、次に適性を調べましょうか」


 適正とは、要するに魔力をどんな用途に使うのが向いているか。火をつけるとか水を操るとか『四元素』やら『五行』にまつわる適性が主になるため『属性』と言い換えることも可能らしい。


「で、適性を調べるにはまた道具が必要になるんですが……」

「……もう驚きませんからね」


 ジト目で言うと、深香さんは「それは良かったです」と微笑んだ。

 彼女が鞄から取り出してきたのは、いわゆるアイマスクと、何やら口を塞ぐための器具。それから手袋というか、グローブ的なものが四つ。


「それは何に?」

「視覚と言語を封じ、四肢の自由を奪います。余計な感覚を封じれば封じるほど、他の感覚に意識を向けやすくなるのです」


 それが自身の魔力にアクセスする助けになるのだという。


「……なるほど」


 何となく理屈はわかるような気がするので、素直に従うことに。

 まずアイマスクで視界を塞がれ、その上で口にも枷を嵌められる。どうやら呼吸はできるようだが、これで物を見ることも喋ることもできなくなった。


「さあ、いったん手枷と足枷を外しますよ……?」


 後ろに回り込んだ深香さんから耳元で囁かれ、びくっとした。直後、四肢の拘束が一つずつ外されて、グローブを嵌められていく。


「拳は握った状態にしてくださいね。そのまま手首を絞りますから」


 指を開けなくされた状態で再び椅子の足に拘束された。足先も同じようにグローブを被せられて固定される。

 これでもう、殆ど完全に自由を封じられた状態だった。

 暴れれば椅子ごと床に倒れられるが、変なことされてもくぐもった声しか出せないし、碌に抵抗もできない。

 ……これで訓練じゃなかったら本気で恨んでやる。


「さあ、それでは、呼吸を楽にしてください」


 再び囁き声。視覚を封じられたせいか、その声に自然と意識が向く。


「そう。私の声だけに集中してください。それ以外のモノは何も聞かなくて構いません」


 ふっと頭の中に霞がかかったように、意識が現実から遠くなる。僅かに聞こえていた生活音がカットされ、本当に無音の状態。


「ゆっくりと自分の内側に沈んでいきましょう。身体は楽に、そう、水の中を揺蕩うように。でも、不思議と冷たくも苦しくもありません。ただ、全身の感覚だけを手放して……」


 深く、深く沈んでいく。

 あるいは浮いているのか。腕や足の感覚がはっきりしなくなり、ただ包まれているような、曖昧な安堵感だけが残る。

 なんだか気持ちがいい。

 朝、微睡みに身を任せている時や、自覚しながら夢を見ている時のような。


「今度は心臓の音に集中しましょう。吸って、吐いて。一定のリズムで呼吸しながら、とくん、とくんと心臓が動く音を聞いてください」


 呼吸。そうか、呼吸をしなくては。

 言われた通り、一定のリズムで呼吸を繰り返す。鼻腔から空気が通り抜けていくたびに鼓動が落ち着き、代わりにはっきりと感じられるようになる。

 とくん、とくん、とくん……。

 決して止まることのない脈動。人間の生命の源。そこから力が送り出され、また帰っていく。


「力の流れが感じ取れますか?」


 言葉が使えないので、こくんと頷く。


「はい。では、今度は流れていく力の方に意識を向けて。そうすると、体内に『流れていない力』があるのに気づくはずです」


 流れていない力。

 心臓から全身を巡るのとは別に、体内に宿る力。

 あった。身体のあちこちに、心臓から繋がる管を通らずに残るエネルギー。

 けれどそれらは仮想の管によって全身に繋がっている。


「よくできましたね。その力が魔力です」


 これが、魔力。

 暖かいような、冷たいような。

 大きいような、小さいような不思議な何か。


「では、本番です。これからわたくしが囁くものを強く思い浮かべてください」


 そう言って深香さんは次々と単語を囁いていく。

 燃える炎。思い浮かべると身体が火傷しそうな程に熱くなる。

 冷たい水。火照った顔に、コップ一杯分ほどの水がかけられるような感触。

 流れる風。ふわりと、かすかに髪が舞い上がる。

 固い石塊。ごとんと床に何かが落ちる。

 ――その他、いくつもの単語が囁かれ、そのたびに小さな現象が起きる。そして体内の魔力が少しずつ消えていく。

 魔力は生命エネルギーの余剰分、って話だったけど、消費するたびになんだか疲れが溜まっていく。


「はい。終わりです。魔力から意識を離し、肉体に戻ってきてください」


 そう言われ、アイマスクが解かれた時にはずっしりとした疲労感があった。

 続いて口枷が外されると、思わず深い吐息が漏れた。


「体調は大丈夫ですか?」

「はい。なんか凄く疲れましたけど……」

「慣れない活動をしたのだから当然ですよ。例えるなら二百メートル走を間髪入れずに何回も繰り返したような……ああ、汗もだいぶかいてらっしゃいますね」

「ああ、なんとなく納得です」


 首輪や四肢の拘束を解かれながら視線を下に向ければ、確かに汗をかいている。ついでに腹部が何やら濡れているような。もしかして、水を思い浮かべた時の? ということは石ころとかも――。

 ばっ、と床を見ると、残念ながらそこには何もなかった。


「ああ、悠奈さんが魔力を解いたので生成物はもう消えてますよ」

「なるほど」


 だから消えた……ってことは、有ったのは有ったのか。

 俺が水やら石ころを生み出したと思うと、なんだか微妙に達成感があった。まあ、実物がないから実感はあまり湧かないが。

 ただ、着替えた意味はあったみたいだ。

 と、各種器具を片づけた深香さんがふっと息を吐いた。


「んー……どうやら、燃えにくい衣装の方が必要だったみたいですね」

「へ?」


 それって……?

 彼女の顔をじっと見つめると、にっこり微笑まれた。


「悠奈さんは火の扱いに適性があるようです」

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