ショッピングでWデート?
「なあ紗羅、ここ、高そうな店が多くないか?」
「そうだね……」
深香さんの来訪からしばし。
俺たちがコートの購入に繰り出した先は、いつものモール……ではなく、衣料品を扱う店が並ぶ繁華街だった。
客層のせいかモールに比べると人が少なく歩きやすいが、高校生が中学生連れで来るにはちょっと敷居が高そうな店も多い。というわけで、言うまでもなく場所のチョイスは深香さんである。
俺と紗羅、そして世羅ちゃんは深香さんの運転する車でここまでやってきたのだった。車は近くの駐車場に停めてあるので、帰りも楽である。
「でも、コートを買うなら丁度良かったかも。せっかくだから良い物を買っちゃおうか」
「……そうだな」
そう頻繁に買い替える物ではないので、しっかりした品を買うのは一つの手だ。品質の見極めは紗羅に任せれば間違いはないだろうし。
と、そこで俺たちはくいくいと袖を引かれた。やや困り顔で付いてくる世羅ちゃんだ。
「あの、勢いで付いてきちゃったけど、やっぱりお邪魔じゃ」
「……いや。深香さんも一緒だから、むしろいてくれた方が助かるかな」
「本当ですか?」
首を傾げつつ見上げてくる彼女に、紗羅も微笑む。
「うん。私、あの人ちょっと苦手だし」
視線を向けた先には、少し前に立って俺たちを先導する深香さんの姿。
――しばらく屋敷に滞在する、俺たちの買い物にも付いてくる、と言った深香さん。俺たちはあのあと一応、彼女の真意を問いただした。
すると彼女はにっこり笑ってこう答えた。
「皆さんと……そう、世羅ちゃんや悠奈さんともっと仲良くしたいからです」
だから屋敷に滞在し、俺たちと行動を共にするのだという。突然だが、大学生だから平日でもある程度自由がきくし、いざとなれば車があるので生活的には問題ない、とのこと。
「ああ、もちろん杏子さんかも許可は貰いましたよ?」
二人の会話に同席していた凛々子さんからも証言は取れた。杏子さんが許可を出したというのなら、俺たちが強硬に反対することもできない。
まあ、そもそも強く反対するほどの理由も現状ないし。車を出してくれたのは正直有り難いわけで。
「ええと、まずは悠奈さん達のコートでしたよね」
「そうですね」
「わかりました。では、じゃああの辺りはいかがでしょう」
速度を落とし俺たちと歩調を合わせた深香さんは、軽く頷いて一軒の店を指さす。大学生となるとこういう所にもよく来るのか、慣れた様子だ。
杏子さんの妹の娘さん、ってことは、彼女も割とお嬢様なのだろう。
「ついでに世羅ちゃんの服も見ましょうね?」
「は、はい」
ということで、入店するとすぐ、彼女は世羅ちゃんの手を引いて歩いていく。どうやら服を見繕ってプレゼントするつもりのようだ。
世羅ちゃんの方もどうしていいか困り顔でもあるものの、悪い気はしないのか複雑な笑顔で引っ張られていく。まさにお節介な親戚のお姉さん、って感じである。
とりあえず二人は放っておいて大丈夫そうかな。
「じゃあ、俺たちも探すか」
「うん」
コート類の置かれたあたりに移動し、端から眺めていく。ふわふわと暖かそうな衣装が並ぶ様はなんだか壮観だ。
……って、予想はしてたけど、値札見ると遠い目をしたくなるな。
コート自体の価格層が高めなうえ、店も良い感じの所だからそれはそうなる、というものである。
しかし、紗羅はもう気持ちを切り替えたのか楽しそうに物色している。
「暖かそうなのがいいよね」
「ん。本格的な冬になっても使えそうなやつの方がいいな」
ついでに、できれば可愛すぎないやつを、とは思うものの、さすがにそこまで望むのは難しいか。女性物で可愛くないデザインとなると、逆に格好良くなるか、さもなければ単に地味で見栄えがしなくなる。
紗羅の隣に並ぶのにパッとしないデザインは避けたいし、格好いい品を着こなす自信は現状ない俺である。
しばし店内を歩き、目に着いた品を触ってみたり、裏地の肌触りを確認したりするうち、不意に紗羅が俺に提案してきた。
「ね、悠奈ちゃん。お互いのコートを見立てるのはどうかな?」
「……なるほど。それはいいかも」
自分の生殺与奪件を委ねる代わりに、紗羅に似合う衣装を見立てられる。悪くない条件だと思う。
俺はその条件を了承し、真剣にコートを見定める。
……紗羅が着るのとなると、ちょっと探し方を変えないとな。できるだけ可愛くて、あったかそうなやつにしたい。コートなら露出度が高くなるわけはないから、男たちにエロい目で見られる心配もないし。
これからの時期に使えることを考えるとある程度長めのコートがいい。
あんまり突飛な色にすると着合わせが限られてくるから、色は遊び過ぎないように。紗羅に似合う色っていうと……やっぱり黒か。
翼を帯びた紗羅の姿を思い出す。特にあの黒い羽毛の翼は綺麗だった。
あれをイメージすると、黒一色じゃなくて白とかグレーのアクセントも欲しいな。もこもこしてて、身体を包み込む感じで、でも動きにくくないやつ。
……これかな。
しばし思案した後、俺が見定めたのは白と黒、色違いで陳列されたコートだった。
当然、紗羅に似合うと思うのは黒いほう。首元と袖口、下端に薄いグレーのもこもこしたワンポイントが入っていて、触ると柔らかな感触だが見た目は意外とスリムで、裏地の触り心地も悪くない。
「悠奈ちゃん、決まった?」
「ん、ばっちり」
紗羅が喜ぶか、驚くかしてくれるといいけど。
思いつつ、紗羅と「せーの」で意中のコートを持ってくることに。
「せーの」
合図と共に、俺は振り返って先ほどのコートを手に取り――。
隣の色違いを手に取った紗羅と目が合った。
「あ?」
「れ?」
お互い、相手の持ったコートをまじまじと見つめる。
紗羅が手に取ったのは、先ほどちらっと見た通り、俺が手にしたコートの色違い。白地に濃い灰色のワンポイントが入ったもこもこのコートだ。
「紗羅が選んだのって、それ?」
「悠奈ちゃんこそ」
……うん、なんていうか。びっくりした。思ってたのとはだいぶ違う方向性だけど。
「お……私が着るには可愛すぎない、それ?」
「それを言ったら、私が着るには格好良すぎないかな?」
じーっと見つめあって、二人ともすぐに噴き出した。
何がおかしかったのかって聞かれると、難しいけど。
「観念するしかないか。自分のセンスにケチ付けるようなものだし」
「そうだね」
笑いあったあと、一応試着して二人分のコートをレジに持って行った。
「すぐに着ていかれますか?」
するとそう聞かれ、顔を見合わせあって迷う。結果、まあ割と軽装だったこともあって着ていくことにした。
……うん、あったかい。店内で着てるとさすがに暑いな。
「良くお似合いですよ」
でも、店員さんにそう言って貰えたので着た甲斐はあった気がする。
さて、世羅ちゃんたちは……あ、いた。深香さんが世羅ちゃんを着せ替え人形のごとく、服をとっかえひっかえ当てている。
「お姉ちゃん、悠奈さん、助けて」
「あ、二人ともちょうど良かった。これとこれ、どちらが世羅ちゃんに似合うと思います?」
傍に寄ると同時に言われ、俺たちはそれぞれに思案して――。
「こっちかな」
「うん、私も」
深香さんの掲げた服の一方を同時に指さした。
「裏切り者~っ」
世羅ちゃんが恨めしそうに声を上げ、深香さんは俺と紗羅の姿へ交互に目をやり、ふっと微笑みを浮かべていた。




