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ゆりこめ ~呪いのような運命が俺とあの子の百合ラブコメを全力で推奨してくる~  作者: 緑茶わいん
二章 俺と彼女と天使の企み

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31/202

澪と部活

 紗羅によれば、普段通り俺の精気を吸っていたら突然吸収量が増えたのだという。そのせいで少しだけ吸いすぎてしまい、俺は意識を失ったらしい。


「凛々子さんに診て貰ったら、眠っているだけだって言われたから大丈夫だと思うんだけど……調子は悪くない?」

「ああ、大丈夫。心配かけてごめんな」

「ううん、悠奈ちゃんが大丈夫ならそれでいいの」


 ほっと胸を撫で下ろす紗羅。それを見ながら思う。

 ……やっぱり、変に意識しすぎるのは良くないな。

 吸収量の増加について、紗羅は意図していないという。となれば原因として考えられるのは俺の側だ。余計なことを考えていたせいで興奮して、自分から紗羅に精気を流してしまったとか、そんなところだろう。

 一晩眠ったおかげで気持ちも落ち着いたので、心を入れ替えて生活に臨むことに。


 体調も問題ないので普通に朝食を取り、凛々子さんに心配をかけたことを謝ったうえで学園へ登校した。

 授業は何事もなく、あっという間に放課後。

 土曜の今日は半日授業なので、時刻はまだお昼である。


「紗羅、ご飯はどうする?」

「特に用事が無ければ、帰ってからでいいんじゃないかな」

「それもそっか」


 クラスメートたちと挨拶を交わし、紗羅と連れ立って教室を出た。

 廊下を歩き、階段を下りて昇降口に差し掛かると、そこで横手から声をかけられる。


「悠奈先輩、紗羅先輩」

「澪ちゃん、今帰り?」


 一年生の黒崎澪ちゃんが小走りに駆け寄ってくる。学校内なので当然、ゴスロリではなく制服姿だ。

 彼女は俺の問いかけに、軽く頬を膨らませて答えた。


「まだ帰りません。お二人とも、偶には部室に来てください。あたし一人じゃ寂しいじゃないですか」

「あー」


 俺と紗羅は、真夜との戦いに協力して貰った縁で、彼女の所属する『神霊現象研究会』という部活に入部している。けれど、部室には入部したときに一度行ったきりだった。澪ちゃんはそれに文句を言いに来たらしい。

 まあ確かに、言いたくなる気持ちもわからなくはない。何しろ、俺たちが入部するまでは澪ちゃん一人の部活だったのだから。


「ごめんなさい、まだ色々と忙しくて」


 申し訳なさそうに眉を寄せた紗羅が、澪ちゃんに軽く頭を下げた。

 忙しかった、というのは言い訳っぽいが嘘ではない。俺も紗羅も転校後の生活に慣れる必要があったし、紗羅の消耗も回復しきっていなかったから。


「あ、いえ。それはもちろん理解していますので」


 澪ちゃんの方もおおよその事情は知っている。頭を下げられた彼女はわたわたと慌てた様子で手を振ってみせた。

 ……とはいえ、あまり不参加が続くのも良くないか。

 手を止めた後、しょぼんと肩を落とした澪ちゃんを見て、俺はそう思った。


「紗羅、せっかくだから部室に寄っていこうか?」

「……うん、そうだね」


 提案すると、紗羅も微笑んで頷いてくれた。


「本当ですか?」

「うん」


 ぱっと顔を輝かせた澪ちゃんに答えて、俺はまず凛々子さんに連絡を入れた。お昼を食べてくること、部活に参加してから帰ることを伝えて了承をもらう。

 それから、三人で連れ立って購買へ。


「へえ、こんな風になってたんだね」

「あ、お二人はお昼お弁当なんですね」


 などと会話しつつ、食堂に併設されたそこで軽食類を買い求め、それから神霊研の部室へと移動した。

 部室は三階の奥、あまり使われない一角にある。元は資料室か何かだったらしく、スペース的には教室の半分程度。そこに本棚やらテーブル、椅子が雑然と置かれている。備品の殆どは過去の部員が残していったものらしい。


「澪ちゃん、ポット借りるよ」

「はい、どうぞー」


 お湯が使えるかどうかは事前に確認済みだった。俺はお湯を沸かすと、カップのきつねうどんにお湯をそそぐ。後は五分待てば完成である。

 思えば、インストタント食品を食べるのも久しぶりだ。


「カップ麺なんて、身体に良くないと思うけど」

「んー、でもきつねうどんの誘惑には抗いがたくて」


 せっかくの機会を逃したくなかったのである。

 すると澪ちゃんがくすっと笑い、


「悠奈先輩は、天ぷらより油揚げ派なんですね」

「うん。味噌汁だったら豆腐と油揚げが一番かな」

「あー。あたしはお豆腐と大根のお味噌汁が好きですね」


 大根か。火を通すと甘くなって美味しいんだよな。


「紗羅先輩はどんなお味噌汁が好きですか?」


 そこで澪ちゃんは紗羅に話を向ける。買ったばかりのサンドイッチの包装を開けていた紗羅は「私?」と顔を上げる。


「そうだなあ……バターの入った豚汁とか?」

「……紗羅、それを『味噌汁』のカテゴリに含めるのは邪道だと思う」

「同感です」


 豚汁は豚汁だ。広義の味噌汁にはまあ、カテゴライズされるだろうが、微妙に反則感が否めない。


「そ、そうなの?」


 俺たちから口々に否定された紗羅は困惑気味だった。そもそも羽々音家ではあまり和食の類が出ないから、この話題は鬼門だったのかも。

 話題を変えよう。


「ところで、この部って普段は何をしてるの?」


 五分経ったので蓋を開け、麺をかき混ぜつつ尋ねる。

 澪ちゃんは「色々ですよ」と、おにぎりを口に運びながら答えた。


「小説を読んだり、資料を調べたり、グッズのお手入れをしたり。あとはイラスト書いたりしてる時もありますね」

「あれ、ここって文芸部か何かだっけ?」

「神霊現象研究会ですよ?」


 例えば小説ならホラーだったり伝奇だったり。資料というのは各地の民話とか怪奇現象のデータだし、イラストは素人にも親しみを持ってもらうための方策なのだとか。


「来年は是非とも新入部員を獲得したいので」

「ふふ、頑張ってるんだね」

「はい! ……まあ、グッズを買うのにアルバイトをしているので、毎日は活動できてないんですけどね」

「欲望に忠実だね」

「う。……で、でも、私のコレクション、役に立ったじゃないですか」


 何の気なしに呟いた感想が堪えたらしく、じっと見つめながらそう言われた。うん、もちろんそれは感謝してる。


「相手の悪魔も驚いてたよ。予想外に効いたみたいで」

「ですか。ふふふ、あたしの目利きも捨てたものじゃないですね」


 どうやら機嫌を直してくれたようでほっとする。

 と、紗羅が「そういえば」と声を上げた。


「あのアイテムはどこで調達したの? 結構集めるの大変だったんじゃ」

「んー。手間はかかってますけど、ルートは普通ですよ? 骨董品のお店とか、雑誌に載ってる通販ページとか、神社とか」


 だからお気になさらず、と澪ちゃんは言う。


「でも、元手もかかってるんじゃ」

「いいですよー。お蔭で部員と生のお話をゲットできましたし」


 そう言われると無理に代金を支払うのも変な感じだ。俺と紗羅はせめてもう一度、澪ちゃんに頭を下げることにした。


「ありがとう、澪ちゃん」

「いえいえ。……あ、そういえばまだご入用だったりしますか? もし必要ならまた調達しておきますけど」

「ああ……うーん、どうなんだろう」


 真夜には勝ったものの、完全に倒したわけではない。またどこかで顔を合わせることもあるかもしれないし、その時逆襲される可能性はある。

 そう考えると、武器はあるに越したことはないかもしれないが。

 ……ふと、思うところがあって、俺は澪ちゃんの申し出を保留にさせてもらった。


 食事を済ませたらしばし雑談に耽り、部室を後にする。


「そうだ。これ、持って行ってください」


 帰り際、澪ちゃんは俺と紗羅に部室の鍵を渡してくれた。作ったはいいが渡す相手がいなくて困っていたのだと、苦笑しながら言う。

 今度からは定期的に顔を出してあげるようにしようと、そう思った。

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